彼女の正体
談話室でマルティナが本を読んでいると、青白い顔のラヴィニアが帰ってきた。今まで見たことがない、異常な青白さだった。マルティナを呼ぼうとしたのか、ラヴィニアの口元が微かに動いていた。
「ラヴィニア!しっかりして、ラヴィニア!」
マルティナは必死に彼女の名を呼んだ。それ以外何をすれば良いのかわからないほど、頭が真っ白になったのだ。
「どうしたんだ、マルティナ。……!」
男子寮からエドマンドが降りてきた。彼はよく分からない人物だが、頭の回転は良いとマルティナは思っている。ラヴィニアを一人で運ぶのは無理だが、彼が一緒なら下の医務室まで運ぶことができる。
医務室にたどり着き、校医に事情を話すも彼女が倒れた原因がわからなかった。そうこうしてるうちに、ハリーやロンといった後輩が関係していることがわかった。
そして。
「ラヴィニアとマーガレット・ポッターが同一人物……」
マルティナは、それがとんでもないことだと思った。
「おいおい、何かの冗談だろ?マーガレット・ポッターは、いくら探しても見つからなかったんだぞ。容姿が似てるからって……」
エドマンドはそれを信じられなかった。何といっても、ポッター一家の事件は魔法界では有名である。生き残った男の子、ハリーが良い例である。その姉、マーガレット・ポッターのことを知らないものはいないに決まっている。そして、彼はラヴィニアが幼い頃の記憶が無いということを知らない。
「ともかく、マダム・ポンフリーに伝えないと……!」
医務室までの道のりが果てしなく思えた。
そして、ラヴィニアは聖マンゴ病院へと入院することになった。医務室では手に終えないほどのことだったようだ。
「ああ、ラヴィニアに何かあったら……」
「落ち着け、マルティナ。言いたいことはわかるが、彼女が戻ってきたときにそんなんでどうする?いつもの小生意気で高飛車のお嬢様な君でなきゃ、ラヴィニアに示しがつかない」
エドマンドは、わざと彼女の気に触るようなことを言ってのけた。
「何ですって!?小生意気で……お嬢様はお嬢様だわ。小生意気と高飛車は余計よ!……はぁ、こんなんで元の調子に戻るんだから、私もまだ子供ね…… 。でも、ありがとう」
少し元気が出たマルティナは、白い顔を赤く染めた。
それから数日後、ラヴィニアが無事に退院できることを校長から聞いた。そこで、とんでもない事実も聞かされた。校長が戻った後、エドマンドと二人で談話室の隅に向かった。就寝時間も過ぎた今、二人の他に誰もいなかった。
「ほんとうに、ラヴィニアがマーガレットだったなんて……」
「信じられん、まさかこんなこと……」
二人がここで最初に発した言葉。それもそうだろう。自身の知ってる人物が、実は超有名人で、その上死んだとされていた人物である。驚かない方が無理というものだ。マルティナは椅子に座らず、ただ椅子の前に立ち尽くしていた。エドマンドは、座りはしたが背もたれにもたれず浅く座り、"考える人"のように前屈みになっていた。
「……何か不思議な子だとは思ってたわ。ほら、寝起きが青白い顔になってるって話、この前したでしょう。それに、幼い頃の記憶なんて、誰も忘れてるわ。でも、親や兄弟、ましてや自身の名前すら覚えてないなんて、確かに記憶喪失なんだと思ったわ。でも、いつかは思い出せるものでしょ?なのに、あんなアレルギーのように拒否反応起こすって……」
マルティナは自分がそのことを話して、ラヴィニアがどれ程大変だったかを思い知った。
「はあ、俺にはもうわからん。ただ、とんでもないことに巻き込まれたのは理解してる」
「そうね……」
パチパチ……と、暖炉で火が燃える音がよく聞こえた。ひんやりとした空気が、段々と暖かくなるような心地がした。
「ねえ、どうやって彼女を迎え入れたら良いのかしら……」
