YOUたち何しに横浜へ?

 雄英体育祭を目前に控えて――。

 今日も鶴見川の河原で、小石たち相手に地味〜な"個性"の特訓していた。

(このぐらい小さい物だと、一度に転移も軽々できるなー……)

 たまに川から太宰さんが流れてくるから、回収してもらうよう国木田さんに電話するけど、今日はそれもなくて。

 …………飽きてきた。

 いい加減、飽きてきた。もうちょっと違う特訓方法はないかなぁ、と考えてみる。

(……ん)

 視界の端に、川を流れる何かが横切った。
 やっぱり、今日も太宰さんは飽きずに入水を、し……て……

(ななな生首――!――!――!?)

 太宰さんじゃない!!川から流れてくるのは生首だっ!
 ……って、あれ。
 よく見ると、川から顔だけ出した状態で流れているだけ?

「…………」

 太宰さんの他にも入水する人っていたんだぁ……。(世界は広いや)

「っは!じゃなくて助けなくちゃ!」

 すっかり太宰さんに感化されて入水かと思ったけど、あれは溺れているんじゃ――!

「いないと思ったら、こんな所で流れていましたか」
「……へ」
「大丈夫ですよ、レディ。あれは泳いでるだけですから」

 泳いでるだけなら安心……って、生首の次は妖精が目の前にいる。
 いや、妖精ともちょっと違う気もする。
 宙に浮いているのは、小さな男の子の人形みたいな存在だ。普通に話しかけられて、驚いていると……

「僕はマークの"個性"のハックです」
(マーク?"個性"??)

 自己紹介されて「あ、どうも」と、思わず挨拶した。

「いたぜ!こっちだ」

 声が響く方を見ると、ハック?と同じような存在がこちらに飛んできた。
 その後を追いかけるのは――大胆に胸元が開いたシャツを着ている、外国の青年だ。

「あれが僕の片割れのトムで、隣がマークです」
「トムだぜ!」

 そうトムがハックの隣に並んで自己紹介した。
 正反対な雰囲気の二人。
 何がなんだか分からないけど、トムもハックもマスコットみたいですごく可愛い!

「僕の"個性"がお気に召したのかな?日本のキュートガール!」

 ぱちん、とウィンクと共に言われた。

「僕はアメリカから来た、マーク・トウェイン!僕のこと知らない?結構有名人なんだけど」
「ごめんなさい、知らないです」
「マークの知名度もまだまだだな!」
「まーじーでー!」

 アメリカから来たからか、ノリが陽気だ。ついていけず若干戸惑っていると、ハックがその人に言う。

「それよりマーク。流されてるラヴクラフトの回収はいいのですか」
「「あ」」

 思わず声が重なった。

 見ると、ラヴクラフト?さんという方は、こうしているうちにもどんどん流されていく。

「でも、回収する方法もないしなぁ。僕、濡れるの嫌だし」
「――僕が回収するよ」
「あ、スタインベックも来たんだ」
「トムが呼びに来てくれてね」
「さすがトム!」
「拉致が明かねえって思ってな!」

 次に現れた人は、ハンチング帽子を被った金髪碧眼の、同じく外国の青年だ。
 どうするんだろうと見ていると、その人はポケットから、何かの種を取り出した。

 ナイフで自身の腕を切り(……!)そこにその種を植え込めば――腕から生えてきたのは、木の枝?

 その枝はどんどん伸びていき、ラヴクラフトさんを捕まえて、川から引き上げた。

「眠い……」

 黒髪ウェービーなロングヘアの男性。首から下が見えなかったけど、ラヴクラフトさんという人はかなりの長身だった。気だるげな表情でそうぽつりと呟いている。

「君は謎な人だよねー」

 頭の後ろで手を組み言ったマークさんが言った。
 私からしたら、まとめて全員謎だけど。

("個性"もなんかすごいし、何者なんだろう……)

 不思議に思っていると、スタインベックさんという人と目が合う。

「トウェイン、そちらの女の子は?」
「日本人の女の子」
「それは分かるよ」
(確かに……)
「ラヴクラフトを助けようとしてくれてたところを僕が声をかけました」

 そうハックが的確に説明してくれた。(できる子!)
 なるほど、とスタインベックさんは呟くと、にこりと私に向かって穏和な笑みを浮かべる。

「やあ、僕らの連れが迷惑かけてごめんね」
「迷惑はかかってないので大丈夫ですよ」
「いきなり川から人が流れて来てびっくりしただろ?」
「いえ、人が流れて来るのは慣れてますから」
「……?」

 太宰さん以外の人だったのには、びっくりしたけど。

「ほら、ラヴクラフトも謝って」
「すまない……」

 スタインベックさんに促され、素直にラヴクラフトさんは謝ってくれた。(死んだような目をしてる……)

「えっと……皆さん、横浜には旅行か何かで来たんですか?」

 会話の流れでそう聞いてみると、スタインベックさんとマークさんが同時に口を開く。

「お仕事さ」
「観光さ!」

 ……………………。

 え、どっち?二人の間に微妙な空気が流れた。

「……両方ってことですか?」
「そうだね。そういうことにしておこうか」

 スタインベックさんは顔に笑みは浮かべつつも、呆れたような口調で答えた。
 たぶん、仕事でなんだろうけど、マークさんが観光気分なんだと察した。

「じゃあ、ラヴクラフトも回収したし、僕らは行こう」
「じゃあね、キュートガール。僕の名前をネットで検索してみてくれ!」
「じゃーなー!」
「さようなら」
「眠い……」


 横浜にやって来た、不思議な彼らの背中を見送る。


(お仕事って何してるんだろう……)

 三人とも雰囲気がバラバラだし、同僚には見えないし、……謎。

(あ、マークさんをネットで検索してみよう)

 早速スマホを取り出し、検索すると……


「冒険家?トウェイン大活躍日記??」


 ますます謎は深まった。



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