「待って、黒霧。今日の夕飯これだけ?」
とある横浜の地下に存在するこのバーは、まだ世間にその名を轟かせてない彼らのアジトである――。
「こんなんじゃ足りないんだけど。私の舌も胃袋も心も満たされないんだけど。あ、黒霧の料理はおいしいけどね」
「黙って食え」
夕飯に文句をつけるなまえを窘めたのは、隣に座っている死柄木弔。目の前の皿にはもやしとニラと卵の炒め物、もやしのごま和え、もやしの味噌汁、漬け物、白米。
立派な一汁三菜だ。これのどこに文句をつける所がある。「もやしばっかじゃん!」
「我慢してください、名字なまえ。我々の活動資金も無限ではないのです。まずは食費を削ることにしました」
「え、そんなにやばいの?」
「脳無を造り出すのに莫大なお金がかかるんですよ」
「えーこんな気持ち悪いのにお金かけないでもっと食事にお金かけてー」
なまえは狭い室内にぼーと立っている脳無を嫌そうに見た。
近くのサウナからお肌ツルツルになって帰ってきたら、いつの間に室内にいたやつ。
「――これが対平和の脳無だ。見ろよ、イカした姿してんだろ。いかにもこいつやべぇみてえな」
っと、自慢げに言ってきた死柄木に「こいつバカだな」となまえは口には出さず思っていた。
「むしろ自分のメシぐらい自分で稼いで来いよ。これから穀潰しって呼ぶぞ」
「じゃあ、みんなで銀行強盗しない?」
「んなちんけな悪事で世に名前が出たらどうすんだ。俺らヴィラン連合はな、No.1ヒーローオールマイトを殺して華々しくこの名を轟かすって決めてんだよ」
「死柄木弔、我々の名前はヴィラン連合になったのですか……?」
「私たち三人…あ、あの脳無を入れて四人しかいないのに連合なの?」
「これから仲間を増やす」
そもそも「ヴィラン+連合って安直だしダサい」となまえは思ったが、口に出すと死柄木がうるさく反論してくるだろうから黙っておいた。
己の口を閉じておく為に、死柄木の小鉢からたくあんを頂く。
「あっおい、人のたくあん取るな!」
「いいじゃん、弔は食に興味がないんでしょ」
「そういう問題じゃねえんだよっ」
二人の子供のようなやりとりに黒霧はやれやれと首を横に降った。
――その翌日。
「今日は具が天かすだけのうどん……。海老天が乗ってたら最高なのに……」
「天かすを海老天と錯覚して食え」
昨日と同じようなやりとりをしながら、なまえはカウンターに項垂れた。
「ねー黒霧。お酒は出ないの?ここバーなのに」
「これからはこのストロングゼロで我慢してください。スーパーで税込み110円と激安でした」
「えー私、カクテルが好きなのに…」
「ストローも一緒にどうぞ」
「地雷系メンヘラ女子になっちゃうよ?」
「そのまま歌舞伎町にでも行ってうろついて来い」
しぶしぶなまえは缶を受け取り、ストローを差して飲む。良い感じのアルコール度数ではあるが、やはりおいしくはない。
パクチーモヒートが飲みたいなぁと思っていると、隣から死柄木がスッとなまえに新聞を差し出した。
「見たかコレ?教師だってさ…」
新聞の一面には「オールマイト、雄英の教師に!!」とでかでかと載っている。
「ネットニュースで見たよ。あのオールマイトが教師って、後進の育成に力を入れるのかしらね?」
「なァ、どうなると思う?」
「どうなるって?」
「平和の象徴が………」
死柄木は顔面に付けた手の下で笑う。
「ヴィランに殺されたら」
………。なまえはストローから口を離して、考えた。
「高級羽毛布団が売れる」
「風が吹けば桶屋が儲かるかよ!大喜利聞いてんじゃねえんだよ、こっちは」
「どのような経緯で、結果そうなるのかが気になるのですが……」
「オールマイト死す→ヴィラン活性→善良な市民は怖くて眠れない→安眠できますと高級羽毛布団が売れる」
「「………………」」
黙る二人。「……まあ」と最初に口を開いたのは死柄木だった。
「案外、当たらずも遠からずの流れかもな……」
「そうですね……。今から高級羽毛布団会社の株でも買っておきましょうか」
本当にそうなるかはさておき。
どうやら、彼らヴィラン連合の記念すべき始動の日は近いらしい。
「なまえ。お前はヴィラン共を集めろ。チンピラでも雑魚でもいい」
「えぇ〜」
「名字なまえ。あなたの仕事が無事終わりましたら、夕飯は前祝いを兼ねて国産牛肉のすき焼きにします」
「とりあえず100人ぐらい集めればいい?」
やる気満々になったなまえはさっそくカウンター席から立ち上がる。
ふと、死柄木がくくっと笑いを溢した。
「?」
――……ああ、会えるのが楽しみだぜ、平和の象徴。
「ゲーム、スタートだ」
「弔、どこに向かって言ってるの?」