サイト探しはココ 背徳の宴<アリ×コレ> 著・天草シノギ様 手を差しのべることができなかった。 小さなシグナルは、いつでも出ていたかもしれないのに。 それでも、気づかなかった。 ほどけていく手と手を、繋ぎとめる術を知らなくて。 失くしたくはなかったのに。 名前を。 その、声で……。 はじめて出会ったのはいつだったか。もうそれすらも定かではなく、覚えているのは真っ直ぐに前を見つめていた瞳だけだ。 ずらりと並んだ中で、彼女だけは違う目をしていた。 最初はビクビクとしていた。目を合わせようともしなかったし、仕事だけを淡々とこなしていた。 **いつだっただろう。 どうしてだか二人きりになる時があって。 城内の口さがない噂に飽き飽きしていた頃。 どうでもいいと思っていた。 自分が笑って喜ぶ者もいなければ、ただいることさえもが窮屈で仕方がなかった。 毎日が灰色で、どうしようもなく怠惰で、やること全てが気に入らなかった。 だから、彼女に突っかかったのもほんの偶然でしかなかった。それなのに。蔑まれて、きついことを云ったのに。彼女は自分を睨みつけるようにして、はじめて真っ直ぐ見つめてきた。静かな瞳に、燃えるような炎を宿して。何故あんなことを云ったのだろう。「レヴィアス様は、笑っていた方がいいと思います」 ……笑顔など、とうの昔に失くしていたのに。怒ることも無視することも忘れ、レヴィアスは彼女をただ呆然と見つめた。実の親にすら云われたことのないことを。目の前の少女は云ったのだ。謝りながら足早に去って行く彼女が、いつまでもレヴィアスの心に残った。 求めれば求める程に切なく。想えば想う程心は安らいでいく。ココロが焼かれ、胸の奥で血が騒いだ。今までの灰色を、純白に塗り替えてくれた。彼女の前でなら、笑えた。彼女の前でなら、弱みを見せることができた。 彼女の前でなら、泣くことさえも出来たかもしれないのに。 涙は。何よりも純粋で、堕ちる為にだけある。 そうやって。エリスは死んだ。 いっそ、殺してしまえ。ひと思いに。否。殺して欲しいのは、自分。 「そんなことしても、意味ないじゃない!」栗色の髪の少女が、顔を歪ませて叫んだ。少女**アンジェリークの髪についた羽が揺れる。「アリオス! ねえ、待って!!」 無視して足早に遠ざかる。それでも、彼女は一瞬躊躇った後ついてくる。頭の中がぐちゃぐちゃで。考える余裕も何もかもがなくなっていく。何であいつは泣いている……?その問いかけが、アリオスの足を止める。「アリオス!」追いついてきたアンジェリークが、アリオスを呼んだ。アリオスは緩慢な動作で振り返り、涙の残る彼女の顔を見て。そして、小さく笑った。「!?」驚愕したように、アンジェリークが目を見開く。一歩下がるのを追い詰めるかのように、アリオスが彼女の腕を取った。「……何でお前が泣いてんだよ」掠れた問いかけに、アンジェリークは唇だけで「え」と返した。掴まれた手が、痛い。 「お前が無く理由はない筈だ。なのに、何故お前は泣いている……?」「私は……!」云いかけて、アンジェリークは目を瞑って顔を背けた。彼女の固く閉じた瞳に、アリオスが舌を這わせる。「!!」もがいて逃れようとするアンジェリークを逆に抱え込み、アリオスは両手でその体を強く抱きしめた。「アリオス!?」戸惑うように云うアンジェリークの耳元に口を近づけ、アリオスは低く呟いた。 「!!」 アンジェリークが大きく目を見開いた。どこにそんな力があったのか、渾身の力を込めてアリオスの腕を振り払う。涙で濡れた顔で睨みつけるようアリオスを見て、アンジェリークは云った。「ずっと、そうやって生きていくのね……」ずしりと、アリオスの心に響く。無表情のまま、アンジェリークはアリオスの首に両手を回した。あたたかい筈の体が、ひどく冷たい気がした。「それとも。一緒に死んであげれば、それで満足なの?」囁かれた言葉に、アリオスが唸るように喉元で声を出した。そこにいるのは、アンジェリークではなかった。遠い昔、ただ、一人。自分を愛して……くれていた人。そして。叶わなかった……夢。「生」しか似合う筈のない少女が、「死」へと自分を誘う。幻のように。 **アリオスには、アンジェリークが何を考えているのかわからなかった。それでも、両の手は動く。アンジェリークの首に絡みつく両手を、アリオスは自分のものではないように感じた。震えている。辛いの?悲しいの?切ないの? ……後悔してるの……?ふと。アンジェリークの顔が歪んだ。輪郭が、髪が、その瞳が。よく見えなくなる。 エリスは、死んだ。アンジェリークと同じ顔の。全く違う心を宿した少女。嬉しいときには笑ったらいいの。そう云ったのは……。 **これで、よかったのだろう……?どこかで聞こえる囁き声は、アリオスに静かに問い掛ける。アンジェリークを傷つけて、エリスの死を冒涜して生きていく。 オマエニハ、ソノイキカタシカナインダ。 可愛そうに。誰にも愛されずに。ただ一人、愛してくれたエリスも救えなかった。己の無力さに打ちひしがれ、いつまでも引きずり、心を閉ざした。蔑み。怒り。 ……復讐。王座につけば、何もかも許されるのか。魔導の力があれば、自分は救われるのか。甦れば、エリスは笑うのだろうか。 崩れていく両手は、もう、彼女の手を握れない。名前を。その名を……。 アリオス……。 アンジェリークが、ほほ笑んだ。 「俺を、解放してくれ」 FIN. 後書き 今回のお話は、俺の自作の物ではなく、天草シノギ様と春日おしら様の両管理人が運営してる、「A DARK BOX」と言う名の同盟の会員になると配られる特典小説の一つです。気に入ったので、勝手に拉致って来ました。 |