合同ヒーロー訓練

「おう、イレイザー。そりゃあれか、士傑高校との合同訓練か」

 放課後――プレゼント・マイクの問いに「ああ」と、相澤は書類を見たまま答える。

「いつもは二年生からだが、今年はUSJヴィラン襲撃事件に体育祭での活躍と一年生希望でな」
「それで人選に悩んでるってわけか」

 本来なら分かりやすく体育祭の順位などで選抜するが……。(爆豪、あいつはダメだ。他校と確実に揉める)
 現に勇学園との合同訓練は、爆豪と藤見との軋轢がきっかけに多くの生徒が怪我をするなど、多大な被害が出て相澤は始末書を提出したばかりだ。

(轟は実力的にも悪くねえし、他校といざこざを起こすような性格でもねえが……)

 士傑高校といえば『東の雄英、西の士傑』と評されている名門校だ。
 自由で最先端をいく雄英高校とは対照に、規律と伝統を重んじる厳格な学校である。

(あいつは誤解を生みやすい所があるからな。ここは……安全牌を取って)

 実力、常識共に持ち合わせ、他校に代表として行かせられる人選――。

「……ま、この4人がベストか」


 ***


 ……――中間テストを間近に控える、とある日。

 制服姿にコスチュームの入ったスーツケースを持って、職場体験に行く時と同じように私はターミナル駅にいた。

「くれぐれも、あちらの学校に失礼のないように。その為の人選だと忘れるなよ」
「「はい!」」

 天哉くん、八百万さん、常闇くんと共にしかと返事をする。
 士傑高校との合同訓練の人選に選ばれたと知らされたのは、まさかのつい昨日だ――……


「突然だが、明日、こちらで人選した4名は士傑高校との合同ヒーロー訓練に参加してもらう」
「「(本当に突然過ぎる……!!)」」

 朝のSHRでさらりと相澤先生は告げた。突然とかいきなりとか好きだよね……雄英。

「飯田、八百万、常闇、結月――」

 呼ばれた名前には私も含まれていて……

「呼ばれた者は詳しく説明すんから、放課後は職員室に来るように」

 相澤先生の言葉の後に「いいなぁ」と、周囲から声が上がる。

「んでクソテレポが……!!」
「え、納得の人選でしょ〜」爆豪くんよりは
「アァ!?自分で言うなやてめェは!」
「まァ爆豪は他校に行かせられねえよなぁ」
「絶対揉めんよな」
「ンだとコラ!!」

 瀬呂くんと上鳴くんの言葉に、他の皆も同意するように頷く。実力が確かでも、面倒ごとが嫌いな相澤先生は絶対に選ばないだろうなぁ、爆豪くんは。


 ……こうして選ばれた私たち四人は、これから新幹線で西へと向かう。

「皆!選ばれた限りは雄英生として誇りと恥じぬ活躍をしよう!」
「確かに…。私たちは代表のようなものですしね」
「御意」
「了解、委員長」

 まあ、いつも通りしていたら(この人選なら)大丈夫だと思う。士傑高校は東の雄英、西の士傑と評される雄英に匹敵する名門ヒーロー校だ。

(どんな人たちがいるか楽しみ!)


「雄英の皆さんと合同訓練が出来るなんて楽しみすぎて、自分昨日は眠れなかったっス!!!」
「「……!?」」
「今日は!よろしくお願いしまっっス!!!」

 ――いきなり熱烈な歓迎を受けた。(声でかっ!?)騒がしいのが嫌いな常闇くんがめっちゃしかめっ面している。

「夜嵐……雄英の皆さんが自己紹介できないだろう……」

 先生に夜嵐と呼ばれた男子生徒は「失礼しましたァァ!!」と、勢いよく頭を下げて、ゴンッと机に激突した。……えっ、大丈夫……?

「じゃあ、雄英の皆さん自己紹介を」

 あ、スルーして進むんだね……。

「この度は実習に参加させて頂くことになりました、雄英高校ヒーロー科1年A組、飯田天哉と申します!宜しくお願い致します!」

 模範のような完璧な自己紹介をした天哉くん。その後は百ちん、常闇くん、私と続く。

「同じく、八百万百と申します。今日はどうぞ宜しくお願いします」
「常闇踏陰です……宜しくお願いします」
「初めまして、結月理世です。今日は宜しくお願いします」

 愛想よく笑顔を浮かべて挨拶した。全員の自己紹介が済むと、歓迎するように拍手が響く。(やっぱりちょっと雄英の雰囲気と違うかも)

「では、委員長と副委員長は皆さんを更衣室にご案内して、全員ヒーローコスチュームに着替えたら訓練所に集合だ」

 男女に別れて更衣室で着替えながら、士傑の皆さんと交流する。

 普段どんな訓練を受けているとか、中でもNo.1ヒーローのオールマイトの授業が気になる生徒は多かった。

 お互いの制服を褒め合う辺りは、普通の女子高生と変わらない。

「さっきの夜嵐くんって声の大きい子。雄英の推薦入試受けてたんだよ」

 その言葉に「どこかで見かけたことあると思いましたわ……」と、思い出す八百万さん。もしかして……

「トップの成績で合格したのに辞退した人って……」
「たぶん彼。どうして辞退したかは教えてくれないから分からないけど……」
「何か、深い事情がありそうですわね」

 八百万さんの言葉に確かに、と同意する。とりあえず、あの歓迎っぷりに雄英にわだかまりがあるようには見えなかったから、お家の事情とかかなぁ。


 実習訓練は4チーム一組になって、野外で行うサバイバル戦であった。


「っすごい……暴風ですわ……!」
「近づけん……!!」
「飛ばされる〜!」
「まるで風神……!」

 順調に勝ち抜く私たちだったけど、その前に立ちはだかったのは、その夜嵐くんだ。
 入試一位だったというのも、すぐさま納得する。(さっきの繊細なコントロールから、こんな広範囲の暴風まで操れるのか……!)

