What I want to forget V

だが、それはマルチェロとその屋敷の者たちと、深く関わることになることとなってしまうのだった。それは不老不死の身となったクローディアにとって、とてもリスクのあるものだった。それでも、彼女は恩返しのために屋敷に留まり、マルチェロに尽くしていたのだが。



「おやめください!領主さっ……んぅ!」

彼女は布を口元に巻かれ、話すことができなくなった。そんなことをしたのはこの屋敷の主である。抵抗できないことを良いことに、両手を頭上で押さえられ、体を机に押し倒される。

「私の屋敷に居る以上、私の言うことは絶対だ。大人しくしてれば悪いようにはしない」

「〜〜!」

クローディアは、マルチェロの父に襲われていた。マルチェロのことで話があると呼ばれた彼女は、何の疑いを持つこともなく領主の執務室へと向かった。だが、話があるとは口実で、領主は彼女を襲うために呼び出したのだった。

「フン、口答えしなければ可愛いものだ。妻はつれないし、他に相手してくれるような空いてる女が居なくてね。それに比べたらクローディア、君は若いし、マルチェロの魔法の相手をするだけ。息子が勉強をしてる今、他にすることもなかろう?」

クローディアは口がきけない代わりに目の前の相手を睨むが、それは相手にとって加虐心を煽るだけのものだった。

「それに、このような足を出すようなスカートをお前は履いている。男を誘っているようにしか私には見えなかったが……どうなんだね?」

そう言って、男はスリット部分から黒いタイツに包まれた彼女の右足に触れる。体に力を入れて身を強張らせ、クローディアはうめき声を上げるが、何の役にもたたない。太股に触れた大きなその手は嫌らしく膝から腰へと撫で上げた。

「ン、ム〜〜!」

彼女は声をあげたくてもくぐもったものしか出なかった。ぞわぞわと悪寒が背筋を走る。嫌だ、気持ち悪いと思っても、身動きとれないこの状況では、目の前の男の言いなりだった。

気づけば手の拘束は無くなっていたものの、上のブラウスをはだけさせられており、白い布で押さえつけられた膨らみが露になった。

いよいよまずいと思ったそのとき。

コンコン、とノックがされた。ガチャ……と扉が開かれ、その先に居たのは。

「父上、クローディアはこちらにいま…………え?」

ドサッと少年は手に持ったものを落とした。

「……マルチェロ!?」

「ん〜〜!?」

自分の魔法の師匠であり、面倒を見てくれる姉のような存在を、自分の父親が襲っている光景に出くわしてしまったマルチェロ。父親は固まってしまい、口封じをされたクローディアはただ涙目でこちらを見ていた。マルチェロも入り口で立ち尽くしてしまっていたが、そこへ様子がおかしいと思ったマルチェロの世話係のメイドがやってきて、この事件は終わった。

結局、クローディアが領主に色目をつかって誘ったということになり、次の日の朝早く、彼女はその濡れ衣を着せられてこのドニの屋敷を追い出された。

寝る前にマルチェロがこっそり彼女部屋へと会いに来たが、クローディアは「ごめんなさい、これ以上ここには居ることができない」と言うしかなかった。マルチェロはそれに驚きと悲しみの表情を見せたが、すぐに部屋の入り口で閉め出されてしまい、どうすることもできなかった。

マルチェロはクローディアをとても慕っていた。義理の母親は表面だけの中身がない人、父親は自分のことしか考えない人、そして生みの母親はメイドという立場上で自分に恭しく接するだけで、愛情を与えてくれなかった。そんな中、クローディアは愛情をもって接してくれた。その彼女が居なくなってしまうことは、マルチェロにとってたまらなく嫌なことだった。だが、それ以降彼女と接することは二度となかった。



屋敷を出る直前、クローディアと同じ年ぐらいの若いメイド、レジーナが彼女を見送った。

「貴女は悪くないわ、ここの領主は女癖が悪いってのはここの屋敷、ひいてはこの少し先にある町では有名だから……。ご主人様が貴女を引き留めなさったのもきっと手を出すためだったかもしれないぐらいだもの」

メイドは悲しそうにしながら言った。クローディアは彼女とかなり仲良くしていた。

「そう、なの……。私はマルチェロ様に助けてもらったから、暫く恩返しできたら、と思っていたのだけれど……」

「そうね……。それにしても、未遂で済んで良かったわ、何年か前にできちゃった人がいてね……って、これ以上は口止めされてるから言えないわ。短い間だったけど……クローディア、元気でね」

「ええ、レジーナもね」

二人の女性はそこで別れた。レジーナは彼女の姿が見えなくなるまで見送っていた。

クローディアは、再びクロゼルクを探す旅に出た。二度とここの人たちに会うことはないだろうと、そう思いながら。



そして、二十年の月日が流れた今、その二度と会うことはないだろうと思っていた、一番会いたくなかった人物にクローディアは再会してしまったのだった。

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