企画6

ぬら孫の方の一万打企画になります

※名前変換ありません
※時間軸は鯉伴が二代目となり、山吹乙女が嫁いできてから暫く後です
※珱姫は亡くなっております



ある頃から、江戸の吉原で遊んだ男が亡くなるという噂が流れた。だが、男の死体には何の目立った外傷もない。事件を捜査する役人たちも、"吉原で遊んだ男"ということから詳しく捜査もせず、「相手の遊女に大層惚れ込んで、一緒になれない悲しみなどから自害したのではないか」という考えで終わっていた。しかし、それにしては死ぬ男の数は増え続けるばかりであった。


関東に座する奴良組一家。初代総大将ぬらりひょんは、正妻珱姫との間にできた嫡男の鯉伴に家督を譲り、自信は隠居していた。そんな鯉伴は遊び人だったが、どこからかおしとやかで美しい娘、山吹乙女を連れてきて妻とした。そして、人間と妖怪の寿命差には抗えず、珱姫は数年前に亡くなった。

ぬらりひょんは、その悲しみにくれながらも前向きに考え、彼女があの世で笑ってくれることを願い、隠居した身ながらも放浪癖のある二代目の代わりにたまに組を支えたり、幹部連中とお茶を飲んで昔話を談笑することで悲しみを忘れようとしていた。

そんな奴良組にも、吉原の奇怪な事件は伝わってきた。怪死を遂げる、それは妖怪絡みのことが多い。ましてや吉原には女の怨念や男の欲望など、負の感情はうずまいているだろう。


「鯉伴様、近頃物騒な話が多いですね」

縁側で横たわる鯉伴を横目に、山吹乙女は部屋のなかで洗濯物を畳む。

「あー、吉原の話か?恐いねぇ、あすこは。男を骨抜きにしちまう」

ふぁ〜と欠伸をして、庭へと向けていた体を乙女の方へと反す。

「もう、鯉伴様。そうではなくて、あそこに妖怪が居るのではないのですか?外傷が一切無いだなんて、そんな話ありえません。毒殺とか……そんなことできるのですか?」

乙女は顔をムッとさせながら鯉伴に対抗する。鯉伴はそれを片目を閉じながら見ていた。


「なあ、親父いるか?」

「なんじゃ鯉伴、お主がワシのとこにくるなんて珍しいこともあるのう」

鯉伴は、あれから乙女の話を聞き、父に相談することにした。

「これは、シマ荒らしと言っていいのか?」

「……ううむ、こんなことをする輩はウチの組に居た覚えはない。外部の連中か、奴良組を知らない雑魚か。いずれにせよこのまま放っておくのはいかんじゃろう。しかし、場所がなぁ……吉原か」

ぬらりひょんは、顔をしかめた。鯉伴もどうしたものかと上を見上げる。だが、そうしたって良い案は思い浮かばない。どちらにせよ、吉原に行かなくては原因はわからない。

「親父……俺が」

「いや、鯉伴。おめぇさんは嫁を貰ったんだ。それなのに吉原に行くのはいかん。幹部連中からも何を言われるかわからん。ワシがちょっくら見に行ってくるから、お主はここで大人しく組を見てな」

結婚してからまだ数年。ただでさえぶらぶらと江戸の町に遊びに行く鯉伴を、快く思わない輩は少なからずいる。乙女は口に出してはいないが、まだ子ができないために石女だのどこからか拾われた得体の知れぬ女だのと、陰口を叩かれてるだろう。そんなときに、鯉伴が吉原に行ったとでもなれば、乙女への風当たりは更に悪くなるだろう。

