無題1

「……わるいな。」
 まだ酒が抜けないのかどこかぼんやりした声で返す。
 今のオレは歩けないほどに酔ってしまっていて、相棒の男、|黎羽《レイハ》におぶってもらっている所だった。
 まぁ、そいつの事は嫌いじゃなかったし──異性として、好きだった。
 だから、今も胸の鼓動は聞こえそうなくらい響いていて、どうやって誤魔化すか(滅多に死なないけど)必死に考えていた。
「つぐみちゃん、暑くないですか?」
「あつくはない……。」
 普段羽織ってる黒いマントは暑くないようにと黎羽の肩にかけられている。
 あれさえあれば、朱に染まった頬も、据わってる目も、みんな隠せるのに……
 きゅっと抱きしめる力が強くなると同時に少し胸が苦しくなる。
「……おまえは、さ、こんなおれのころ……ろうおもっれ……るのか……?」
 呂律がうまく回らないが黎羽はわかってくれたのか、弱気なオレを励ますように優しく答えた。
「見かけによらずお人好しで、優しくて……最近、ちょっとかわいげがないですね。」
「かわいれなんて、もとからないようなもんらろ……。」
 そこまで言われると、さらに頬が熱くなったし、ちょっと腹立つのでオレは言い返してみた。
「あはは、そういうとこですよ*。
好きなら好きって言えばいいのに……」
 この時の黎羽はめんどくさいのでオレは話を逸らそうとした、がそれよりも先に黎羽が続けた。
「先程も……珍しく、そこまで強くないお酒をたくさん飲みましたよね。
──酔った勢いで私に告白しようとかそういう魂胆じゃないんですか?
最近飲みすぎる事が多いのも私に介抱してもらうため……ですよね?」
 バレてたのか……もう誤魔化しきれないくらい『女』になりつつある、いっその事今告白してしまった方が楽だとも思えた。
「あぁ……ごめーとー……だ。
なんなんらよおまえは……たんてぇか?……そういや、そっか。
じゃあ、こっちからもしつもんいいか?」
 もうどうなったっていいや、心臓が壊れてしまいそうなくらい強く脈を打つ。
「質問……ですか?」
 少し寂しそうな声で聞き返された。
「そうらよ、しつもんらよ。」
 オレがこれから何を言うかなんて、黎羽はわかってるくせに……。

 まだ立てないので公園に寄り道して、後ろの椅子に座り、いつもの黒いマントを羽織る。
 たしかに少し暑い。
 こうなるなら、もっと呑んどけばよかった……少し後悔しつつも呂律の回らない喋りで、珍しく、ちゃんと呪文を唱える。
 呪文を唱えるタイプは久々だし、ちゃんと魔法として成立するのか不安だったが、まぁ大丈夫だろうと謎の自信でなんとか読み終えた。
「……みてろよ。」
 オレは改めて念を押した。
 が黎羽が少し期待してる目だったので、保険のために期待するなと付け加える。
「しつもんら、おれは……おまえの、なんら?」
「つぐみちゃんは、私の…………大事な人、です。
……えっ!?」
 よかった、ちゃんと機能してたみたいだ。
 この時のために考えてた、嘘をつけなくなる魔法(2人まで)……。
「花火とか、月を綺麗に見せるとか、もっとロマンティックなものを期待していましたが、これもまたつぐみちゃんぽくていいと思いますよ?」
 黎羽はくすくすと笑い、オレにも何か話す事を勧めた。
「はなすことなんて……あるにきまってるらろ。」

 地面につかず、退屈な足を少し遊ばせながらオレは言う。
「たくさんある、おまえのいったことのいみとか、さっきのほめことばになってないのとか……おれらおまえのことずっとず*っとすきってこととか……。
あ」
「びっくりするほど素直に言っちゃいましたね?」
 黎羽は堪えきれずに笑いだした。
 こんな魔法は金輪際 使ってやるものか。
 オレはそう、満月に誓った。
「大事な人と言うのは、もちろん女性としてですよ?
前までは相棒でしたが今のつぐみちゃんの態度じゃ、そんな関係にはなれませんからね。」
「たいどってなんらよ、たいどって……!」
 オレは少し反論するが黎羽は口を指で抑える。
「戦う時は気が逸れているにしても、それ以外の時はいつも私にくっついて話してるじゃないですか。
そんなに話したがりでもないのに……。
あと、つぐみちゃんは変な所で素直ですからね。
そういう意味ですよ。
花火とかで好きと伝えても良かったし、月が綺麗ですねって言っても良かった。
つぐみちゃんくらいですよ?この年で嘘つけなくする魔法だなんて。」
「おれが……たんじゅんって、ころもみたいっていいひゃいのか?」
 オレは少しむっとするが黎羽は頬をつつき、そんな事ないですよと言いたげな笑顔でいる。
「いえいえそんなことは……少し思ってました。」
「やっぱり!」
 オレはつい立ち上がったがふらっと来てしまい、黎羽に抱きしめられる形になってしまった。
「れいは……その、てれるから……はにゃ…………はなせ……。」
 そう言った後に、この酔い具合じゃ自力で椅子のもとにすとんと戻れる気配が無い事を察した。

