想定外の結末

橘が悶々としている間に総会がお開きとなり、ぬらりひょんが部屋に帰って来た。そして、彼が告げたことに、橘は拍子抜けした。

「……え、江戸に帰る、というのか?」

「ああ、四国にいても何も収穫がない。それに、ワシもあそこまでボロボロになった妖怪どもを攻める気はねぇしな」

大きくため息を吐くぬらりひょん。橘はあまりのことに目を丸くしたまま動けずにいた。そのことに気づいたのか、ぬらりひょんは立ち上がって彼女の前に移動すると、頭をなで始めた。

「すまねぇな。何も収穫がなかったばかりか、橘がどこかの妖に襲われたっていうのに、そのときワシは居なかった。迷惑かけてばかりじゃ」

彼の言葉に、橘は真剣な顔で彼に内心を話す。

「もうよい、ぬらりひょん。こうして主が帰って来て、それで無事なことが一番なのじゃから……」

「橘……。やっぱあんたが居ると、心なしか気持ちが楽になるのう……」

「ぬらりひょん……」

ほがらかに笑う彼に、橘は恥ずかしくなり、頬を赤く染めた。だが、橘は一番の疑問を抱えたままだったことを思いだし、笑みを浮かべたままのぬらりひょんに尋ねた。

「それはそうと、ぬらりひょんはこの暫く姿を見せなかった間に何をしていたのじゃ?急に江戸に帰るなど……前に言ってたことと違うではないか」

その疑問に、彼は無表情となった。目を閉じて何かを思案するように黙りこんだ。

「……隠神刑部狸と会ってきたんじゃ」

「隠神刑部狸じゃと?この四国をまとめあげた、あの狸にか……?」

橘は目を丸くした。彼女は隠神刑部狸の名だけは知っていたのだ。

「そうじゃ、それで少し話をしてきてな……」

それからぬらりひょんは、隠神刑部狸と話したことを簡単に話した。

隠神刑部狸はこの四国を勢いによってまとめあげた。そしてその勢いにのり、あろうことか「人間の城」を乗っ取ろうとしたという。

隠神刑部狸の神通力が、四国八十八鬼夜行の力の源だった。だが、つい先日、その源である神通力は人間の「何か」の力により封じられてしまったという。隠神刑部狸は山奥の霊場に籠り、配下たちが未だに人間と抗争を続けている。そして、そんな人間との抗争はまだ決着がついてない状態のときに、奴良組が四国にやって来てしまったとのことだそうだ。

「そこで、ワシが力をかしてやろうかと言ったんじゃが……」

ぬらりひょんは愛用の煙管を片手に言う。

「断られたと……?」

橘は彼の言わんとすることを述べる。その言葉にぬらりひょんはうなずいた。

「自分らの身の丈にあった生活をしたいだとさ」

「身の丈に……か」

「ああ。ワシらが力をかせば、あの程度の人間どうにかなったじゃろうに……」

そう言って、ぬらりひょんは窓から見える外を見やる。窓から見える空は雲が少しあるものの、晴れて日が射していた。

「さてと、江戸に戻るよう手筈を整えてくる。外の景色もこれで見納めじゃから、今のうちに見てくるといい」

そう言ってぬらりひょんは部屋を出た。襖は開けたままだったので、橘はすぐに立ち上がり、そのまま船内から外に続く廊下を歩き始めた。特に外に出る用もなかったため部屋にいた彼女は、数日ぶりに外の新鮮な空気を味わった。潮の香りが涼しい風と共に流れる。橘は、重だるい気持ちをここで捨てるように深く呼吸した。



そして、その日の午後に、宝船は江戸に向かって四国の地を発った。



【今は遠い昔 〜完〜】

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