前回、主要三人に(桃鉄による)軋轢が生じ、ヴィラン連合は解散の危機となった。
その四日後――
「帰って来ねぇじゃねえか!」
同時にダンッと響いた音は、死柄木がグラスをカウンターに乱暴に置いたからだ。
「解散解散!」と叫んで出て行ったなまえに「実家に帰らせていただきます」と、これまたどこかへ去って行ってしまった黒霧。
どうせすぐに二人は帰ってくるだろうと、踏んでいた死柄木だったが……。
「おい、先生。あいつ、三日坊主じゃなかったのかよ……」
近くに置いてあるノートパソコンに向かって死柄木は言った。黒霧はともかく、飽きっぽく三日坊主ななまえはすぐに帰ってくるだろうと言ったのは、
『彼女は気まぐれだからね。まあ、そのうち帰ってくるよ』
他でもないその向こうにいる声の主だ。
『電話でもしてみたらどうだい?』
「なんで俺が……」
『大人は敢えて折れてみせるものだよ』
「……」
先生に上手く説得され、死柄木はしぶしぶスマホを手に取り、電話をかける。発信者にある名前が何故「いも」なのかは、出会ったときに彼女が焼きいもを食べていたからだ。(ちなみに本人は自分の名前が「いも」と登録されているか知らない。知っていたら怒る)
あれは、雪がちらつく寒い冬の日だった――……
『……もしもし、死柄木?』
コールから数秒後、回想していた死柄木の耳に声が届いた。
『なんか久しぶりじゃない?』
「久しぶりってそっちから出ていったんだろうが。それに、まだ四日しか経ってねえ」
『あはは、そういえばそうね』
喧嘩別れしたのが嘘のように、電話の向こうでなまえは屈折なく笑っている。
『私もゲームごときにちょっと熱くなり過ぎたと頭冷やしてたの。もう少しでそっちに帰るわ』
「つーか、お前どこ行ってたんだよ」
『私は……』
そこで電話の声が遠くなった。電波が悪いところにでもいるのか。
『ハワイ……』
その単語を聞いた瞬間、死柄木はブチッと通話を切った。
「あいつ、ハワイに行ってやがった!頭冷やすどころか常夏じゃねえかよ!」
『ほう、ワイハとは景気がいいね。ワシも行きたい』
死柄木はそのままスマホをぶん投げそうな勢いだ。彼はハワイが嫌いだった。別にハワイに恨みがあるわけではない。だが、ハワイという言葉を聞いただけで虫酸が走る。
「俺はハワイに行く人間どもがだいっ嫌いなんだ」
お正月にはそろってサングラスをかけた芸能人、夏休みには浮かれた家族旅行の光景。
ハワイへの旅行は、まるで幸せと豊かさの象徴のようでブッ壊したくる。
着信:いも
今度はなまえから電話がかかってきたが、死柄木は無視した。あの裏切り者め……ハワイの地へ足を踏み込んだからには一生ハワイから帰ってくんな!
――そんな死柄木の怒りとは反対に、その数時間後、キャリーバックを転がしながら彼女は帰ってきた。
「ちょっと死柄木!ずっと私の連絡無視するなんてひどくない?」
「うるせぇ。ハワイの土を踏んだもんと俺はしゃべんねえ」
「しゃべってんじゃん。死柄木ってハワイ嫌いなの?てか、私が行ってきたのはハワイじゃなくてハワイアンズなんだけど」
……。ハワイアンズー?
「なんだそりゃ。ハワイの親戚か」
「福島にある常夏の楽園よ。日本にいながらハワイに行った気分になれるし、温泉もあるの」
…………。そういえばコイツ、温泉も好きだったなと思い出す。
「んじゃずっと日本にいたのか」
「うん。そもそも私、戸籍がなくてパスポート作れないから簡単に海外行けないしね」
戸籍がない、という言葉に死柄木ははっとした。なまえはなんてことのないように言った言葉だったが、彼女もまた、"普通"から外れた存在なのだとその一言からわかった。死柄木の溜飲が下がる。
「まぎらわしいんだよ……」
ぽつりと死柄木は呟く。そのあとなまえが言った「まっ、偽造パスポート作れば簡単に行けるけどね〜」という言葉は聞かないでおいてあげた。
「お土産もちゃんと買ってきたわよ。自分用にはスパリゾートで着たムームーがなかなか良くてそれにしたの」
キャリーバックから取り出して「似合う?」と、なまえは体の前にそれを合わせて見せる。
「派手な花柄がお前の頭の中を現してて似合ってんじゃねえの」
「ひねくれないと褒められないとこは全然成長しないわね、弔」
「まず褒めてねえしな」
続いてなまえは、キャリーバックから二つのラッピングされたものを取り出した。
「二人へのお土産はこれね」
「では、ありがたく頂戴するとしましょう」
「おいおいおい、待て待て待て」
なまえからお土産を受け取る黒霧に、死柄木は待ったをかけた。
カウンターの向こうに、黒霧は、普通にいた。
いや、いつからそこにいたんだよ!
「黒霧、お前は実家に帰ったんじゃねえのか」
そして、いつ帰ってきた。
「考えてみれば……ここが私の実家みたいなものでした」
「ここかよ。初耳だぞ」
「まあ、細かいことはいいじゃない!三人揃ったんだし。はい、これは死柄木へ」
「……ん」
受け取った死柄木は中身はなんだ?と袋を開ける。
「ファイヤーダンサーになりきれるファイヤー棒……あぁ!?」
スマホをぶん投げそうになって留まった死柄木も、今度こそ床に叩きつけた。――お前のセンスはどうなってやがる!?
「せっかく買ってきてあげたのに何するの!?」
「土産ならもっとマシなもん買ってこい」
むしろ粉々にされなかっただけありがたく思え、と死柄木は思う。
「私は気に入りましたよ」
これまたいつの間にか、アロハシャツを着た黒霧がそう言った。
「うんうん、似合ってる!いい感じ!」
「……確かに、思ったより似合ってるな」
「そう褒められるとなんだか照れますね」
なんだかんだ、そんな和やかなムードになり、どうやらヴィラン連合の解散の危機は脱したようだ。
雨降って地固まったところで、次なる一手を彼らは思案する。
ヴィラン連合のコンティニューの時は近い――。
『ところで、ワシへの土産はないのかね?』
「…………」
「お前……先生にだけ土産買ってこねぇとかありえねえだろ」
「だって会ったことないし、どこにいるかもわかんないし」
「土産外しは職場での円滑な人間関係を築くのにやってはいけないことの一つですよ、名字なまえ」
「えぇ……じゃあ、おやつに食べようと思っていたマカデミアナッツチョコをあげます」