終幕の雪
ナルトが手を下すまでも無く、再不斬は傷だらけだった。
幾らかは首切り包丁で防いでいたけれど、それでも真正面から行けば数には勝てない。
背中を幾つもの槍で刺され、幾つもの剣でその皮膚が裂かれ、それでも再不斬はガトーだけを見据えていた。
その尋常ではない行動に、有象無象は恐怖で慄き始める。
やがてガトーの首を跳ね飛ばした頃には、、満身創痍だった。
血に濡れた塊が、白の元へ歩こうとして、途中で崩れ落ちる。
その目で、再不斬は何を見たのだろう。
鬼人さえ居なくなれば勝てると考えたのか、奴らが再び獲物を構え始める。
「クソ忍者どもめ、せっかくの金づるを殺してくれちゃって…!」
「お前らもう死んだよ!」
「こーなったら俺ら的には町を襲って」
「金目のものぜーーーんぶ頂いていくしかねーっつーの!」
「そうそう!」
普段なら聞くに堪えない雑音だと流したはずだ。
しかし今の状態ではそれも無理のような気がした。
「おいナルト、落ち着け」
カカシの手がナルトを囲い込むように抱きしめる。
これ以上平気な顔で人を殺して欲しくないと言う、教師の細やかな抵抗。
燻ぶる殺気を抑えつけながら、ナルトは開いた瞳孔でただただ奴らだけを見ている。
暴風のように吹き荒れる殺気を感じ取れないのか、有象無象は走り出した。
サスケとサクラがタズナを庇うように身構え、敵の攻撃を覚悟した時―――。
一本の矢が、彼らの間に突き刺さった。
「「「「!?」」」」
その場に居た全員が目を見開き、矢の出所を探る。
そうして目を向けたその先に、彼らは居た。
「それ以上この島に近付く輩は…島の全町民をもって!!生かしちゃおけねェッ!!」
一番前に立つイナリを筆頭に、島に住むもの全員が、各々の武器を構えてそこに居た。
サクラとカカシは数日前だと考えられないその光景に目を見開き、サスケは約束通りイナリが現れたことに満面の笑みを浮かべる。
「イナリ!!」
「へへっ、ヒーローってのは遅れて登場するもんだからね!」
「イナリ…お前達…」
タズナから、信じられず感極まったように震える声が吐き出される。
イナリは頷き返すと、再び武器を構え、島を乗っ取ろうとする不埒者達を睨み付けた。
たじろぐ敵は、しかしまだ勝機を失っていないとじりじり近付いてくる。
カカシは腕の中から聞こえた溜め息に目を瞬かせた後、そっと拘束を解いた。
殺気は消えていて、いつもの面倒くさそうな空気を纏ったナルトが、それはそれは深いため息を零している。
そのまま何かを噛み締めるように目を閉じていたが、やがて十字に印を結んだ。
「多重影分身の術」
―――ぼぼぼぼぼぼぼんっ
橋から溢れんばかりのナルトが、そこかしこから敵を睨み付ける。
流石の敵も、悲鳴を上げてたじろいだが、決定打にはならないらしい。
ナルトがカカシを見る。
お前もやれよ。
目は口ほどにものを言う。
威圧されているような気さえしたカカシは、急いで同じく印を組むと、残り少ないチャクラで大量の自分を出現させた。
こうなればもう、数で勝負どころの話ではない。
今や橋の殆どを金と銀の頭が埋め尽くし、誰も彼もが獲物を狙い、身構えている。
その魑魅魍魎を見たような恐怖に見舞われた不埒者達は、情けない悲鳴を上げながら身を翻した。
「やりませェ〜〜〜ん!!!」
「うわああああ逃げとけェ〜〜〜〜!!!!」
阿鼻叫喚地獄絵図。
我先にと船に乗り込む者の中には、そのまま川に落ちていく者も。
―――島の町民たちが、歓声を上げた。
∞
「俺がトドメをさすまでもないな」
「…頼みが、ある……あいつの顔が、見てェんだ……」
再不斬の願いに、ナルトは背中に刺さったままの武器を引き抜いてやり、カカシを見た。
一つ頷いて、カカシが再不斬を抱え上げる。
「再不斬」
恐らく、これが最後に掛ける言葉になるだろうと。
そんな感情を込めた呼び方。
カカシが足を止める。
聞こえているのか、聞く余裕があるのかわからないが、それでもとナルトは呟いた。
「―――幸せにな」
再不斬は今にも死にそうな体の痛みすら忘れ、大笑いしそうになった。
今から死ぬ人間に向けて、何を言っているのだこの子供はと。
けれど、
何故だか嬉しく感じた。
一緒の場所に行けるだろうか。
あっちでも、同じ夢を見れるだろうか。
「………ああ」
―――だけど、信じてみようと思った。
不思議な子供がそんな台詞を吐くなら、最後の最後で、その言葉を信じてみてもいい。
雪が、降り始める。
雪の世界で育った白が、よく思い出していた雪が。
(白よ…泣いているのか……)
白の隣に下ろされる。
ぼんやりと見つめる先に、白が寝ている。
ずっと隣に居た。
ずっと一緒に居た。
「…できるなら、お前と…同じところに……行きてェなぁ」
幸せにな、と言われた。
見ず知らずの、会ったばかりの子供に。
そうか、なら、大丈夫か。
いつかまた、一緒になれるのか。
酷く穏やかな気持ちのまま、再不斬の意識は途切れた。
余談ではあるが、例の大橋はイナリ大橋と名付けられたらしい。
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