文スト組で夏祭り

「これで大丈夫。上手に着付けできてる」
「ありがとう、鏡花ちゃん!」
「理世、とても似合ってる。綺麗」

 今年は鏡花ちゃんに教えてもらいながら、自分で初めて浴衣を着付けた。

「鏡花ちゃんも金魚みたいで可愛い〜」

 よく赤い着物を着ているから、鏡花ちゃんの和装は赤のイメージだ。

「安吾さん、お待たせ!」
「二人ともよく似合ってますね。可愛いですよ」

 そう言う安吾さんも、今年は私のお願いで浴衣を着ている。

「安吾さんの浴衣姿も似合ってる!かっこいい!」
「浴衣なんて着るのは何年ぶりでしょうか」

 下駄を履いて、浴衣姿の三人で家を出た。

 今日は楽しみにしていた花火大会だ。
 毎年、武装探偵社の皆と観るのが恒例で、社長が市長から特別観覧席を招待されるので、それに便乗して絶景の花火を堪能できる。

 今年は鏡花ちゃんと賢治くん、ルーシーちゃんも参加だから、さらに賑やかだ。


「やあ、理世も鏡花ちゃんも浴衣姿可愛いね。安吾もなかなか様になってるじゃあないか」
「ああ、安吾の浴衣姿は初めて見るな」
「お三方とも色合いがとても似合ってますわ!ね、兄さま!」
「うん!あとでみんなで写真を撮ろう」

 待ち合わせ場所には、すでに探偵社のみんながそろっていた。
 太宰さんも織田作さんもばっちり浴衣姿でかっこいい。
 太宰さんのちらりと見える手首からは、相変わらず白い包帯が巻かれているけど。

「ルーシーちゃん、明るい色の浴衣似合ってる〜!」
「そ、そうかしら……」

 それに合わせた黄色い花の髪飾りも可愛い!

 最初は「日本人じゃないあたしが着ても似合わないわ」と、気乗りしなかったルーシーちゃんだったけど、全然違和感なく着こなしている。(うずまきのおばちゃんに着付けてもらったらしい)

「な、なによ、おチビちゃん。あなたは似合ってないと思ってるのかしら」
「別に。何も言ってない」

 何故かこの二人は、初対面から馬が合わない……。バチバチしている。

「皆さん、浴衣姿よく似合ってますね!」
「賢治くんは甚平でイメージ通り!」
「夏は涼しいんでよく着るんです」

 賢治くんはこの季節がよく似合うと思う。

「よし、全員そろったな。まずは屋台で買い込むぞ」

 社長と与謝野先生は、直接、観客席に向かっているらしい。
 国木田さんの手に持つ理想手帳には、たこ焼き、いか焼き、焼きそば……などなど、すでに買うものが書き込まれていた。さすが!

 目に入った屋台から、順に買い込んでいく。

「ねえ、かき氷食べようよ!」
「私も食べたいです!」

 乱歩さんに賛同した。乱歩さんも浴衣を着て、頭にはカンカン帽を被ってオシャレだ。

「乱歩さんは何味にするんですか?」
「ラムネ味!」

 ラムネ味なんてのもあるんだぁ。私は何にしようかなぁ、マンゴーとかもおいしそう。

「ねえ、理世、このブルーハワイって何味なの?」

 ルーシーちゃんにそう聞かれて、しばし考えてから……

「ブルーハワイは………ブルーハワイ味」
「ちょっと答えになってないわよ」
「え、ブルーハワイって何味なんですか国木田さん」
「俺もよく知らんがラムネっぽい味じゃないか」
「国木田、ラムネはラムネであるぞ」

 今まさにラムネ味のシロップかけながら、乱歩さんが言う。

「ずばり、ハワイを感じさせるイメージした味のシロップじゃないかな」

 太宰さんがたぶん正解を言った。なるほど、イメージか!

