おいしい関係

 最近の私は、お弁当作りがマイブームだったりする。

「〜〜♪」

 今日のお昼は、女子皆でお弁当を持って外で食べようって事で、いつも以上に気合いを入れて作っていた。

「はいっ、安吾さんの分です」
「ありがとうございます。おいしく頂きますね」

 一人も二人も一緒なので、お弁当を作る日はもちろん安吾さんの分も用意する。

「じゃあ、行ってきます!」

 元気よく家を出ると、今日はお弁当を食べるのに絶好のお天気日和だ――。


「結月ーお弁当持ってきたー?」
「もちろん〜!三奈ちゃんは?手作り?」
「えっへへ!お母さんにちょっと手伝ってもらったけど、頑張って作って来たよ!」

 好きなおかずいっぱい入れて来たんだー。私も気合い入れて完璧な理想のお弁当を作ってきたよ!そんな三奈ちゃんとの会話に、

「おかず交換楽しみだよー!」
「シェフに今日のことを話したら、デザートを用意して頂きましたわ!」
「「やったー!」」

 透ちゃんと百ちんも加わり、予鈴が鳴るまで談笑する。

「HR始めるぞー。……今日は特にお知らせはないです。以上」
「「(早っっ!?)」」

 フリーダムな相澤先生のSHRはあっという間に終わって、必修科目の授業を受ける――。


「やあ!中間テストで赤点組が出たA組の皆さん!期末テストはベストを尽くしたかい?」
「「……!?」」


 授業と授業の合間の小休憩に、突然、物間くんがやって来た。嫌な予感しかしないなぁ……。

「B組の物真似野郎が何しに来やがった!?」

 さっそく物間くんの失礼な登場に、声を荒らげたのは爆豪くんだ。

「悪いけど、僕が用があるのは君じゃないよ」
「だったらとっとと用件言いやがれ!!」
「あれ……君は確か、青山くんだっけ?僕と若干フランスという要素が被ってる」
「僕のきらめきは唯一無二さ☆」
「無視すんなコラ!!」

 机に片足を乗っけてキレる爆豪くんに「爆豪くん!!机に足を乗せるのはやめたまえ!!」すかさず天哉くんの注意が飛んで「まあまあ落ち着けって爆豪」いつもみたいに爆豪くんを切島くんが宥る。

 一瞬で教室は騒がしくなった。物間くん、本当に何しに来たの……。

「結月さん、いるよね?」
「…………。(私かーい!)」

 うわぁ……。その言葉に、皆の視線が一斉に私に向く。教科書を広げて顔を隠した。

「結月いませーん。今日はお休みです〜」
「バレバレな居留守使うなよ!」

 失礼するよ、と教室にズンズン入ってくる物間くん。私の席までやって来て。

「結月さん!今日という今日こそ、この間のLRスペシャルランチの埋め合わせをしてもらうよ」

 またそれか……。仕方なく教科書から顔を上げる。(君、色素薄い系男子じゃなくてネチネチ系男子だったの)

「物間くん、何も今日じゃなくても〜」

 私、お弁当持って来てるし。

「そう言ってまた逃げる気だね結月さん!」
「「(いつも逃げられてるんだな……)」」

 どうやら、今日のメニューがこの間と同じフランス料理らしい。

「いい加減、自分の罪を認めたらどうだい?」
「罪って……」

 元を辿れば物間くんが絡んできたのが悪いと思うんだけど。一歩も引かなそうな雰囲気に……――ついに私は折れた。
 
「……分かった。いい加減めんどくさいから奢ってあげる」
「めっ……とにかくっ言質は取ったよ!じゃあまた食堂で!」
「「(あ、ちょっと嬉しそう)」」

 物間くんは清々しい笑顔を浮かべて、教室を出て行った。

「結月、何したんだ?」
「え、焦凍くんあの場にいたよね!?」

 よくでっくんが「普段はからっきし」って言われるけど、焦凍くんもじゃないかとちょっと思う。

「ほら、この間の台風の日のお昼に、物間くんが絡んできて〜〜」
「……ああ」

 思い出したらしい。話を聞いていた百ちんが「災難でしたわね……」同情の目と共に言った。

「そんな感じでごめん。私もみんなとのお弁当楽しみにしてたんだけど……」
「今日は残念ですが、またの機会を作れば良いですわ!」
「じゃあ、結月の分のデザートはアタシがもらうね!」

 三奈ちゃんの言葉に「取っておいて〜!」そう慌てて言ったら、女の子たちから笑い声が起こった。

(――あ、作ってきたお弁当どうしよう)


