B組のお兄さんといっしょ

 夏休み。それは子供たちにとってのパラダイス――。


「いいか。はぐれないようにまとまって歩くぞ」
「「はーい!!」」

 織田作さんの言葉に、織田作孤児院の子供たちは元気よく返事をした。

「理世、悪いな。子供たちの外出につき合ってもらって」
「いえいえ。織田作さんがいるなら安吾さんも安心って言ってましたし、私も楽しみでしたから」
「大丈夫。理世は私が守る。いざとなったら夜叉白雪で……」
「鏡花ちゃんっその気持ちだけで十分だよ……!」

 武装した夜叉白雪を召喚した鏡花ちゃんを慌てて止める。
 そんな心配性?な鏡花ちゃんも一緒に、やって来たのは横浜のショッピングモールだ。
 目的地は夏休み限定の、イベント会場で行われるふれあい動物園!

「鏡花ちゃん、世界一大きいうさぎもいるみたいだよ」
「世界一大きい……!楽しみ……」

 小動物だけじゃなく、ふれあえる海や川の生き物、虫たちも展示されるらしい。(男の子たちはカブトムシやクワガタが楽しみみたい)

「ん……国木田からか」

 そう呟いて織田作さんは電話に出た。ポーカーフェイスの織田作さんだけど、なんとなく緊急な感じかな、と察する。

 電話を切ると、織田作さんは「すまない」と口を開く。

「急な仕事が入って、探偵社に行かなければならなくなった」
「え〜〜じゃあ俺たちどうなるの!?」

 子供たちから当然のブーイングが飛び交った。

「私が子供たちの面倒を見るので、織田作さんはお仕事に行ってきてください!」

 横浜だし、一人じゃないし、安全面は大丈夫だろう。(いざとなったら鏡花ちゃんもいるし)

「すまない、理世。助かる。……お前たち、ちゃんと理世の言うことを聞くんだぞ」
「「はーい!!」」

 再び子供たちは元気よく返事をした。急いで探偵社に向かう、織田作さんの背中を見送ると……

「じゃあみんな、ふれあい動物園へ……」
「あっちにおもちゃが売ってるぜ!」
「わあ、行こう!」
「うん!」
「あー!三人勝手に行かない!」

 さっそく!しかも人混みのなか走ったら危ない!

「Qちゃん!あの子たち捕まえて……っていないし!」
「このリボン可愛い〜」

 Qちゃんはいつの間にか、アクセサリーショップで人形に似合うリボンを見ている。

「とりあえず三人捕まえなきゃ、鏡花ちゃんと咲楽は……」
「わ〜可愛いぬいぐるみがある!」
「あのうさぎのぬいぐるみも可愛い」

 二人もマイペース!

 面倒を見るって簡単に言っちゃったけど、よくよく考えてみれば、あと五人増えたら明日には銀行の襲撃だってできそうな子達だ――。

(私がもう一人いないと、手に負えない……!)

「鏡花ちゃん!咲楽とQちゃんを見てて!後の三人を捕まえてくるから!」
「わかった」

 さすがにここで"個性"は使えないので、自力で三人を追いかける。

「こらっ……勝手に……行ったら……だめ、でしょ……」
「あ、理世姉ちゃん!」
「なんかめっちゃ息切らしてる」
「はーい」

 なんとか幸介と克己と優を捕まえ、三人の元へ戻った。

「あはは、理世ちゃんもう疲れてる」

 無邪気に笑うQちゃん。これじゃあふれあい動物園に着くまで、私の体力が持たない……!

(………ん)

 向こうから歩いてくる二人は――
 
「回原くん!物間くん!」
「おお!理世じゃん!(私服姿……!)」
「なんで君がここに……!?」
「なんでって、私の地元が横浜なの知ってるでしょ、物間くん」

 出会したのは回原くんと物間くんだった。
 二人は合宿に向けての買い物に来ていたらしい。

「それよりちょうどいいところで会ったね、二人とも」
「「いいところ……?」」

 不思議そうな回原くんに、怪訝な顔をした物間くん。ん?と、二人は私の後ろにいる子たちに気づいた。

「理世姉ちゃん、この人たち誰?」
「雄英の別クラスの、とっても優秀な人たちだよ」
「あ、俺知ってる!体育祭でバクゴーって人に爆発された人だ!」
「あ!派手に負かされた人かぁ」
「……!?結月さん……この目上への口の聞き方を知らない子たちは何なんだ!?」