 とりあえず、天哉くんの後ろに隠れつつ、何か対策を考えないと……!

「さすが雄英の皆さん!強いっス!!けど、負けないっスよ!!」

 この暴風でもはっきり聞こえる大きな声が高台から響く。
 そして、夜嵐くんは腕を上げた。まずい!

「……!」

 その時、ダークシャドウに支えられて、この暴風を堪える常闇くんを見て、ダークシャドウは影響を受けないのかと気づく。

 だったら――!!

「常闇くんっダークシャドウくんお願い!」
「まかせろ!ダークシャドウ!」
「アイヨ!!」
「!?」

 常闇くんと共に背後にテレポートして、風の影響を受けないダークシャドウの一撃が入る。

「飯田さん!今ですわ!」
「うおおお――……!!」

 風が止んだ隙に、八百万さんが"個性"で創り出したポールを片手に天哉くんは走った。

 ポールを地面に着く!

 棒高跳びの要領で飛び上がると、そのまま夜嵐くんの元に突っ込み、得意の蹴りで――

『TIME UP!!』

「「……!?」」

 まさかの時間切れ。天哉くんはすたっとそのまま高台へ華麗に着地した。

「「(!?何故ポーズ取ったし……!!)」」

 選手のように両手をピンと上に広げ。本人は「タイムアップとはくそぅ!」と、悔しがっている。(思わずポーズ取っちゃったのかな……)

「いや〜!!タイムアップとは残念っス!けど、さっきの攻撃は効いたんで危なかったスよ!」

 夜嵐くんは常闇くんとダークシャドウに握手を求めていて、常闇くんは「もうちょっと静かに喋れないのか」と、はっきり本人に言っていた。

「体育祭観てたっスけど、実際に目の当たりにすると目で追えないっスね!!すごいっス!!」
(空間移動だからね……)
「さすがテレポートガールっス!!」
「あ、ありがとう」

 握手を求められて握ると、がしっと熱く握られた。手も体も声もでかい。(切島くんと鉄哲くんと気が合いそう……熱血)

「俺、雄英大好きっスから!皆さんと今日戦えて楽しかったス!!」

 夜嵐くんはニカッと笑う。

「ああ!それは俺たちもだ!」
「ええ、良い経験と勉強になりましたわ」

 続けて夜嵐くんは豪快に笑う。そんな彼が雄英を辞退したことが気になったけど、結局聞けず仕舞いで、士傑高校との合同訓練は終了した。


「……しかし。声のでかい、うるさい男だった」
「うむ。"個性"もだが、夜嵐くんの熱血っぷりも凄まじかったな」
「帰ったら今回の訓練、レポートで提出しないとだっけ」
「皆さんにもどんな内容だったかお話ししないとですわ」

 あっという間に士傑高校ともお別れ――……

「あっ、いたいた!その制服、雄英校のブレザー、マジリスペクト〜!」
「「………………?」」

 いきなり謎テンションの女子生徒が追いかけてきて、話しかけられた。(ギャルっぽい……?)

「今日、雄英生が合同訓練にやって来るってこれもうエンカしなくちゃじゃん?」
「「………………?」」

 エンカ……?(あ、エンカウント?)

「ヤバ感激〜遠くからマジおつおつ」
「「……………………」」

 三人が一斉に私を見た。待って、私にもちょっと通訳無理な気がする!

「えっと……ちなみにどちら様で……」
「雄英女子二人ともレベル高っ!顔がいい!きれかわ!」

 なんかストレートに褒められた!

「あたしは現見ケミィだよん。士傑高校2年。ケミィって呼んでー」
「先輩でしたか……!」

 まさかの。年上だと知った瞬間、天哉くんが動揺しているのが面白い。

「ケミィ!!そんなとこにいたのか!」

 今度は怒声が響いた。何やら細目の男子生徒がプンスカと怒っている。

「やっば!肉倉マジ激怒?じゃ、あたし逃げなくちゃ」
「「(逃げるんだ……)」」
「じゃねー!」

 ブラウンのセミロングヘアーを揺らして、逃げるように駆けて行くケミィ先輩。私たちはポカーンと、その後ろ姿を見送った。

「何を言ってるのかよく分からなかったな……」
「士傑高校には厳格なイメージがあったが……」
「色んな人がいるんだねぇ」
「不思議な人でしたわね……あれはどこの方言なのでしょうか……?」
(方言……!)


 不思議に思いながらも、私たちは今度こそ士傑高校を後にする。



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