 ***


「あれ、物間はどこ行ったんだ?」
「理世にこの間のランチを弁償してもらおうと、A組まで押し掛けに行ったみたい」
「マジか」
「ん」
「――当然だろ。僕のスペシャルランチとすり替えたんだから」
「あ、物間。その顔は強引に取り付けたんだな……」
「お前、そんなに結月と飯食いたかったのか」
「っな、何言ってんだよ鉄哲!そんなわけないだろ!?僕は当然の賠償請求をしたまでで……!」
「はいはい」
「ちゃんと聞けよ取蔭!」


 ***


「あれ、先輩がお弁当って珍しいですね」
「おいおいイレイザー……!まさかその弁当……女子生徒からの差し入れか!?」

 ――お昼休み。

 相澤が自身のデスクで、可愛いらしい巾着袋の紐をほどいていると、さっそく同僚たちがわらわらと集まってきた。(集まらんでいい)

「相澤くんも隅に置けないな!」
「違いますよ、オールマイトさん。結月に押し付けられたんです」

『あっ相澤先生!良かったらお弁当食べてください!いつもゼリー飲料でしょう?社畜の安吾さんの健康を支えてるので栄養バランスは保証しますよぉ』

 ……――と、なんでも自分は食堂で食べなくてはならない用事ができたとかなんとか言って。(坂口さん、社畜なのか……)

「結月少女の手作り弁当か!」
「なんにせよ良かったじゃねーか。お前、いつも味気ないお昼だし」
「結月さん、料理が得意らしいですね」

 オールマイトの言葉に、マイクと13号が続く。皆の興味津々の視線が集まるなか、相澤は二段の弁当を開けた。

「「おお〜!!」」

 その場にそろった声が上がる。一つはごま塩ご飯と、もう一つはバランスよくおかずが詰まっており、まさに理想的とも言える弁当がそこに。

「結月さん、女子力高いのねえ」
「おいしそうですね!」
「野菜もちゃんと入ってるし、バランスもばっちりじゃないですか」
「彩リモ合格……」
「さすが結月少女!安吾くんは幸せものだな」

 ……まあ、確かに。自分が食べる分には可愛い過ぎるが。

(タコさんウィンナー……)

 相澤は箸で摘まんだそれをじっと見つめた。小学生……いや、幼稚園以来ではないか。

「懐かしいなっタコさんウィンナー!カニさんウィンナーもあったよな!なあなあ、それ俺食いたい」
「………………」

 相澤は無言でタコさんウィンナーをぽいっと口に入れた。
「ヒュー女子生徒の手作り弁当を独り占めかよイレイザー!」「うるさい」
 くるりとイスを回し、マイクに背を向けると、他のおかずもいただく。(うずらの煮卵なんて初めて食ったぞ)

「相澤くん、どうだい?結月少女の手作り弁当は」
「まあ……うまいです」

 ぎこちなくも素直に言った相澤に、オールマイトはにっこり微笑ましく笑った。


 おいしく平らげると、相澤は給湯室に弁当箱を洗いにいく。彼女は洗わなくても良いと言ったが、水で洗い流すぐらいはやっておくべきだろう。

「あっ、相澤先生〜!お疲れさまです!先生も良かったら食べてください!」

 職員室に戻って来た相澤を笑顔で出迎えたのは、若い事務員の男だった。

 彼はA組が21人になる事になった最初のきっかけを作った――つまりはやらかした人物である。

 当時は見てわかるほどに落ち込んでいたが、今はすっかり立ち直って、今日も元気に働いている。

「饅頭……?」
「はい!週末、嫁と温泉に行って来たんで、お土産の温泉饅頭です!」

 ちなみに新婚らしい。相澤はありがとう、と一つ頂いてから席に座って、ふと思い立った。

 あいつ、饅頭は食うだろうか。

 とりあえず、その温泉饅頭をお弁当箱の中に入れておいた。


 ***


 ――その夜。私は相澤先生から戻ってきたお弁当箱を洗おうと、巾着袋から取り出す。

『弁当、うまかったよ。ごちそうさん』

 表情はいつもと変わらなかったけど、素直に褒められると嬉しい。相澤先生の言葉を思い出してにやけていると……

「………………」

 え、饅頭?……饅頭?

 お弁当箱のフタを開けると、中に入っていたのは、お饅頭だった。

「……??」

 しかも温泉饅頭。熱海の。何故にお弁当箱の中に……あ、お弁当のお礼?(相澤先生、温泉に行って来たのかな……熱海に)

 いやいや、あのお風呂はいかにもカラスの行水っぽい先生が〜?

「うーん?」

 謎だ……。相澤先生と温泉饅頭がどうにも結び付かなくて、しばし台所で首を傾げた。



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