 ほら、子供って素直で正直だから……。(回原くんめっちゃ笑ってる)

「笑い過ぎだ、回原!」
「ごめん!」
「この子たちは知り合いの孤児院の子たちで、今日はふれあい動物園に遊びに来たんだけど……。保護者の人手が足りないから二人も一緒にどう?」
「おうっ、もちろんいいぜ!」

 二つ返事の回原くん、素敵。

「勝手に決めるなよ!」
「いいじゃん、楽しそうだし。じゃあ行こうぜ!」

 回原くんに押しきられ、物間くんもしぶしぶと了承した。

「ねえねえ、お兄ちゃんの"個性"見せてよ!」
「ここじゃあ危ないから見せられないなぁ」
「物間の兄ちゃんは物真似だっけ?」
「コピー!そこ間違えるなよ」

 回原くんはもちろん、なんだかんだ物間くんも話しかけられて相手をしてくれている。

「理世お姉ちゃんのお友だち、二人ともちょっとかっこいいね」

 咲楽がこっそりと二人を見ながら言った。まあ確かに、二人ともタイプは違えどイケメンだよね。

「そうかなぁ」

 対してQちゃんうーんと言う。

「理世お姉ちゃんはどっちがタイプ?」

 面白そうに聞いてきた咲楽は、恋バナに興味をもつお年頃らしい。

「う〜ん、どっちがと言われると……」

 こういう質問って答えるのが難しい。

「顔だけなら理世ちゃんは物間って人でしょ。ちょっと太宰さんみが入ってるし」
「いや、別に太宰さんがタイプってわけでも〜……」

 断言されるようにQちゃんに言われた。

「まあ、物間くんは……」
「結月さん!今、僕の悪口を言おうとしたね?」
「言おうとしてないよ〜(むしろどちらかと言うと褒めようとしてたのに……)」


 そんなこんなで、やって来ましたふれあい動物園の会場。


「あっ、さっそくうさぎとモルモットがいるな!」
「二人とも動物は平気?」
「まあ、それなりに」
「おう!動物は宍田で慣れてるぜ」

 得意気に回原くんは答えた。宍田くんはそんな"個性"らしいけど、慣れてる……??

 不思議に思いながら、メインのふれあいコーナーへ。

「触らせてくれる……?」

 うさぎと触れあえて、鏡花ちゃんは嬉しそうだ。

「抱っこするときはこうやって……。そう、優しく触るんだ。うさぎは臆病だからね」
(ほほう……)

 物間くんは男の子たちに動物の触れあい方を親身に教えている。(意外と面倒みがいいんだ)

 物間くんの新たな一面を発見。

「はは、こわい?大丈夫だよ、こうやって優しく触れば……」

 対して回原くんは、恐る恐るな咲楽に、一緒にうさぎを触ってあげている。良いお兄ちゃんって感じで微笑ましい。(写真撮っておこっと)

「理世ちゃん、僕もうさぎと人形と写真撮って!」
「オッケー!」

 巨大うさぎと鏡花ちゃんや、皆の写真をスマホで撮っていると――

「理世!俺らも撮ろうぜ!」
「うん!」
「ほら、物間も入れって」
「それじゃあ動物たちが写らないじゃないか」
「まーまー俺ら三人が遊んだ記念に」

 回原くんはカメラをインカメラにして、パシャリ。
 楽しそうに笑う私と回原くんに、なんだかんだ物間くんはキメ顔していて笑った。

「あとで送るよ」
「ありがとう」


 水辺の生き物ふれあいコーナーでは、初めてヒトデに触る。


「ヒトデって、英語ではスターフィッシュっていうんだぁ」
「ちなみにフランス語では、étoile de mer――海の星っていうだ」

 物間くんの口から流暢なフランス語が飛び出した!