「ハワイの食べ物といえば……ロコモコ丼とかか」

 織田作さんから珍発言が飛び出した。ロコモコ丼……!?

「織田作さん。ロコモコ丼味のかき氷を食べたいと思いますか。普通に考えて海をイメージさせる爽やかな味でしょう」
「確かに、食べたくはないな」
「いや、もしかしたらこれが意外と合うかも知れない。おじさーん、ロコモコ丼味のシロップはないの?」
「ないよ」

 太宰さんの言葉に迷惑そうな目でおじさんは答えた。さっさとシロップかけて退散した方がよさそう。

 ルーシーちゃんは思いきってブルーハワイ味に、鏡花ちゃんはイチゴ味、賢治くんはメロン味で、ナオミちゃんはレモン味、潤くんは青リンゴ味にするらしい。(青リンゴ味もおいしそう!)

「太宰さんは何にするんですか?」
「私はレインボー味さ!」

 シロップかけ放題なので、全部のシロップをかけるらしい。私も真似してみようかな〜……

 !?

「太宰さんっレインボーどころか、ヘドロみたいな色になってますよ!」
「太宰くん……シロップかけすぎですね」
「これはこれで致死量になりそうな良い感じの色だね」
「あんたら、終わったらさっさと行ってくれんかなあ」

 営業妨害になりかねない太宰さんの発言に、おじさんは隠さず迷惑そうな顔をしてきた。国木田さんが「うちのアホがすみません……」と謝って、足場やに立ち去る。

「次は綿飴を買おう!」

 無邪気な乱歩さんの言葉に、次は綿飴屋へ。

 あれ、あの人は……その近くで見知った姿が目に入って、私はそちらに向かう。

「樋口さん?」
「理世……!?あなたもお祭りに……」

 ピンクの浴衣を着て、そわそわしている樋口さんだ。
 いつもと雰囲気が違って可憐な浴衣姿。
 今は一人みたいだけど……もしかして!

「もしかして、デートですか?」
「デ、デートじゃないし、芥川先輩に浴衣姿を見てもらおうとか一切考えてないから!!」
(……ああ)

 あたふたしながら樋口さんは全部喋っていますね……。
 お祭りの警備には、グラヴィティハットの事務所のヒーローたちもゲスト感覚で応援に来ているからだ。

「じゃあ樋口さん、一緒に回りましょうよ。一人でいたら危ないですよ」
「浴衣美人のお嬢さん、どうか私と心中しませんか?」
「ほら、こんな感じに頭のおかしい変質者に声をかけられて危険ですよ」
「え、理世、さすがに言い過ぎじゃないかい……」
「言われて当前だこのアホ!!」

 国木田さんが太宰さんの頭を扇子でペシッと叩いた。あ、地味に痛そう。

「じゃ、じゃあ失礼して……」

 樋口さんも一緒にお祭りを回る。歩いていれば、きっと龍くんにも会えるはずだ。
 ……なんて思っていたら、本人ではなくその相方の、

「敦くん!」
「あ、皆さんお揃いで!」

 頭にびゃっこのお面をつけた白地の浴衣姿の敦くんが登場した。この日はヒーローたちも浴衣姿だ。

「二人の浴衣姿初めて見たけど、よく似合ってるね!」

 鏡花ちゃん、ルーシーちゃんを見て、爽やかに敦くんは言った。

「べ、別にお世辞を言われても嬉しくないから……!」
「お世辞……。口先だけの褒め言葉」
「!?お世辞とかじゃなくて……!」
「やあ、敦くん。その手に持ってる林檎飴もいいねえ。どこで売ってたの?」

 ツンデレなルーシーちゃんとそれに続いた鏡花ちゃんに慌てながらも、敦くんは乱歩さんの質問にあちらです、と指差した。
 敦くんと別れて、乱歩さん希望で林檎飴の屋台へ向かう。

