「よーし。よく集まってくれたわ。世間から爪弾きにされた悲しき者たちよ――」
「あの、姐さん。俺たちなんで集められたんスか」
「その呼び方はやめて?」
死柄木の命令通り、ざっと100人ぐらい自称ヴィランからチンピラと呼ばれる者たちまで集めたなまえ。
これもすべて国産牛のすき焼きの為である。
「私たちのやるべきことは一つ……。平和の象徴、No.1ヒーロー、オールマイトを亡き者にすること」
「…!あのオールマイトを……!?」
周囲にざわめきが走る。そんなことが俺たちにできるのか!?いくらなんでも……と、不安な声が上がるのを聞いて、なまえは口を開く。
「大丈夫。あなたたちはモブヴィランだから、オールマイトを倒せるとはこちらも期待しておりません!」
……………え。そりゃあ自分たちもよく分かっているが、そう正直に言われると……。その場は絶句した。
「おいこらなまえ。有志たちが萎えることを言うんじゃねえよ」
現れたのは死柄木。ヴィラン集めを彼女に任せたが、様子を見にきて正解だったと彼は思った。
思ったことを正直に口にするこの女はアホなのだ。
「お前らにやってほしいことは一つ……ガキ共の始末だ」
「ガキ……?」
「俺たちはこれから前代未聞の雄英高校を襲撃する――」
「雄英高校を……!?」
再びその場にざわめきが走った。
確かにオールマイトは雄英の教師になったという話だが……。
「高校から離れた施設で授業を行うらしい。その時がチャンスだ――」
詳しく作戦を話す死柄木。
その手には先日、雄英高校にマスコミ騒動を起こした際に手に入れたカリキュラム。
彼が珍しく昼間に行動するなんてと驚いたなまえだったが、ちゃんと理由があったらしい。
「オールマイトは俺たちが殺す」
自信満々に死柄木が放ったその言葉に、高揚するヴィランたち。
「新しい時代を俺たちと作ろうぜ」
うおおぉ……!!と彼らから答える声が上がった。
死柄木はどうやらこういう焚き付け方は得意らしい。
「どうだ、俺のリーダーとしての素質は」
「なんか萎えた」
「お前の萎えはどうでもいいんだよ!」
作戦が決行され、なまえはアジトから「行ってらっしゃーい」と見送る。
彼女の"個性"は戦闘向きじゃないこともあって、前線に出ることはない。
『――この作戦、成功すると思うかい?』
カウンターの隅に置かれた、液晶から。
「私に聞くんですか?…まあ、成功してもしなくても爪痕は残すんじゃないでしょうか」
ストロングゼロをストローで飲みながら、なまえはその声の主に答えた。
彼は死柄木が「先生」と呼んでる存在。
なまえもよく知らないが、リーダーが死柄木なら、彼は黒幕というのだろう。
その黒幕が先生と呼ばれている理由なら分かる。
「心配なら助言してあげればいいのに」
『教えているだけじゃ成長しないからね』
まるで、師のように死柄木に接しているから。
「ちなみに先生は結果はどうなるとお考えで?」
『ヴィラン連合という名前に相応しい形になると思ってるよ』
……死柄木。どうやらその名前は皆から不評みたいよ。
――一時間もせずに、ズズ…と黒い霧が室内に現れ、その中から死柄木が転がるように出てきた。
「ちょっと大丈夫っ?」
「ってえ…両腕両足撃たれた…完敗だ…」
呻く死柄木の傷跡をなまえは観察する。
玉は残っておらず、急所には至らなそうだ。
「応急手当てをしてあげるから仰向けになって」
「次はヒーラーを仲間にしよう……」
「雄英高校に確かリカバリーガールがいるっけ。誘拐してくる?」
「ババア仲間にしてどうすんだよ…!」
「あっそれ差別発言だからね!それを言うなら黒霧はジジイだよ!」
「小娘、私はジジイではない!」
普段と違い、その荒々しい口調に「え、黒霧どうしたの?」となまえはきょんとする。
「こっちは苛ついてんだよ。脳無もやられた。手下共は瞬殺だ…子どもも強かった。お前、今度はもっと強い仲間を連れて来い。ちゃんと働かねえと、今度こそ飯抜きにするからな」
死柄木にとっては八つ当たりであるが、最後のその言葉に、一瞬間を置いてなまえの目からポロリと涙が。
「!?おい、飯抜きにするって言われたくらいで泣くことねえだろ…っ?」
「私はね…!今まで弔を献身的に支えてきたのに、そんな酷いことを言われたことがショックで泣いてるの!」
「献身的に支えられた記憶がねえが、分かったから泣くなよ……泣きてえのはこっちなんだよ……マジいてぇんだよ」
「くだらない二人を見て、私が泣きたいです」
「じゃあもうみんなで泣こう」
「泣くか。涙も出ねえよ…くそ」
『それじゃあ、代わりにワシが泣こうかね』
おちゃらけた声に、三人の意識が同時にそちらに向いた。
「平和の象徴は健在だった……!話が違うぞ、先生……」
『違わないよ』
画面の向こうの声が、今度ははっきりと言い放つ。
『ただ見通しが甘かったね。うむ…なめすぎたな。ヴィラン連合なんちうチープな団体名で良かったわい』
「……。(チープ……)」
「……ヴィラン連合って名前がいけないんじゃない?」
「……俺が気に入ってんだ」
『ワシと先生の共作、脳無は?回収してないのかい?』
「吹き飛ばされました。正確な位置座標を把握出来なければ、いくらワープとはいえ、探せないのです。そのような時間は取れなかった」
「えー!食費を削ってまでお金をかけた脳無なのに……もったいない」
「オールマイトにぶっ飛ばされたんだよ。恨むならヤツを恨め…」
忌々しく言う死柄木。彼の恨みはすべてオールマイトに向かっているようだ。
『せっかくそのオールマイト並みのパワーにしたのに…まァ…仕方ないな…残念』
「パワー…そうだ……」
何かを思い出したように呟く死柄木。
「一人…オールマイト並みの速さを持つ子どもがいたな……」
『……………。へえ』
「あの邪魔がなければオールマイトを殺せたかもしれない…ガキがっ…ガキ…!」
「あ、こら。暴れないの弔」
『悔やんでも仕方ない!今回だって決して無駄ではなかったハズだ。精鋭を集めよう!じっくり時間をかけて!』
明るい声だった。
『我々は自由に動けない!だから、君のような"シンボル"が必要なんだ。死柄木 弔!!次こそ君という恐怖を世に知らしめろ!』
その声は前向きな言葉を紡ぐ。
それこそチープの言葉だなとなまえは思ったが、彼は違うらしい。
「……………」
顔面につけた手の隙間から見える目。
その目に宿る闇が、陽炎のように揺れている――。
「とりあえず。応急処置は終わったから、病院に行くよ、弔」
「…………行かねえ」
「?行かないって……」
「……お前が手当てしてくれたからいいだろ」
「よくないよ。応急処置だけだからちゃんと治療しないと」
「病院は……………嫌いだ」
「「子どもか」」