ドアをこじ開けて玄関に座らせる。びちょびちょの衣服であがられると困る。シオリは急いでバスタオルを持ってくると男の服に手をかけた。どうなってるんだろう、この服。丈の短いブカブカのTシャツに下に不思議な三段腹のようなインナー。ペラリと丈の短い方をめくるとどうやら繋がっているようでインナーごと伸びる。シオリはお腹に手を伸ばすとスルリと持ち上げる。鍛え上げられた男の体をタオルで拭き取っていくとドラム洗濯機にぶち込んだ。びちょびちょの髪の毛も拭いてやる。彼は猫のように目を細める。上半身も頭も足先も拭いた。残るは・・・・・・、いや、これくらい自分で拭いてもらおう。彼にバスタオルを持たせると代わりの服を探しにクローゼットに向かった。確か、ついこないだまで一緒に住んでた兄の服が残ってたはず。ゴソゴソとスウェットを取り出して玄関に戻ると彼はおとなしく座っていた。
「具合はどうですか?」
そう聞くと彼は開口一言「シャワー浴びたい」と言った。
彼がシャワーに入っている間、シオリは洗濯機を回すと買ってきた食材を冷蔵庫にしまう。時刻は午後6時。もう作り始めないと。ご飯を仕掛けて吸水させている暇もないのですぐスイッチを押す。じゃがいもやにんじんを取り出して皮を剥いていると彼はシャワーを浴び終えたようで音も立てず横に立っていた。びっくりした。いつの間に。驚いてじゃがいもの皮剥きで滑って手にピーラーの刃が刺さる。やっちゃった。洗い流そうとシンクに手を持っていくと手首がとられて、彼は傷口をペロリと舐めた。彼の方は特に何も思っていないようであるので、気を取り直して皮を剥き茹でる。彼はじっとシオリが料理をする様子を見ていてまるでその姿は飼い主を見つめる猫のように見えた。ようやく煮込みの段階に入るとキッチンから離れてコーヒーを出す。テレビをつけるとちょうどニュースが始まっていた。
「都内に続く2週間の雨の原因は梅雨前線であり、今後3週間、雨が続く予定です」
3週間も?うげ、と思わず声が出そうになる。電気代はかかるが乾燥機を回すしかないか。ドラム式洗濯機から乾いた彼の服を取り出すと畳んで持っていく。彼は少し目を見開くと受け取った。グツグツと煮える音がして再び台所へ向かう。もう出来そうだ。ルーを入れてとろみをつけていく。服も乾いたし彼はどうするんだろうか。振り返って机の方を見ると彼はソファで寝転がって寝ていた。相当疲れていたんだろう。それもあんな地面のところに何時間も座って寝ていたら疲れるか。ブランケットをかけてやると先にご飯をいただいた。お風呂から上がってソファを見るとまだ寝ているらしい。時計は午後の9時を回っていて、この人は家に帰らなくて大丈夫なのか心配になってきた。終電もあるだろう。寝てるところ悪いけど。ソファの前にいってしゃがむとツンツンと頬をつつく。
「お兄さん、終電大丈夫ですか?」
ゆっくりと目が開いて目が合った。黙りこくっている男はじいっと見る、何か言いたいことでもあるのかななんて思っていると彼はここにいてもいい?と言い出した。それまたなんで。呆けていると男は手を掴んで「勿論タダでとは言わないから」と言う。「ここじゃあボクの口座が使えないみたいだから、体でお返しすることになっちゃうんだけど」体で返す?再び呆けているとグイと腕を引っ張られて男に上に馬乗りに状態になった。そのまま固まっていると男は笑い始め、さらに混乱する。彼はひとしきり笑い終えると手を離されスルリと腕を撫でられる。「ほんとにわからない?」肩まで撫でた手が胸に添えられてやっと意味のわかったシオリは顔が真っ赤になった。体で返すって、そういうこと。一応男の人なのか。今まで全く意識してなかったけど。
「で、どうする?」
「へ」
ぐるりと視界が反転して形成逆転になると情けない声が出て、男は「キミって色気がないねぇ」なんてため息をつく。「キモチよくさせるぐらいならできるけど、それじゃ足りなかったりする?」返事を急かすように耳元を唇が掠めて、肩が跳ねる。「ボク、よく褒められるから自信あるよ」男はニッコリと笑った。