 その前に……

「安吾さん、私、射的やりたい!」
「いいですね」
「この辺りは遊技コーナーみたいですね。僕は輪投げをしてみたいなぁ」
「へぇ、面白そうだね!」
「では、私は金魚すくいでもやろうかな」
「あ、僕も金魚すくいを……。ナオミ、家で金魚飼ってみようよ」
「いいですわね、お兄さま!」

 賢治くんと乱歩さんは輪投げで、太宰さんと潤くんは金魚すくいをやるらしい。

「どれが目当てなんだ?」

 織田作さんの問いに指差す。

「あのギャングオルカのぬいぐるみです。可愛い!」
「可愛い……かしら?」

 ルーシーちゃんが首を傾げた。デフォルメされてすごく可愛いと思うけどなぁ。

「取れるといいですね」

 安吾さんは財布を取り出し、お金をおじさんに渡す。

「まいど!玉は5発!嬢ちゃん、頑張れよ!」
「理世、頑張って」
「よーく的を狙うのよ」
「あれは大きいからずらして落とすしかないな」

 鏡花ちゃんの応援に、樋口さんと国木田さんのアドバイスを受けながら、射的用の銃を構えた。

 射的の腕前はそこそこあると思う。

 職場体験の時に、道くんの訓練用の銃を撃たせてもらって、なかなか筋がいいって褒められたし。


 狙いを定めて――……。


「1ミリも動かなかったぁ」

 ずらす所か!くやしい結果にがっかりしていると――。

「しょうがねえなァ。俺が取ってやるよ」

 その声に隣を見上げる。

 エンデヴァー!?

 ……ではなく。そのお面を被った、

「道くん!」
「よっ。あのギャングオルカのぬいぐるみを取ればいいんだな」

 仮面をずらした下で、道くんがニッと笑う。おじさんにお金を払って、道くんは銃を構えた。


 二丁拳銃を操る道くんの腕前なら、これは期待!


「おい!あのぬいぐるみイカサマしてんじゃねえのか!?」
「人聞きが悪いぜ、兄ちゃん。嘆くなら自分の腕を嘆くんだな!!」
「くっ……」

 勝ち誇ったように、わっはっはと高笑いをするおじさんに私もむっとする。

「では……、次は私が挑戦させてもらいましょうか」
「おう!丸眼鏡の兄ちゃんもせいぜい頑張りな」

 おじさんの挑発的な言葉に、安吾さんの丸眼鏡が光を反射する。

 特務課参事官補佐の本気が……!

「織田作さん、手伝っていただけないでしょうか?」
「ああ、助太刀しよう」

 太宰さんが認める腕前の織田作さんも参戦!これは夢の共闘かもしれない……!

 二人は銃を構えて――。

「「!?」」

 息もぴったりに同時に玉を当て、ぬいぐるみを徐々に動かしていく。

 やがて………

「落ちた〜〜!!」

 ぽとりとぬいぐるみが落ちた瞬間、やったぁと思わず両手を上げてばんざいした。

「くぅ……!まさか、二人同時に当てて落とすなんて……!」

 くやしげに言いながらおじさんは「だが、ルール違反でもねえ。ちくしょう、持ってけ泥棒!!」と、ギャングオルカのぬいぐるみをくれた。

 ルール違反じゃないと言うわりに、泥棒って往生際が悪いな!

 何はともあれ……

「ありがとう、安吾さんっ織田作さんっ!」

 大事にするね、と二人に言う。

「織田作さんのおかげです」
「いや、二人でなきゃ取れなかっただろう。良かったな、理世」
「出番がなかったですね。どんまい、立原」
「ああっ姐さん、励ましてくれてありがとよ!」

 輪投げ組と金魚すくい組はどんな感じかな……と、見に行く前に。

「安吾さん、織田作さん。このままじゃ二丁拳銃の通り名が名折れだ。俺と射的勝負してくれ!」

 エンデヴァー……じゃなくて、エンデヴァーのお面を被った道くんが二人に勝負を挑んだ。(そんな通り名あったっけ……?)