「物間の兄ちゃんなんかかっけー!」
「フッ」

 子供たちに褒められてドヤ顔の物間くん。

「物間くん、まんざらでもないね」
「分かりやすいよなぁ」


 次は、古い角質を食べてくれるというドクターフィッシュのプールに、皆で足をつっ込む。

「すっげー集まってきた!」
「くすぐったーい」

 昆虫コーナーでは、男の子たちが大はしゃぎだ。

「Qちゃんは行かないの?」
「僕は昆虫はあんまり……それより鳥が見たいな」
「小鳥も可愛い……」

 その言葉に、Qちゃんと鏡花ちゃんを連れて、鳥コーナーへと向かう。
「コンニチワ!イラッシャイマセ!」
 さっそくオウムが出迎えてくれた。

「オウムって本当にしゃべるんだね!」

 すごーい、とQちゃんが目を輝かせる。

 試しに「こんにちは!」と、回原くんが挨拶と共にお辞儀をしたら、オウムも「コンニチワ!」同じように挨拶を返してお辞儀した。

 オウムって本当に賢いんだね〜と皆で眺める。

「ワタシガキター!!」
「「(オールマイト!!)」」

 No.1ヒーローのキメ台詞を話すなんて、このオウム……できる!

「……なんか、他にもキメ台詞しゃべらせたいな。二人はキメ台詞ってある?」
「キメ台詞かぁ……考えたことなかったけど、確かにあるといいよな」
「僕の前に「唯一無二」なんて人間は存在しない――」
「長くね?」
「オウム覚えられないよ」
「オウムに覚えてもらうためじゃないよ!!」


 ある程度見て回り、参加型のコーナーで子供たちは遊んでいた。
 見守りながら、休憩とベンチに座る物間くんと回原くんの二人は、すっかり保護者の貫禄がついてる。


「――はい。今日はつき合ってくれてありがとう」
「奢らせちまって悪いな、理世。でも、サンキュー!」
「……ありがとう」

 今日のお礼って言っても缶ジュースだけど。受け取る二人の隣に私も座って、飲み物を飲む。

「みんな、二人のおかげで楽しそうだったよ」
「俺たちも楽しかったよ。な、物間」
「まあね。将来プロになったら子供たちの憧れの職業になるわけだし、交流の勉強にはなったよ」
「そう言いつつ物間くん、子供好きでしょ?」
「べ、別に好きってほどじゃ……」
「なんだかんだ面倒見がいいもんな、物間は。クラスでもみんなのことをまとめてんし」

 回原くんの言葉に物間くんは照れているらしい。いつも自信満々なのに、反応がツンデレっぽくて笑った。

「……あっ!そういえば結月さん、期末試験の結果……!!」
「あーもうこんな時間!じゃあみんな!そろそろ帰るよ〜」
「え〜〜もうちょっと遊びたい〜!」

 ブーイングを言う子供たちを宥める。物間くんの不満げな顔には気づかないフリをした。(期末試験でうちのクラス、赤点組出ちゃったからな〜)


「――じゃあみんな、寧人お兄ちゃんと旋お兄ちゃんにお礼を言おっか」
「遊んでくれてありがとう!」
「今度は"個性"見せて!」
「またお兄ちゃんたちと遊びたいな」
「兄ちゃんたち、じゃあな!」

 それぞれお礼を言う子供たちに……

「どういたしまして」
「へへ。みんな、これからもちゃんと理世お姉ちゃんの言うこと聞くんだぞ」

 それに二人は笑顔で答えた。

「本当に今日はありがとう、二人とも。気を付けて帰ってね」
「それはこっちの台詞だよ、結月さん。なんせ君は、何度もヴィランに遭遇してるんだから」

 物間くんのその言葉に苦笑いを浮かべて誤魔化した。本当のことだから返す言葉がないなぁ。

「じゃあ理世、次は合宿でだな!」

 最後に回原くんの言葉に「うん!合宿で!」と、笑顔で手を振って、二人と別れる。


「理世ちゃんのお友達、結構良い人だったね」
「でしょ?」
「うん。理世に良い友達がいるなら、私も嬉しい」


 帰りはわざわざ織田作さんが迎えに来てくれた。どうやら緊急なお仕事は無事片付いたらしい。
 楽しげに今日の出来事を話す子供たちに、織田作さんも僅かばかり口元に笑みを浮かべる。


「楽しい一日を送れたみたいだな」


 織田作さんの言葉に、私も笑顔で頷いた。



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