前回――前代未聞の雄英高校の襲撃を果たしたヴィラン連合だったが。
目的であるオールマイトを亡きものにするのに失敗したどころか、返り討ちにあってしまった――……
「ねえ弔ーいい加減出ておいでよー。一緒にご飯食べよう?」
「…うるせえ。ほっといてくれよ…」
一時期は怒りに燃ゆる死柄木であったが。ここ数日、自分の部屋に閉じ籠り、すっかり塞ぎ込んでいた。
当然と言えば当然なのだが、敵の彼らを世間は味方しない。
連日のマスコミによるバッシング――
『敵連合と名乗る主犯の男に迫る!プロファイリングから見るに、大人になりきれなかった子供のような人物か!?』
『平和の象徴、現No.1ヒーローのオールマイトを殺害しようなんて、発想自体が想像力のない幼稚な思考の証拠ですね(笑)』
ネットの心ない誹謗中傷――
『ヴィラン連合ww名前ダサww』
『平和の象徴を殺そうなんてバカだよなww』
『結局尻尾巻いて逃げてんじゃん』
『中二病』
『いや、大二病だろ』
――極めつけはこの襲撃を受けてなお、強気な姿勢を見せる雄英だった。
『我々は敵には屈しません。毎年行われる体育祭も、警備を例年の五倍に強化して従来通り行います。この体育祭は雄英の行事というだけでなく、世間からも大きな注目を』
なまえはそこでうんざりして画面を消した。
「……ねえ、黒霧。私、引きこもりの子を持つ親の気持ちが分かったわ」
彼女は項垂れるようにカウンターに頬をつけて。
グラスの表面についた水滴を指でなぞる。
「物理的な扉じゃないのよ。心の扉。どうやったら弔は心の扉を開けてくれるかな?」
雪だるま作ろうって誘えばいい?と黒霧に聞くなまえに「肝心の雪がないです」と彼は淡々と答えた。
「弔もさぁ、ネット見なきゃいいのに。どうせ書いてるやつらだって大したことない人間なんだから。社会的抹殺だーって、正義を盾にして叩く、敵よりタチが悪いやつらよ」
「ああ見えて死柄木弔も繊細な所がありますからね。…図太い貴女と違って」
「ちょっと最後なんて言った?」
どうもこの間、黒霧のことを「ジジイ」と言った事を彼はまだ根に持っているらしい。
案外女々しい男よ、黒霧め。
「でも、真面目に深刻な問題よ。リーダーがこんなんじゃ活動できないし」
「そうですね……。このままでは我々は「オールマイトを殺そうとして返り討ちにされ、尻尾を巻いて逃げた」という汚名のまま終わってしまいますね」
「始まってもないのにそんな終わり方は嫌ね……」
「ええ、嫌です」
沈黙が訪れる。何か弔を元気づける方法はないかとなまえは考えた。
「……弔って特に好きなものとかないし、オールマイトの首取ってくるぐらいしか思い付かないわ」
「それができるなら最初っからやれって彼に殺されるのでは?」
「……確かに」
少しして。なまえは思い立ったように「ちょっと出てくる」と、黒霧に伝え、町に出る――。
煮詰まったら外に出るに限ると、彼女は宛もなく町を歩いた。
横浜の町並みは今日も平和だ。
平和過ぎてヒーローが廃業してしまわないか心配になるほどに。
歩きながら、なまえは真面目に考える。
――強い仲間でも探してスカウトして来るか。
ただ戦力になるだけでなく、カリスマ性がある人物がいい。
例えば、オセロの白を全部黒にするように。
あのネットの誹謗中傷の言葉を、称賛の言葉に塗り替えたら、さぞかし気持ちがいいだろう――。
そんな事を考えていた彼女の目に、ある物が止まった。
***
「とーむらくんっ!あーそびーましょ!」
「……。お前、喧嘩売ってんのマジで」
「桃鉄やろうよ、弔!黒霧と三人でさ!」
「……桃鉄?」
――お、食いついた?
なまえが先程目に止まったのは、電気屋で売っていたswitchだった。
彼はよく「ゲームスタートだ」「あの"個性"チートかよ」「お前の頭はバグってんのか」など、ゲーム用語を使うので、もしや好きなのかもと思ったのだ。
そして、桃鉄は皆で楽しむパーティーゲームだ。
「……どうしたんだよ、桃鉄なんて」
死柄木が部屋から顔を出す。
「さっきswitchと一緒に買ってきたの。黒霧と二人でやってもつまらないし、弔も一緒にやろうよー!」
少しの沈黙の後。
「………やる」
小さく答えた死柄木に、なまえはよっしゃっと心の中でガッツポーズをした。
酒とつまみも用意して、彼らは桃鉄を始めた。
桃鉄とは簡単に説明するとすごろくゲームだ。
日本が舞台のマップで、プレイヤーは鉄道会社の社長となって総資産一位を目指すゲームである。
「しがらき社長って信楽焼の会社の社長みたいな名前ね。たぬきが思い浮かぶわ」
「それを言うならくろぎり社長なんて、悪徳会社のラスボスっぽい名前だろ」
「っぽい!」
「絶対ブラック企業の社長だぜ」
「言えてる〜!」
「……。二人とも、このお返しはゲームの中でしますので」
そんな感じでゲームスタートした。
すごろくゲームらしく、まずは目的地がランダムで決まり、目指すところから始まる。
「最初の目的地は長野か」
「長野といえば信玄餅よね。おいしいけど、食べ方の正解が分からない食べ物上位」
「お前なぁなまえ……食いもん以外ねーのかよ」
「じゃあ他に何があるの?」
「長野といえば色々あんだろ。ほら……アレだ……。………林檎とか」
「結局食べ物じゃん!」
「長野でしたら、有名な善光寺がありますね。七年に一度、御開帳する」
「へぇ〜さすが黒霧!博識」
「……俺もそれを言おうとして出てこなかったんだ」
「いや、絶対知らなかったでしょ弔」
ワイワイ喋りながら、楽しげにプレイする三人。
すっかり、死柄木の心の扉も開いたようだ。
それだけじゃなく、楽しくゲームをやって、さらに三人の仲も深まるだろう。
――というのは幻想であった。
……ゲームを初めて数時間後……
「ふざけんじゃないわよ弔!私が特急カード三枚犠牲にして、沖縄から北海道まで大移動を成し遂げて、やっと目的地の札幌直前になったってとこで「みなぶっとびカード」使う?ねえ、血も涙もないの?九州に飛ばされて逆戻りなんだけど!!ひどくない!?」
「バーカ!これは相手を蹴落としてなんぼのゲームなんだよ!どこでカードを使おうと俺の自由だし、九州に飛ばされた自分の運の悪さを呪うんだな!つーか、お前だって散々邪魔してきただろうが!「刀狩りカード」で大事に取っておいた「スペシャルカード」奪いやがった恨み、忘れてねぇぞなまえ」
「……二人とも。散々私にキングボンビーを押し付けたこの恨みは、現実で晴らせばよろしいでしょうか……」
仲が深まるどころか、ゲームを始める前より険悪なムードになった三人。
「もー弔も黒霧も知らない!!ヴィラン連合は解散よ解散!!」
「勝手に解散にすんじゃねえよ!お前一人で脱退でも卒業でもしてろ!なあ、黒霧!?」
「私、地元に帰らせていただきます」
解散の危機を迎えたヴィラン連合。
次回、どうなる……!?