「立原、何を言ってるんですか。お二人に迷惑ですよ」
「あら、でも面白そうじゃない。ヒーローと特務課と武装探偵社の勝負でしょ?」

 ルーシーちゃんのその言葉に確かに……という場の空気になり、おじさんだけが「ヒーロー!?特務課!?武装探偵社……!?」そう戦慄している。

 考えてみれば、すごいメンツだ。

「僕はいいですよ」
「探偵社代表なら国木田でも……」
「いや、射的の腕なら織田の方が上だしな。お前にまかせる」
「わかった」

 三人が並び、ルールは簡単。

 玉は5発で、誰が一番早く多く景品を撃ち落とした者が勝ちというものだ。

「よーい……スタート!!」

 おじさんがハラハラするなか、私がスタートの合図をした。

 ポンッポンッポンッ。

 三人が引き金を引く度に、軽快な音が響き、同時に次々と景品が落ちていく。

 真剣な三人の表情……。

 勝負の行方を見守る私たち。集まってきたギャラリー。青ざめるおじさん。

 結果は――

「僅差で織田作さんの優勝!二位は安吾さん!」
「さすが織田作さんですね」
「運が良かっただけだ」
「立原……泣いても良いんですよ」
「泣かねえよ!!」
「これじゃあ商売上がったりだ……!頼む!景品は一人一個にしてくれェ!!」

 あんなに強気だったおじさんが頭を下げた。三人の華麗な射的に、ギャラリーから歓声と拍手が湧き起こる。

「おお!!」
「金魚すくいのチャンピオンか!?」

 ――同じように、近くで盛り上がりを見せているコーナーがあった。

「大漁だね!私に苦手なことなどなーい!」

 太宰さんが金魚を乱獲している。(しかもポイが破けても関係なし……!)

「太宰さんッ、さっきから水飛沫が僕にかかッてるんですけど!?」

 その隣で潤くんが被害を受けていた。
 水飛沫だけでなく、一匹も金魚を掬えていない模様。

「これじゃあ金魚がいなくなってしまいます〜!ご勘弁を〜〜!」

 金魚すくいのお兄さんが泣いている。

「屋台クラッシャーかよ」

 道くんがつっこんだ。さっき勝負のきっかけを作った道くんも人のこと言えないと思うけど……。

 太宰さんは探偵社で飼おうと金魚を一匹、ルーシーちゃんも金魚を飼いたいとのことで計二匹、金魚を貰っていた。
 潤くんは太宰さんの妨害がなくなり、金魚を一匹掬って「兄さま!やりましたわね!」「ナ、ナオミ……」と、ナオミちゃんに抱きつかれてアタフタしている。

「ありがとう。金魚、大切に育てるわ」
「何匹も貰っても国木田くんが大変だからねえ」
「待て、俺が世話をする前提なのか!?」
「わあ!金魚ですね!僕、お世話したいです!」
「では、賢治くんをお世話係に任命しよう」「はい!大きくなるよう大切に育てます!」
「後輩に押し付けるな!」

 太宰さんから嬉しそうに賢治くんは金魚を受け取る。反対の手には、輪投げの景品でもらったという駄菓子を持っていた。

「なかなか輪投げって難しいですね。でも、楽しかったですよ!」
「僕、元々駄菓子目当てだったし」

 常識の範囲内で輪投げを楽しんだ二人だ。

「……あっ、樋口さん!龍くんいましたよ!」
「芥川先輩……!」

 らしょうもんのお面を頭につけた、黒地の浴衣姿の龍くんが前から歩いてくる。
 龍くんは何やら眉を寄せてぶつぶつ呟いていた。

「これだけ捕ったが、この後はどうすればよいのだ……」

 その腕に抱えているのは、大漁の色とりどりの水ヨーヨーだ。

「いや、兄貴もかよ!!」

 道くんが素早くつっこんだ。

「エンデヴァー……?いや、立原か。なにを探偵社の面々と遊んでいるのだ。ちゃんと見回りはしているのだろうな?」
「いや、道くんも龍くんには言われたくないと思うよ」
「……やるからには負けるわけにはいかなかった故……」

 私の言葉に目を反らした龍くん。その視線は……

「あ、あの……芥川先輩。あまりこういう格好はしないので……変ではありませんか?」

 顔を赤くさせ、もじもじと言う樋口さんに。

「…………………………樋口か」

 気づくの遅っ!