「すまねぇ、親父……」

鯉伴は、そう言って頭を下げる。

「いんや、ワシも珱には悪いが……。じゃが、鯉伴が行くよりは良いじゃろう」


そうして、ぬらりひょんは数日後の夜に一人で吉原へ向かった。が、後をつけてくる者の存在に気がついた。

「ワシの後をつけるとは、さては鯉伴の差し金か?」

そう言うとぬらりひょんは立ち止まった。

「首無よ」

物陰から、金の髪を持つ頭と首が離れた男が姿を現した。

「……やはりバレましたか。(だから言ったのに……鯉伴め)」

心の中で悪態をつく首無。だが、表情にも出ており、その証拠に口元が歪んでいた。

「はあ、奴は心配性じゃのう……」

そう言いながらも、息子に心配されるのが嬉しいのか口元は笑っている。

「一人で行かせるのは忍びないとのこと。それに、昔少しだけ吉原に世話になってたので、少しはお役に立てるかと……」

「あー、毛倡妓と一緒だったしのう……。やれやれ、一人で遊ぼうと思っておったが仕方ない………。首無も付いてこい。後をコソコソされるのは気持ち悪くてかなわん」

そう言うなり、ぬらりひょんはサッと身を翻して先に進み始めた。首無は身を隠すことなく追いかけられることに安心し、その後を追った。


吉原につくなり、ぬらりひょんは堂々と足を踏み入れた。首無は彼を見失わないように早足で追いかける。人間たちはそんな妖怪の二人が紛れているとも知らずに、いつも通り賑やかに吉原での一時を満喫しようとしていた。

「それにしても、どこが例の被害者が出る店なのじゃろうか?首無、おめぇさん知っとるか?」

「かなり人気の高い遊女がいる所だとは聞いてますが、それ以外は……」

そんなときだった。彼らが妖気を感じたのは。

周りは人でごった返している。そんな中から微かな妖気のみで妖怪を探し出すのは至難の技である。だがぬらりひょんは喧騒の中から、人気の高い遊女の話を耳に止めた。男たちが口を揃えていうことには。

―箕島屋

―霧里

「箕島(みしま)屋……の霧里……か」

「ぬらりひょん様、如何なさいますか」

「入ってみるしかないのう、……箕島屋はどれじゃ……」

そう言うなり、明鏡止水で彼はゆらりと行方をくらませた。取り残された首無は、二代目の行方知れずになるあの癖は、彼の父親譲りなのだと思い知らされるのだった。


ぬらりひょんは首無を置いてきぼりにしたのをいとわず、箕島屋を探し続けた。だいぶ奥まで来たところで、妖艶で高級感漂う店の看板に、箕島屋と書かれてあるのを見つけた。

「ほう、ここが箕島屋か。高級感がひしひしと溢れておるのう……。それと同時に得たいの知れない妖気もな……」

彼のお得意の侵入癖で、前に出てる男を無視して妓楼の中へと入っていった。途中、綺麗に着飾った遊女たちと何人かすれ違ったが、何にも感じなかった。だが、奥に進むに連れて妖気が濃くなっているのは確かだった。それと、なぜか蜘蛛の巣があちこちにあるのが気になった。通路にも糸がぶら下がっていたりと、外見のわりに中の手入れは行き届いていないように思えた。

そして、とある部屋の前で絶対に"妖がいる"という気配を感じ取った。ここが住処かと、襖に手をかけようと彼の手を伸ばす。だが、手をかける前に襖は開かれた。

「誰でありんすか?」

「……っ!?」

中から現れたのは見ず知らずの遊女。

だが、ぬらりひょんはそれを驚愕の表情で見つめる。あまりにも目を見開いてるぬらりひょんに、遊女はあやしく微笑む。

「旦那、わっちの顔に何かついてるでありんすか?」

「……うそ、だ。……よ……ひめ?」

彼はゆらりと後退りするも、狭い廊下故にすぐに壁へとつき当たる。

何の因縁か知らないが、探し当てた遊女は、彼の愛しき亡き妻である珱姫と瓜二つの顔だったのである。髪が結われて沢山の簪に飾られ、きらびやかな着物を何枚も着飾ってあるとしても、その顔は見間違えることなく彼女のものであった。

「誰かとわっちを間違えてるでありんすか?わっちは旦那の顔に見覚えはありやせん……」

そう言いながら、目前の珱姫に似た遊女はぬらりひょんに近寄る。キツい遊郭独特の香の匂いに、ぬらりひょんはハッとする。そして、当の目的を思い出した。

「あんたがここの人気の遊女、霧里か?」

「あい、わっちが箕島屋の霧里でありんす……。旦那はわっちに何か御用で……?妖の君よ……」

「なっ!?」

「フフフ……」

不気味に笑いながら、霧里はぬらりひょんの首筋に噛みついた。プツリと細いものが刺さる音がした。

「……ガッ、ハ……」

「あのぬらりひょんにこんなところでお会いできるとは……。やはり、絶世の美女の顔は伊達じゃない」

ぬらりひょんは、目前にある女の顔を見た。珱姫と瓜二つの顔は、今やその面影もなく、蜘蛛のように四つの目がある化け物の顔になっていた。よく見れば、着物の裾がビリビリになっており、人間のものではないアシがあった。八本の脚……つまり、蜘蛛。

