坂口安吾のお取り寄せの世界

 個性特務課――参事官補佐、坂口安吾。
 彼には新しく趣味が出来た。

「やあ、坂口くん」
「お疲れさまです」
「今度、先方に手土産を持って行かなければならないんだが、何かおすすめはないかな?」
「それならお取り寄せはいかがですか?最近、私まってまして」

 きっかけは、理世との生活も落ち着いた頃の他愛ない会話からだ。

「このバームクーヘン、おいしそう」

 何気なく無邪気に言った理世に、安吾はほう…と、視線をパソコンからテレビに移す。

「お取り寄せで人気があるみたいですね……頼んでみましょうか」

 うんっと嬉しそうに頷く理世に、安吾はネットを開くと手早く購入手続きをする。
 人気なため、届くのは一週間後になるらしい。

 楽しみだね、と二人は笑い合った。

 届く楽しみに、食べる楽しみ。
 最初は理世が喜ぶなら……という理由だったが、いつしかそれは安吾の趣味になっていた。

(冷凍のカニですか……今の季節、鍋に良いですね)

 指先一本で頼める便利さ。甘いお菓子や、ご当地グルメ、食材もチルドで新鮮なものがいつでも届く。

 忙しい彼のライフワークに、非常に合っていた。

「……安吾先輩、真剣にスマホ画面見てどうしたんすか?」
「最近、冷凍食品を頼んでいるので、冷凍室がいっぱいになってしまって……冷凍室だけを買おうかと思ってまして……」
「へぇ〜どれどれ……って、業務用じゃないすか!?どんだけ冷凍品入れるんすか!?」
「理世ちゃんと二人なんですね……?さすがに業務用はいらないのでは……」

 真剣に悩む安吾に、護衛二人がすかさずつっこんだ。


「――あっ、今日って配達が届くの忘れてた」

 早く帰らないと。武装探偵社で宿題をしていた理世は、勉強道具を急いで鞄にしまう。

「あ、お取り寄せ?」

 谷崎の言葉に「うん」と、理世は答える。

「今日はカニが届いて、カニ鍋にしようって……」

 蟹……!その言葉にいち早く反応したのは太宰だ。

「待ちたまえ、理世」
「太宰さん?」
「何か忘れていないかい?」

 太宰の言葉に、理世は今まで勉強していた場所を見渡す。忘れ物はない――「太宰さんを蟹鍋に誘うということを!!」

 理世が口を開く前に、太宰が先に正解を口にした。

「あ〜そういえば太宰さん、カニ好きでしたね」
「私の好きなものの一つだよ」

 あとは酒と味の素とつけ加える太宰に、味の素って調味料の……?と、理世は不思議に首を傾げる。

「いいなぁ……寒い夜に蟹鍋……。今日は私、懐も寒くてね……」

「いつもだろお前は」

 国木田が呆れ顔で言った。

「やはり、鍋は皆でつついて食べるものだと思わないかい?」
「……弟子にたかる気満々だ、この人……」

 谷崎は萌え袖で口元を隠しながら、こっそり言った。

「じゃあ……太宰さんも一緒に夕飯ごはん食べますか?」
「可愛い理世のお誘いなら大歓迎だよ!」
「おい」
「働かざる者は食べるべからずというからね。私もちゃんと手伝うさ」
「いえ、それは大丈夫です」

 理世がきっぱり断ったのには、理由がある。以前、太宰の料理を食べて、安吾が記憶を失ったという話を聞いたからだ。

「じゃあ、私はきのこを持っていこう」
「見るからに怪しいきのこ!」
「裏の山道に生えてたやつ」
「太宰さんも懲りないですね!」

 太宰がその辺にあったきのこを食べ、ラリって周りが手をつけられなくなったのは記憶に新しい。

「うふふ。今度はちゃんと間違わずちゃあんと致死毒あるやつだよ」
「無理心中ぅー!!」


 〜ここからちょびっと某番組パロ〜


 チャンチャラチャララララララ〜♪

「今日のゲストは……あら。個性特務課の参事官補佐の方?そんな方がこの番組に来ちゃうの!?――じゃあ、呼んでみるわね。多忙の日々に手軽にできるお取り寄せにハマった男、坂口安吾さん」
「初めまして。お呼びいただきありがとうございます」
「あらやだ!お若い!でも、歳のわりに大学教授みたい!」
「よく、言われます(笑)」
「多忙の日々にってことは、ずいぶんお忙しそうで……」
「ええ。僕の"個性"もあって……馬車馬のように働かされてますよ」
「ちょっと働き方改革、内務省にも適用してあげてー!」

(安吾さん……!テレビ出演でも堂々としてる……!)

 この放送で真面目なキャラが受け、安吾は一部のネットで一躍有名人になったとか。



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