「樋口も祭りを楽しんでいたのだな。ならばこれをやろう」

 龍くんは水ヨーヨーを一つ、樋口さんに手渡す。

「芥川先輩……!ありがとうございます!一生の宝物にします!!」
「いや、萎むだろ……」

 満面な笑みで喜ぶ樋口さんに道くんのつっこみは野暮というもの。
 水ヨーヨーはいつかは萎んでも、思い出は萎まない……。(あ、私今良いこと言った。心の中で)

「お前たちも欲しければやるが……」

 龍くんの言葉に「ほしい」と答えて、鏡花ちゃんもこくりと頷く。
 その流れでルーシーちゃん、ナオミちゃん、賢治くんと渡していき、ちょうど一つ余った。

「あ、どうも……」

 龍くんは潤くんに押し付けた。

「では、やつがれは失礼する。行くぞ、立原」

 龍くんは道くんを連れて去っていく。樋口さんは嬉しそうに水ヨーヨーをポンポンと揺らした。


「林檎飴はお土産にするんだ」

 という乱歩さんにならって、私もお土産にしようと安吾さんに林檎飴を買ってもらった。
 林檎飴って可愛いしおいしいし、屋台でしか食べられないから、見つけたら必ず買っちゃう。

「屋台のもの、全部買ったら手が足りないわね……アンの部屋に入れちゃおうかしら」

 林檎飴を見つめながら、そう呟いたルーシーちゃんの"個性"は、一風変わったものだ。

「あれは何かしら! あっちの屋台も気になるわ!」

 はしゃぐその姿にくすりと笑う。初めての日本の夏祭りを楽しんでくれて良かった。
 奥に進むとだんだん屋台がまばらになってきて、涼やかな風鈴の音が耳に届く。

 パーゴラに風鈴が吊るされており、下の柵にはたくさんの風車かざぐるまが飾られていた。

 風が吹く度にからからと回っている。

「たまにはこんな日も善いモンだ……」

 風情がある場所に、佇む浴衣姿のヒーローの姿。

「中也さん!」

 下駄を鳴らして駆け寄ると、すぐに中也さんは気づいてこちらを振り向いた。

「よォ、理世。祭り楽しんでるか?」
「はい!ここ、雰囲気いいですね。去年はなかった気がする」
「今年初の展示らしい。ま、こういう祭りにゃ趣があっていいんじゃねェか」

 浴衣姿にいつもの帽子を被る中也さんが笑う。
 浴衣姿の中也さんの色気はすごくて、道理であちらこちらにいる女性の視線を独り占めしているわけだ。

「ヒーローがこんな所でサボってかっこつけてていいの?」
「現れやがったなクソ太宰!」
「我々の血税で良いご身分だよね」
「プロ市民のヘイトかよ!!生憎、ヒーローは歩合制なンだよッ」
「それでも税金には変わらないけどね」
「チッ、いちいち頭に来る野郎だぜ……。花火と共に打ち上げたらどンだけ清々するか……」
「あ、中也。この風車、頭に刺してあげようか?身長かさ増しできるんじゃない」
「二人ともそこまでです!人、見てますから!引いてますから!」

 せっかくの情緒ある場が台無しだよ……!