「きさま、女郎蜘蛛か!?」

名前を言い当てられたことが嬉しいのか、目の前の妖怪は牙を見せつけるように口の端を上げる。

「おお、おお、ようやく我の名を知るものに会えた……!思えば滝で人間を待ち伏せるのにも疲れたときから、数十年のときが過ぎた。ここ吉原でなら、いくらでも男はやって来る。つまり、私の餌が沢山いるのさ!」

牙に毒でもあったのか、ぬらりひょんの意識が朦朧としてきた。それを女郎蜘蛛は物欲しそうに見つめる。

「我のもとに、のこのこと現れた人間なら、我の作り出した遅効性の毒が原因で死んだ。外傷無いのは口移しの毒ゆえ……。その身を蝕むものに気づかないほどゆっくりとそのからだを侵食するのだ
!」

そう高らかに宣言したときだった。動けないはずのぬらりひょんがニッと笑ったと思えば、目の前から消えていた。

その直後、ビュンッと細いものがとんでくる音がした。それは赤い紐だった。

「なっ!?」

赤い紐は女郎蜘蛛の体にまとわりつき、動くことすらできなかった。

「総大将、お一人で行かれるなと申したのに……」

どすん、と音をたてて紐に巻かれたぬらりひょんが首無の足元に転がった。

「すまんのう、別嬪に会えると思うたら、足が進んでなぁ」

「はぁ、目前のものは別嬪ではなく、ただの妖怪のようですが?」

首無はほとほと疲れる方だと思いながらも、女郎蜘蛛をどうするかで悩んでいた。大した妖怪ではないが、毒に冒された主人の父をこのままにするわけにもいかない。仕方がない、と呟いて彼は紐をきつくきつく締め上げた。

「ギィヤアアァァァァ!」

耳障りな悲鳴をあげて女郎蜘蛛はのたうちまわる。だが、紐に縛られたその身は、さながら自身の作った巣に絡まったあわれな蜘蛛のようである。

「悪いけど、奴良組のシマで好き勝手されるのは困るからな。ここで死んでもらう」

そう言うなり、首無はそのまま獲物を八つ裂きにしようとした。だが、女郎蜘蛛が正体を現し、娘のからだから大きな蜘蛛となり、背中から現れた。人間の娘は、気を失って倒れていた。息はまだあるようだ。

「おのれ……、よくも我の邪魔を…………!ここでなら男をいくらでも喰らうことができるというに!」

捨て台詞をはきながら、その蜘蛛は早足で妓楼から逃げ去った。

「待て!」

首無は追おうとしたが、ぬらりひょんの毒の方が心配なために彼の手当てを優先した。ぬらりひょんの左の首筋に、二つの小さな穴があった。血が固まってはいるが、おぞましい青色に皮膚が変色していた。

「本家に戻りましょう、手当てが必須です!……ぬらりひょん様!?ぬらりひょん様!」

そんな首無の声を最後に、ぬらりひょんは気を失った。


気付けば、いつもの自室の天井が目の前にあった。

「親父……目ェ覚めたか?」

妻に似た息子の顔が目に入った。

「不甲斐ない、魑魅魍魎の主といわれたワシが……」

「…………」

鯉伴は、自嘲気味に笑う父に何も言えなかった。

「珱姫に瓜二つの顔をしとったんじゃよ、鯉伴」

「おふくろに……!?」

「そうしたら、手が出せなんだ……。違うとわかっていても、な。ワシは……まだ、あやつを失うた悲しみから逃れられんようじゃ……」

そう言って、顔を手で覆う父を見ていられず、鯉伴は静かに部屋を出た。

「おふくろ、俺ァどうすりゃいいんだ…………?」

あんな父をどうすれば慰められんだ?そんな疑問が暫く彼を包んでいた。





▼以下後書きという名の説明的なもの▼
珱姫ェェェー!なぬらりひょんです。失ってショボーンだったけど、何とか立ち直った矢先にこの事件。

ALICE+