「やっぱこのままがいい……。
むひろおひめさまらっこれもいいくらい……。」
「まだ自分の気持ちについて言ってないからダメです。」
「なんらよ、その いえばいいよ みたいないいかたは……。」
 言えばしてくれるのかって事ばかり考えてしまう。
 でも、今のオレが言える言葉なんてさっき言われた通りの事じゃないか……。
 ちくしょう、使う魔法間違えた。
「……れいは」
 酔ってるのか照れてるのかわからないくらい頬を染めて、自分より背の高い黎羽を見あげた。

「こんなことばしか……れないけろ…… さ…………その…………だいすき。」
 もっとシチュエーションを考えるべきだった。
 呑みすぎて立てずに好きな男に抱きしめられながら告白するなんて、全然ロマンティックじゃない……。
 なんなんだこの状況……エロ同人か?エロ同人じゃないよな!?
 どうしよう、死ねないのに恥ずかしくて死んでしまいそうだ。
「────私もですよ、|十五夜 月魅《ジュウゴヤ ツグミ》様。」
 そう言って、黎羽はそっとオレの唇を……もちろん比喩的な意味でだが、意外と強引に、奪った。
 大胆な黎羽にドキドキするオレに気付いたのか黎羽は小声で「普段はかっこいいつぐみちゃんがかわいい顔してますからね?」と言った。
「さ……さりれなくほめるんじゃねぇよ……うれしすぎてしぬだろ……?」
「じゃあ、もっと天国見ちゃいますか?」
 舞い上がりそうなオレを、黎羽はじっと見つめ────後ろの椅子に座らせて、頭を撫でた。
 突然の事でつい早口になる。
「!?だからぁ、なれなれしゅるにゃっれ…………んっ」
 口に突っ込まれた物にオレは驚いたがそれと同時に少し安堵した。
「……きょうはしあわせきねんびかな。」
 もし師匠が師匠の好きな奴になでなでからのディープキスなんてされたら、すぐに文字通り地に足がつかなくなるだろう。
……まぁ、オレも背が少し低いから、高い椅子に座ってたせいで、文面としてはそうなっているのだが。
「……まんぞくか?」
「いいえ?まだまだです。」
 黎羽はオレをひょいっと持ち上げ、お姫様抱っこをした。
「やっぱこうして見ると女の子ですね。」
「……おまえのせいだよ。」
 もういいだろと降ろすように頼むと「つぐみちゃん、酔っ払ってて立てないじゃないですか。」と言い訳をして、降ろす気配が無かった。
「……せめておぶって。」
「それもそうですね、失礼しました。」
 すっと黎羽はオレを降ろすが自由になった瞬間にやはりふらっとしてしまい立てなかった。
「て……てをつなれば……。」
「ベロベロに酔ってるんですから、大人しくしてください。」
 黎羽はそっちに倒れ込むオレを優しく受け止めて、背中をとんとんと優しく叩いた。
「れいはぁ……」
 少し甘えた声が出た瞬間、名残惜しい気持ちで満たされたオレの瞳に涙が滲む。
 黎羽は苦笑しつつも優しく「やっぱり明日ですかねぇ」と言い、オレの顔を隠すように長いコートをかぶせて、きゅっと抱きしめた。

 精神系魔法はピンチの時以外使うなとあれほど言っていたのに……。
 いろいろあって泣きだしそうな彼女をきゅっと抱きしめる。
「かえるのか……?」
「こんな状態で恋人ぽいことやってもロマンティックじゃないですから。」
「れいはとやっとらぶらぶなのにぃ……っ。
もっとれいはとおはなししたいぃ……ひっく。
もっとれいはとすきすきしたいぃ……ぐすっ。」
 とうとう酔いが回ったのか、魔法の副作用かで彼女はぎゅっと私に抱きつき涙目でだだをこねた。
「また明日、恋人ぽいことをやりましょう?
……あと、精神系魔法使うとめんどくさくなるって言われるはそこが原因ですよ?」
「やらやらぁ……れいはすきなのぉ……。
めんろくさくてもいいのぉ……。」
 彼女は子供みたいにぽろぽろと涙を流し痛くも痒くもない力で胸をぽかぽかと殴った、私はそんな彼女をなだめ、普通の抱っこをする。
 こんな彼女を、彼女の師匠に見られたら絶対に人の事言えないって言われるだろうなぁ……。
「なれなれしてぇ……ぐすっ」
「はいはい……。」
 彼女の頭を撫でると、落ち着いたのか眠くなったのか、少しずつ彼女の瞼が重くなってきた。
「れいはぁ……おやすみぃ……。」
「おやすみ、つぐみちゃん。」
 やっぱり、素直なのが一番だ。

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