「顔を合わせたら相変わらずだな、あの二人は……。どうにかならんのか」

 国木田さんが心底呆れて言った。どうにかできる人はいないんじゃ……

「あ、売り物の風車もあるんだ。これ飾りに帯に刺したらどうかな?」
「いいと思う。浴衣に似合う」

 中也さんがイライラしながら去った後――。
 鏡花ちゃんのお墨付きもあって、浴衣に合いそうな色の風車を選ぶ。

「これが良い!」
「では、これを一ついただけますか」

 もらった風車を鏡花ちゃんに後ろの結び目の所に刺してもらった。(自分ではよく見えないけどたぶんいい感じ)

「今日の安吾は理世のお父さんだね」
「歳が近すぎる父娘おやこになっちゃいますね。お金は安吾さんに払ってもらってますけど、ちゃんと私のお小遣いからなんですよ」

 そして、無計画に見えてちゃんと頭の中で予算を計算して使っているのだ。

「ちなみに理世は安吾からどれぐらいお小遣いをもらってるんだい?」
「おい、人様の家庭の金銭事情に首をつっこむな」
「別にいいですよ。これぐらいです」

 その数字を両手の指を立てて表す。

「……4桁?」
「いえ、5桁です」
「何ヵ月分?」
「一ヶ月分」
「今時の女子高生はそんなに貰ってるのかい!?」

 珍しく驚く太宰さんに、声を上げて笑った。

「これ、食費や交通費とかもろもろの生活費も含まれてて、そこから自分のお小遣いをやりくりするのがうちの教育方針なんです」

 ねっ、と安吾さんに笑いかける。

「ええ、金銭感覚を若くから身に付けておけば、将来困ったことにならないですから」
「私がプロヒーローになったら嫌でも稼ぐでしょ?今から勉強中なんです」

 さっき中也さんが言ったとおり、プロヒーローは歩合制。つまりは活躍によって!そして私はきっと活躍する。

「……。まあ、間違ってはいないし、正しいとも思うが……。自分で言うのがおまえらしいな」

 複雑そうな顔で国木田さんは見てきた。

「では、理世。私からも一つ、お金について教えてあげよう。人間、汗水かかなくともお金は手に入れられるということを!」
「太宰くん、法に触れない方法のみでお願いします」
「安心したまえ、安吾!これさ――」

 太宰さんの視線の先には……型抜き?

「これは何の遊びなの?」

 真剣に遊んでる子供たちを不思議そうに見て、ルーシーちゃんが尋ねた。

「この型に描かれたデザインの溝にそって、針とかでくり抜いて形を完成させるの。成功したら賞金がもらえるよ」

 ちなみに型は食べられるよ。

「へぇ……手先が器用じゃないと難しそうね」
「見たまえ。この一番難易度が高いものを成功したら1万円が貰える!」
「昇り龍!?いやいや絶対無理ですよっ!」

 昇り龍の絵はデフォルメされているとはいえ、細い部分が多くて、すぐにパキッといきそう。

「それはうちのオリジナルじゃ。今まで誰も成功させた者はおらん」

 不敵な笑みを浮かべておじいさんが言った。

「成功させる気ないんじゃ……」

 潤くんの言葉に私も同意する。

「ふふふ、では私がその輝かしい一人目だね」
「ずいぶんと自信たっぷりじゃのう、お若いの。――1回千円じゃ!」

 高い!原価いくらだ!?

「なんか挑戦者募ってすごい儲けてそう……」
「うん……絶対儲けてるね」

 潤くんも私の言葉に同意した。

「あの太宰が惜しみなく千円札を渡しただと……!?」
「太宰さんがお財布を持ち歩いているのも珍しいですけど、お札も持ち合わせていましたのね」
「太宰さん、よっぽど自信があるんですね!」

