横浜市長の趣味――ごほん、意向で何かとイベントが多い横浜だけど。
イベントだけでなく、防犯週間にも力を入れてたりする。
今日がその日で、今回のテーマは、
「オレオレ詐欺」
一番の見所は、ヒーローグラヴィティハット事務所と探偵社による犯罪の手口や、防犯方法などを分かりやすく市民に伝えるための寸劇だ。
前回の交通安全がテーマで、煽り運転から身を守る方法では――……
『オラ!さっさと降りて来ねえと車が廃車になるぜ』
『頭を地面に擦り付けぬと僕の怒りは収まらぬ……!』
……と、中也さんと龍くんが本当にヒーローかな、と疑うぐらいの迫真の演技をしてみせて話題になった。(煽り運転をする輩にしか見えない)
今日は一緒に見学しようとルーシーちゃんと待ち合わせしているけど……
「あ、ルーシーちゃーん!」
「理世、こっちよ!」
手招きするルーシーちゃんの元へ駆け寄った。
「夏休みだから人がすごいわね」
「オレオレ詐欺だと、家族との関係性も大事たから夏休みにやるんだって」
人混みをかき分け、ステージが見やすい位置まで移動する。
「カナダにもオレオレ詐欺ってあるの?」
「日本みたいなオレオレ詐欺は聞いたことないけど、電話による詐欺はカナダにもあるわね。他には……最近だとベストフレンド詐欺とか」
「えっ何それ」
「結婚詐欺は聞いたことあるでしょ?それの友人バージョンね」
仲良くなってから金銭が必要な問題などを投げ掛けて「友達を助けたい」という心理につけ込むらしい。なんて卑劣な。
「人の良心につけ込む詐欺って本当許せない」
その方法もどんどん多様化して、この超人社会では"個性"に関するものも多い。
生まれもった"個性"に、悩む人々は多いから。
犯罪は分かりやすく目に見えるものだけではないので、警察やヒーローも手を焼く案件。だからこそ、自身の身を守る為にも、防犯意識を強くするのは大事なこと。
「そう考えると、このイベントって理に適ってるわよね」
「うん。話題性もあるし、参考にする地域も増えてるんだって」
ルーシーちゃんとそんな真面目な話をしていると「マイクテスト、マイクテスト」スタッフさんがマイクのチェックして、いよいよ始まるらしい。
『え〜本日は近年、犯罪の件数が増えている、"オレオレ詐欺"に遭わない為の心構えの講演になります』
司会は国木田さんだ。様になってる。
『まずはオレオレ詐欺がどんな手口か、実際に見てみましょう。とある一般宅に、詐欺電話がかかってきた、というところからです』
ステージの半分側、自宅のようなセットの方に現れたのは……
「「!?」」
まさかの福沢社長が登場……!?
「……あの社長が被害者役って、配役ミスじゃないかしら」
「絶対に引っ掛からなさそうだよねぇ」
武装探偵社の社長と知らない、その場に集まった人たちも同じように思っただろう。
いつもの和装で、腕を組み、静かに佇む姿は明らかにタダ者じゃないオーラが出ている。
『いいですか、皆さん。絶対に引っ掛からない、自分は大丈夫だと思っている人ほど危ういのです。詐欺は巧みにあの手この手で騙してくるので、決して慢心なさらずに』
国木田さんの言葉に、目を伏せた社長が静かに頷いた。
妙な説得力。
近くのご老人が「ほお……」と、感心する声をもらす。
「それで社長が被害者役に……」
「単に年齢的に一番近かっただけじゃないかしら」
考えられていると私も感心していたら、あっさりとルーシーちゃんが言った。確かに……。
電話がプルルルと鳴り、「はい、福沢です」社長は受話器を取った。
「お……オレ、オレだけど……」
観客に分かりやすいように、反対側のビルの一室をイメージしたセットに現れた犯人役は……
「おじいちゃん元気?」
敦くんだ……!
それっぽく見せるためか、なんかチンピラっぽい格好している敦くんだけど、オドオドした演技に良い人オーラが隠しきれてないよ!
「虎猫ちゃんが犯人役って、やっぱり配役ミスじゃないかしら」
「でも、これはこれでリアリティない?」
上京して来た純朴少年が、都会にはっちゃけちゃったところを悪い人と友人になってしまい、道を踏み外す――。
「……確かにそうね」
ルーシーちゃんは納得した。
「……オレ?」
「そ、そうそうオレ」
「……一太郎か」
「うん、一太郎だよ」
『このように、犯人が"オレ"と名乗るのは、本当のお子さんの名前を引き出すためです』
ちなみに何故「オレ」を装うのが多いかというと、女性より男性の声の方が電話越しだと分かりにくいとか。
「久しいな、一太郎」
「うん、久しぶり。じつは大変なことが起きちゃって……」
「大変なことだと……?」
「会社の小切手が入った鞄を失くしちゃったんだ……!」
「なんだと……!」
「今日中に何とかしないと大変なことに……!おじいちゃん、お願い!お金を貸してほしい!」
「それは大変だ……!分かった。用意しよう。いくら必要なんだ?」
深刻さを出すためか、ギンッと目を光らせて社長は言った。今まさに騙されているところとは思えないほど、迫力がありすぎる……!
『――これはほんの一例です。とにもかくにも、お金の話を出されたら詐欺を疑いましょう!』
国木田さんの言葉に「うんうん」と、周りにいるおじいちゃんやおばあちゃんたちが頷いた。
「えっと、30万円ほど……」
「……ふむ。それなら箪笥貯金にある。取りに来るといい」
「あ、じつは、ぼ……オレ、事故に合って今動けないんだ……」
「事故……!?大丈夫なのか!?」
いやいやいや〜ちょっと展開、強引過ぎじゃあ。
「一太郎はいつ鞄を失くしたのかしら……?」
「事故る前……?」
つっこみどころ満載なのは敢えてなのかも知れない。
「大丈夫!代わりにオレの上司の人が取りに行くからその人に渡してほしい」
「分かった。一太郎、体は大事にするのだぞ……」
「うん!ありがとう、おじいちゃん!」
何となく良い雰囲気で締めたけど、全然良い話ではない。
「一太郎くんの上司の者です……」
敦くんが退場して、代わりにそう現れたのは、スーツを着て眼鏡をかけた龍くんだ。
「……インテリヤクザしか見えないわね」
「敵っぽいヒーローならぬ、マフィアっぽいヒーローって言われてるから……」
中也さんと龍くんは。
『今回は上司でしたが、弁護士や警察、ヒーローを名乗る場合もあります。代理の者が来るという話にも警戒しましょう』
国木田さんの言葉に、素直に「うんうん」と、周りにいるおじいちゃんやおばあちゃんたちは頷いた。
他の手口も、同じような感じで何件か紹介する。
(今度は潤くんも登場した。下っぱチンピラっぽい)
数人のグループで行うと、オレオレ詐欺の実態を説明する際、黒幕役として中也さんが登場した。
「お前ら、今月のノルマを言うぞ」
……うん、マフィアにしか見えない。
「このチラシを電話の近くに貼ってくださーい!」
「あら、理世ももらったの?」
「記念に」
最後に、注意喚起のチラシを賢治くんが配り、受け取ったおじいちゃんやおばあちゃんたちはほくほく顔で帰って行った。
***
「今度は私も出演することに決まってね」
「太宰さんが出るなんて面白そうですね。何の役ですか?」
「私はこの役で、ぜひ理世にはこの相手役を……」
「絶対嫌です」