マルティナはふとしたことを、尋ねる。
「…………いつも通りで良いんじゃないのか。記憶が戻ったからって、急に人が変わる訳じゃないだろう」
エドマンドの言うことは確かだ。短期間失っていたわけではなく、十年以上もの間失われていた記憶だ。やすやすと性格が変わるわけがない。
「……そうよね、あなたの言うとおりだわ……。今まで通り、接しても何も問題ないわよね……!」
ポジティブな彼女は、すぐに元気を取り戻す。その様子に、エドマンドは呆れ返った。
「……何よ、その白い目は」
「いや、凄いポジティブ思考だと尊敬しただけさ」
「バカにされてる感じがするんだけど……、まあいいわ」
そう言って、マルティナは椅子から立ち上がり、窓辺に寄ると雪の降る夜空をガラス越しに見た。月明かりに照らされ、明るい外は神秘的にも見えた。
「……ラヴィニアはどう思ってるのかしら」
「何を?」
「本当の自分のことをわかって、どう思ってるのかってこと」
エドマンドは少し考える素振りを見せた。そして、苦い表情で話す。
「そんなのは彼女じゃなきゃわからないよ。まあ、俺だったら気が動転してまともに考えられないだろうけどね」
「…………そう」
それきり、二人は小一時間ほど談話室で過ごした後、自室へと帰った。
次の朝、雪は止んでいた。ラヴィニアことマーガレットは、無事にホグワーツへ戻ってきた。マルティナとエドマンドは、談話室の入り口にて、なんとも言えない気持ちで彼女を出迎えようとしていた。
「ほら、しっかりしろ。前に言ったろう、いつも通りのマルティナ・ヴィルヘルムスで居ろって」
エドマンドはそう言いながらも、どこかそわそわとしている。なにせ、あのマーガレット・ポッター本人だというのだ。「ただのラヴィニア・アルフォードなら、ここまで緊張もしなかっただろうに」と、彼は心中で呟いた。
すると、聞きなれた声が聞こえた。
「……マルティナ!それにエドマンド!」
グリフィンドールの印である赤いマフラーと、赤い裏地のローブをきた赤毛の少女が廊下の向こうに立っていた。
「遅いじゃない!私を待たせる気なの!?」
マルティナは、彼女の姿を見るや否や彼女に駆け寄り抱きついた。先ほどの動揺はどこに消えたのか、普段通りであった。
「ごめん、そしてありがとう。心配かけないようにしていたのに……」
エドマンドは帰って来た赤毛の少女を見て、ため息をついた。
「やれやれ、困った人だよ。俺まで巻き込むんだから」
迷惑そうなその言葉の裏には、どこか暖かみが感じられた。
「エドマンドも、私を医務室まで運ぶの手伝ってくれたんでしょ?ほんとうに、ありがとう。二人にはお礼をしなきゃね」
そう言われて、エドマンドは顔がほてるのを感じた。女子にそんなことを言われるのは、恥ずかしくて仕方がないのだ。
「お礼なんか良いのよ!あなたは大変だったんでしょう?さあ、ずっと寝込んでいたんだから、栄養を取って運動するのよ!」
そんな様子をものともせず、マルティナはラヴィニアを夕食へと誘う。
エドマンドは、ここ数日の間マルティナを散々心配してきたのは何だったのか、と心中で頭を抱えた。だが、とりあえず夕食をとるのが先決だという彼女の言葉には同意した。
「そうだな。ちょうど夕食の時間だ、下に行こう」
女子二人の間に確執はなく、ラヴィニアが倒れる前の二人の仲と何ら遜色なかった。その様子に、エドマンドは安心したと共に、どす黒くどろどろとしたを感情を心中に抱いた。
「兄さんも、彼とこんな関係だったのでしょうか……」
「何か言った?エドマンド」
ふと自身が呟いたのが聞かれたらしく、マルティナが振り返った。
「いや、何でもないよ」
『僕は…………そんな自由な兄さんを羨ましく、そして妬ましく思います』
彼女の正体