 国木田さん、ナオミちゃん、賢治くん、皆そこなんだ。

「理世もせっかくなのでやってみてはどうですか?」
「じゃあ、簡単そうな星形でやってみようかな」
「私はうさぎをやりたいけど……耳の部分が難しそう」

 ――数分後。

「できた〜!」

 私の選んだ星形は簡単なので、無事成功して百円カムバックした。ルーシーちゃんはハートで、鏡花ちゃんは悩んだ末にうさぎにして、二人とも真剣にくり貫いている。

「……成功したわ!」
「失敗した……」
「細い部分はやっぱり難しいね」

 喜ぶルーシーちゃんと落ち込む鏡花ちゃんと、二人は対照的になった。

 肝心の太宰さんは………

「……!?」
「私にかかればこれぐらいどうってことないさ」
「完璧な昇り龍!!」

 ひび一つ入っておらず、完璧にくり貫かれた型抜きの昇り龍だ。

 もはや芸術作品……!

「まいった……!まさかこれを成功する者がおるとは……!おぬしは神の手を持つものか!?いやはや素晴らしい作品を見せてもらった……。人生長生きはするもんじゃな。心ばかりの感謝に、先程の千円も一緒に返そう」

 こうして、太宰さんは丸儲けした。

「時にお金は羽が生えていると表現されるけど、それは同時にどこからでも入ってくると意味するのだよ。理世、勉強になったかい?」
「でも、今のは太宰さんしかできないやり方ですよね」


 超絶ド器用な太宰さんしか。


 ――屋台やお祭り遊戯も堪能し、観客席へ向かう。専用スペースの片隅に、社長と与謝野先生の姿を見つけた。

「先に一杯やらせてもらってるよ」

 缶ビールを片手に色っぽい浴衣姿の与謝野さんが手招きする。

「与謝野先生、つまみに枝豆を買って来ました」
「社長の分の林檎飴買ったよ!」
「おや、気が利くじゃないか国木田」
「皆、買い出しご苦労だった」
「福沢社長、与謝野先生、お疲れさまです。あの、私もご一緒させてもらってます」
「誰かと思ったらヒーロー事務所の樋口かい」
「祭りは皆で楽しむもの。遠慮せずに参加するとよい」

 買ってきた屋台のご飯をシートにずらりと並べて、皆でわいわいと摘まんで食べる。

「理世はそのギャングオルカのぬいぐるみはどこで手に入れたんだい?」
「安吾さんと織田作さんが、二人がかりで射的で取ってくれたんです!」
「へえ、良かったじゃないか」
「社長、一つ確認したいのですが、探偵社でこの金魚を飼ってもよろしいでしょうか」
「構わん。命は大切にするように」
「良かッたね、賢治くん」
「はい!あ、名前何にしましょう?」


 お喋りしながら食べていると、時間はあっという間に過ぎて――。
 

「もうすぐ花火が始まるようだ」


 社長の言葉に、皆そろって空を見上げる。今夜は雲もなく、海風も吹くので、花火にはばっちりの天候だ。

「「おお……!!」」

 ドンッ、と体に響く音。

 第一発目が打ち上がり、周囲から歓声が上がる。大輪の花火が夜空に咲いて、キラキラと夜の海に反射した。

「たまや〜!」
「かぎやー!」
「みんな、不思議なかけ声をしてるわね」
「玉屋と鍵屋は、江戸時代の有名な花火師の由来といわれている。花火を見た観客たちが、素晴らしいと屋号を叫んだのが由来のようだ」

 ルーシーちゃんの疑問に答えたのは社長だった。日本の文化は面白いわね、と言ったルーシーちゃんは呟く。私も初めて知ったので、勉強になった。

「たーまやー!かーぎやー!」

 元気よく賢治くんが叫んで「た〜まや〜!」私も同じように次々と打ち上がる美しい花火に向かって叫んでみる。

「綺麗……。花火、みんなと見られて良かった」

 空を見上げながら、ぽつりと鏡花ちゃんが呟く。

 青、赤、緑、金色……

 明るく輝く夜空を皆で一緒に見上げている。
 また一つ――今年の夏の、素敵な思い出が増えた。



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