お友達?
さて、問題です。金をたかってくる友達は本当に友達なのでしょうか。
答えはNOであると俺は思っている。むしろ友達というか財布にされてるってやつだろう。同じようにしてやろうか、なんて考えたこともあったが、俺はそんな最低人間になど成り下がりたくなかったので耐え続けているのである。
そんなことはさておき。さっき散歩していたら途中でハルに誘われ、家と家との間に隠れていた。どんだけかくれんぼ好きなんだよこいつ。呆れながらも付き合う。語弊があるかもしれないから言っておくが、かくれんぼしようぜ! と誘われたわけではない。ついてきたらかくれんぼになっていただけだ。誰から隠れてるのかすら分かっていない。
ハルの影から覗き込み見えた大通りには、制服を着た学生がごった返していた。時間的に帰宅中なのであろう。賑やかである。
そう考えていると、ハルはいきなり手を伸ばし、誰かをこちらに引きずり込んだ。かくれんぼかと思ったら見つけてほしかったのかよ。それともなんだ、誰か他にも仲間がほしかったのか。引きずり込まれた誰かさんのお顔を覗きこんでみると、まさかのこの間会った、女。
「騒ぐな。騒ぐと犯す」
「おい、むやみやたらにそんなこと言うな」
女もびっくり俺もびっくり。強姦魔事件を阻止したと思ったら再来。ハルはもうちょっとオブラートに包むことを覚えるべきだと思う。そう言ったら無視された。この野郎、無視すんじゃねえ! いや、多分オブラートを知らないんじゃないか、そうしとこう。それがいい。
そんなオブラートを知らないハルはキョロキョロ何かを確認するかのように辺りを見渡すと、何事もなかったかのように、行くぞ、と身を屈めて歩き出した。人でも見ていたのだろうか。
場所は変わって河原。河原なうってやつだ。よく分からないままついてきたら河原についてしまった。何するんだ。因みに先程ハルが取っ捕まえた女も一緒である。土手にはそよそよと風が吹いていて、少し気持ちがいい。散歩コースに組み込んでいるので土手沿いはよく歩くが、いつ来てもいいところである。
「あのー……、こんな所でなにを……」
「来る途中ノラ犬見つけてよ。ここにかくまったんだ」
ハルは草むらをずんずん進んでいく。早い。先程かくまったという犬を探しているみたいだ。どんな犬なんだろうか。本当にノラ犬なのか。少し不安になった。
「犬!?」
「なんだよ。すげーヤセギスでよー」
犬というワードを出した瞬間、女が異常な反応を示した、気がする。女の反応からしてもしかして、犬が苦手なのか嫌いなのだろう。寧ろ動物事態駄目だったりするのかもしれない。アレルギーっていう可能性もある。
その時、犬が見えた。ハルが楽しそうに寄っていくので、もしかしたらあの犬がさっき言っていたノラ犬とやらなのだろうか。というかあの犬でかくねえか。見違えてなければドーベルマンじゃねえのか。ノラじゃなくねえ?首輪とリードついてるぜ、おい。
「おっ、いたいた」
待ったか〜、とのんきにドーベルマンを撫で回すハル。呑気すぎる。それは何処かの飼いドーベルマンだろ、脱走したドーベルマンだろ。女も多分ノラ犬じゃねえよ! と叫んでいる。いや、多分じゃねえだろ、多分つけちゃ駄目じゃねえのか。少し 、ほんとに少し目眩がして思わず米神を揉んだ。
とあるハンバーガーショップ。俺達はそこに場所を移していた。
ハルはストローが刺さったハンバーガーショップ特有のカップの飲み物を飲んでいる。女は女で振り回されて疲れた、って顔でハンバーガーを食べていた。俺はそれを横目で見ながら小さくため息を吐き、ポテトを1つ摘まんだ。そしてハルの向こう側には奴等、身なりが派手な、所詮不良集団、一応ハルのお友達、というものがいる。
「ハルくーん。金貸してよ」
「ああ? またかよ」
「頼むよ、友達でしょ?」
俺の片割れは友達というワードに弱い。友達でしょ? って一言言ってしまえば、そりゃもう嬉しそうに反応しながら相手の要求を飲み込む。今回もそりゃあもう嬉しそうにしながら財布を取り出した。なんでこいつ俺の片割れのくせにこんなにちょろいんだよ。俺はこんなにちょろくない……はず。ちょろくないぞ。ハルはそのうち、俺だよ俺、そう、お前の友達! 詐欺にでも遭遇しそうだ。長い? 知らん。俺友詐欺(長いから略した突っ込みはなしで)に俺は引っ掛からないぞ。怪しいだろ絶対。
俺はハルの手からハルの財布を没収する。ズボンの尻ポケットに入れていた自分の財布から、こりゃもう立派な立派なみんな大好き諭吉様を4枚出して、奴等に叩きつけた。
