書店での騒ぎ

「なんだこれは……」

エドマンドが思わず口に出した。いや、彼でなくてもそう思うだろう。

フローリッシュ・アンド・ブロッツ書店に教科書を買いに来たマーガレットたちは思わずそこに立ち尽くした。

書店の前が中年女性で埋め尽くされていたのである。

マルティナがあれを見てと、書店の上階にある窓にかかった横断幕を指差した。


サイン会
ギルデロイ・ロックハート
自伝『私はマジックだ』
本日午後12:30〜16:30


「どこかで見た名前だわ」

マルティナが首をかしげたが、 マーガレットはすぐに思い当たった。

「今年の教科書、確かあの人が書いたものだわ」

「はあ、ふざけてんのか?この本が教科書?どこが教科書になるよか教えて欲しいね」

エドマンドが、書店の入り口に積んであるギルデロイ・ロックハート著の本を何冊か取り上げ、パラパラと見渡しながら言った。マーガレットもエドマンドのとなりでパラパラとしてみたが、どうみても教科書とは思えなかった。

「あら、ラヴィニア!あなたもロックハートに会いに来たの?」

突然、マーガレットの後ろから、甲高い声が聞こえた。振り返ると、ハーマイオニーが居たのだ。後ろには、ウィーズリー一家とハリーも一緒だった。

「こんにちは、ハーマイオニー。ハリーもロンも、みんな一緒なのね」

「おいおい、俺たちのことを忘れてくれちゃあ困るぜ」

そう言って、ウィーズリーの双子も現れた。

「久し振りね、フレッド、ジョージ」

「あなたが、ラヴィニアね?いつも子供たちがお世話になってるわね」

そう言って出てきたのは赤毛のふくよかな女性だった。ウィーズリー家の母親だろう。

「はじめまして、Mrs.ウィーズリー。こちらこそお世話になってます」

マーガレットは、久々に聞いた自分の仮名に、すぐ反応できるようにしといて良かったと思った。夏休みの間はマーガレットで通していたのである。

Mrs.ウィーズリーの後ろには、小さな女の子がいた。妹のジニーだったか。

「はじめまして、ジネブラ・ウィーズリーです」

少女は、自分より赤みの強い髪を持つ兄の女友達に挨拶をした。 マーガレットもそれに答えた。

「はじめまして、ラヴィニア・アルフォードよ。ホグワーツで会えると良いわね」

その頃、マルティナとエドマンドは本を購入し終えてきたようで、大量の本をどのように持ち帰るか考えていた。マーガレットも、挨拶を終えたので、必要なものを購入しようとしたところだった。

中に入ると、とても狭い所だった。なんでこんなところでサイン会なんか……と、マーガレットは内心愚痴をこぼした。

奥へと目的の本を探していると、サイン会主催者であろうギルデロイ・ロックハートの姿が見えた。座っている机のまわりには、彼の大きな写真が飾られて、詰めかけている女性ファンにウィンクし、輝きすぎて目に痛い白い歯を見せびらかしていた。もはや、胸くそ悪い光景でしかなかった。

ロックハート自身は、忘れな草色のローブに身を包み、魔法使いの三角帽をカッコつけてのせていた。逆に似合わない、と思ったのはマーガレットのように彼に夢中になっていない人だけだろう。

ロックハートを撮影するカメラマンが動いたときに、ロックハートはある一点を見つめた。と思ったその瞬間。

「もしや、ハリー・ポッターでは?」

そうなったら手が早い男だった。見つかったあわれなハリーは、彼の魔の手に捕まれ日刊予言者新聞のカメラマンに、ロックハートと共に写真を取ってもらっていた。そのときのハリーなんとも形容しがたい表情を浮かべていた。少なくとも、嬉しくはないだろう。

「なんと記念すべき瞬間でしょう!私がここしばらく伏せていたことを発表するのに、これほどふさわしい瞬間はまたとありますまい!」

マルティナとエドマンドが、いつの間にか隣に来ていた。

「まだ買ってたの?時間かかりすぎよ」

彼女が小声で告げた。マーガレットがそれを聞き、急いでレジの方へ向かおうとしたときだった。

「この九月から、私はホグワーツ魔法魔術学校にて、『闇の魔術に対する防衛術』の担当教授職をお引き受けすることになりました!」

「!?」

そこに居た三人は目を見開いて、発言者をあり得ないという表情で見た。エドマンドは冷や汗をもかいている。ロックハートは、しばらくまた演説をしていた。その間、三人は驚きのあまり一歩も動けずに居たのである。



なんとか、 マーガレットも本を買い終えて、書店からすぐに脱出した。あの混みごみとした淀んだ空気より、新鮮な空気ほど美味しいものはないと、感じていた。

買い忘れがないかそこでチェックしていると、突然書店の外でもガヤガヤとし始めた。何事かと見に行くと、ウィーズリー家の父親であろう人と、マルフォイの父親だろう、よく似たプラチナブロンズの髪を持つ男が殴り合いをしていた。近くに家族がいるのと、顔立ちが似ていることですぐにわかった。

「あの人たち、何考えてるのかしら」

「年上の人が考えることはわからん」

マーガレットの呟きに、ごもっともな事を答えたエドマンド。マルフォイはくすくすと笑っていた。結局、彼らの喧嘩をおさめたのは森番のハグリッドだった。こういうときには、あのような図体だと助かるなと思ったマーガレットであった。

マルフォイ氏は、こちらの視線を感じたのだろう、 マーガレットのことを一睨みすると、息子に一言声をかけこの場を去っていった。ウィーズリーの父親の方は、妻に支えてもらっていた。両者とも、顔か頭に怪我を負ったのだろう、赤く染まった箇所があった。



その後、フローリアン・フォーテスキュー・アイスクリーム・パーラーにて、パラソルの下で日差しを避けながらアイスを食べていた。

「ふざけないでよ、あんなやつが教師!?あれなら、どもりのクィレルの方がましだったわ」

マルティナが先程のナルシスト男を思い出したのだろう。テーブルをガタガタ揺らしながら文句を言っていた。

「いや、自習した方が良いと思うぞ、俺は」

「……そうね。それにしたって、毎年毎年よく飽きずに先生変わるわよね」

それには マーガレットもエドマンドも同意だ。だが、机を揺らすのはやめてほしいと願っていた二人である。

「随分前の話だが、その『闇の魔術に対する防衛術』に就きたかった人が、居たらしくてな。だが、その人はそれに就くことができなくて、逆恨みで呪いをかけたって、話があった」

エドマンドがマーガレットの問いに、コーヒーを片手に答えた。二人はへえーと、流す。だが、その人がだれなのかわからないとのこと。

「ほんとうなら、どれほど執念深い人なのかしらね。全く、ころころ変わるこちらの身にもなってほしいものだわ」

マルティナが最後のアイスの一口を口に入れた。今日の買い物も全て終わった。だが、帰るには少し早いのため、しばらくここで談笑することにした。

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