「ひとり1万。これやるから、いい加減にしてくれ」
「さすが、亜希く〜ん」
……こいつらうざい。うざすぎる。しかもわざとらしい。うるせぇ、と適当にあしらうと、奴等は下品な笑い声を上げながら上機嫌で店を去っていった。迷惑客だっただけじゃねえか、ただの。というか、あいつらぼんぼん坊っちゃんの癖に、みんな大好き諭吉様をひとり1枚で喜ぶとか、実は貧乏だったのか。見栄張っていただけだったのか。なんか、腹立つ。よく考えてみろ。なんであいつらの為に俺の大好き諭吉様を4枚も飛ばさなきゃいけねえんだ。なんであいつらの為に。畜生、こうなったらやけ食いだ。やけ食いでストレス発散だ。ストレス発散大事。
俺は席から立ち上がりカウンターへと注文をしに行く。
ハンバーガーのLLセットサイドメニューがポテトで飲み物コーラとチキンナゲット2箱頼んだ頃に、さっきまでいた客席から、ハルのしらばっくれんなー! と言う叫び声が聞こえてきた。何事だよ。目の前の店員が迷惑そうに向こうに視線を飛ばしていたので振り返ってみると、他の客達もそこを見ていた。俺あそこにいなくてよかった。巻き込まれていたら冷たい視線が突き刺さってたぜ。マジ居なくてよかったと。心底思っている。
因みに会話が全く聞こえてこないので、何が原因でハルが叫びだしたのかは謎である。双子とはいえ分からないことだってまぁ、ある。
そんな問題を起こしたハルは飲み物の蓋を開け、話の途中で女の頭上から飲み物をかけると店から出ていった。迷惑客かお前も……、この野郎。しかも女に飲み物かけるとか男としてよからぬ……、というか、待てよ、あいつ俺のこと誘ったくせに置いていく気か。
横目で見ながらぐぬぬと唸っていると、強気なのか女がハルにシェイクをぶっかけるのが見え、思わず吹き出した。あの女ヤバイ、最高かよ。走って逃げてく後ろ姿は遅すぎる。ふふ、と笑っていると店員が変な目で見てきたので、すいませんやっぱりお持ち帰りで、と顔を引き締めて言ったら、迷惑そうな顔をされた。すいません、トレイに乗せてくれたのにね。
店員のありがたくなさそうな、ありがとうございましたー、を背中に受けながら外に出るとハルはすでに居なかった。マジで置いてかれた。少し進んだところに息を切らしながら突っ立ている、びしょ濡れの女がいたので、俺は上着を脱いでかけてやった。
「おい、風邪引くぞ」
「……」
「……ハルは?」
「……私を追い抜いていった」
「マジでか」
あいつ、追い抜いたことすら気づかなかったのか。こいつが小さいからか、ハルがでかいからか。はたまたハルがお馬鹿さんなだけなのだろうか。まあそんなことはさておきだな。
「ハルと何があった」
「……」
「答えたくてもいいが、あいつから情報は入るからな」
女は少し戸惑っている様子だったが、俺が待っているとポツリポツリと色々話し出した。まあ、話の内容を要約すると、あんなのは友達じゃない、と言ってしまったらしい。最高かよこいつマジで。さっきも思ったけど最高かよ。俺もそれ思ってた。口には出さないけど。
「あー、それはまあ、あんたが悪いな」
「……私は本当のこと言っただけ」
「確かに俺もそう思う。あいつらのこと友達だとは思ってねえし、あいつらも俺等のことをただの使い勝手のいいATMだとしか考えてねえし。正直、あいつらとはつるみたくねえんだ」
「ならそうすればいい」
「確かにつるまなきゃいい話なんだ。だけど俺にはハルが居る。俺の片割れが友達だと思ってる以上、あいつらとの縁は切れねえ。だって、ハルにとってはあんな奴等でも、大切な友達だから」
そう、〈ハルにとって〉は大切な友達だ。俺? 文脈から察しろ。文脈とかメタ発言かよ、なんて。
だからしょうがない。そう俺が告げると、凄い顔と返された。失礼なやつだな。俺の顔はハルと一緒だぞ。そんなに酷い顔じゃないはず、とか何とか思っていたら、悲しそうと言われてしまった。そんな顔したつもりねえんだけどよー……。気まずくなってふいっと顔を背けながら手元の時計を見ると、大分遅い時間になっていた。
「送る」
「結構です」
「即答かよ、愛想ねえなあんた。まあいいけど。じゃあな」
水谷。初めて名前を呼んだ気がする。少し口角を上げて手を振ると、豆鉄砲を食らったような顔をした水谷が、小さく手を振り返してきた。うん、多分あいつとは仲良くなれそうな気がする。
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