砂漠の我愛羅
波の国の一件から木の葉の里に戻って来た7班は、今日も今日とて暇な任務を遂行していた。
もっと凄い任務をやりたいのか、サスケは酷く不満げで、ナルトもそれには同感な様子だった。サクラが天に向かって伸びをしているところに、空を一羽の鳥が横切る。
その鳥の意味に気付いたのは、生憎二人だけだった。
「さーてと!そろそろ解散するか。俺はこれから任務の報告書を提出せにゃならん」
「……」
じゃ、とさっさと消えてしまったカカシと、何処に行くのかもわからないが姿が見えなくなったナルト。
サスケもサクラも、声をかける前に居なくなった二人に暫し茫然としていたが、すぐに意識を取り戻す。
「もー、二人ともマイペースすぎんのよ!」
「せめてこっちからの応答も聞けよって話だよな…」
グチグチと文句を言うが、今この場に居ない人間に言ってもどうしようもない事は十分承知である。
二人は深いため息を吐くと、お互いに顔を見合わせた。
「あー…じゃあサスケくん。私と甘味でも食べに行かない?今日という今日はあの二人の文句を思う存分言い合いましょう」
「…ま、それもいいか」
デートと言うような雰囲気でも無いが、そのまま二人は歩き出す。
イタチにも団子の土産でも買って行ってやろう。
そんな事を考えながら歩いていたサスケは、前方で走り回っている子供たちに気付く。
(…木ノ葉丸?)
三代目火影の孫でもある木ノ葉丸とは、だいぶ前に知り合って以来仲良くしている。
そんな木ノ葉丸が同じ班員の子供だろうか…と、元気に遊びまわっていたのだが、不注意で誰かにぶつかっている。
苦笑しながらそれを見ていたサスケは、次の瞬間目を見張った。
ぶつかられた相手が木ノ葉丸の襟首を締め上げ、何やら文句を言っているではないか。
これは只事ではないと、サスケは走り出す。
「サスケくん…!?」
ぶつかられたのは二人組らしく、それぞれが男と女。
そして額には木ノ葉の忍びではなく、砂隠れの忍を現すマークが刻まれていた。
何故木ノ葉に他里の人間が居るのか。
そんな疑問をぶつける前に、サスケは制止の声を上げた。
「待て!」
「…?」
不気味な模様の入った顔をした男が、こちらを見遣る。
隣の女は面倒くさそうな顔で、男に対して小言を言っていた。
「その手を離せ」
「お前、誰だよ」
「そんな事どうでもいいから、その手を離せっつってんだ」
一触即発。
そんな空気が流れる。
男は面白そうに顔を歪めた後、余計に木ノ葉丸の首を締め上げた。
「俺、チビって大嫌いなんだ…おまけに年下のくせに生意気で、殺したくなっちゃうじゃん」
「なっ」
殺す。
平気な顔で子供を殺すという男に、サスケの殺気が膨れ上がる。
サクラも、あまりにも非人道的な言動に眉を吊り上げ睨み付ける。
「あーあ、私…知らねーよ」
女がぽつりと呟いた言葉が辺りに響く。
木ノ葉丸を殴りつけようと振り上げられた手に、掴みかかろうとするサスケ。
そこに、何かが飛んできた。
―――ガッ
鋭い音を立てて投げ込まれた石が、男の手首を直撃する。
その衝撃で解放された木ノ葉丸は上手く受け身を取れず尻を打ち付け、当たった石が辺りに転がった。
サスケが石の出所を探せば、木の枝にしゃがみ込んだナルトが男を睨み付けている。
「…人んちで好き勝手すんなって教えて貰ってねーのかよ、ガキ」
「なんだと?」
ガキと言われ、腹を立てたのか。
男の眼光が鋭く光る。
しかしそんなものはどうでもいいと、ナルトは眇めた目で見下ろしていた。
「ナルト!」
サスケの呼び声に一瞬気を逸らすが、すぐに男へ視線を戻す。
その顔は酷く不愉快そうで、苛立っているように思える。
「おい!降りて来いよ。俺はお前みたいに利口ぶったガキが一番嫌いなんだ…」
ナルトを睨み付けながら、背中にしょっていたものを下し始める男。
女は流石に焦ったのか、冷汗を掻きながら止めるような仕草をする。
しかし、男を止めたのは女でもナルトでも無く、ナルトの後ろから聞こえた"声"だった。
「カンクロウ、やめろ。里の面汚しめ」
正に鶴の一声。
姿を現したその男は、不思議な出で立ちをしていた。
まず、後ろに背負っている大きな瓢箪。
そして額に刻まれた「愛」という文字。
目の周りの酷い隈。
異様なその男の登場に、誰もが目を奪われる。
カンクロウという男は、先程までの威勢のよさは何だったのかと言いたくなるほどに情けない微笑みを浮かべ、その男を見ている。
我愛羅。
そう呼ばれた男は、ただ淡々とした声で言葉を紡ぎ続けた。
「喧嘩で己を見失うとはあきれ果てる…何しに木ノ葉くんだりまで来たと思っているんだ…」
「き、聞いてくれ我愛羅。こいつらが先につっかかってきたんだ…!」
カンクロウの言い訳じみた叫びに、我愛羅はただ一言。
「黙れ…殺すぞ」
というのみ。
取り付く島もないとはこの事を言うのかと、サスケは身構える。
酷くビリビリとしている、何人も寄せ付けない空気を漂わせた男だった。
…言うなれば、"孤独であり孤独を望む目"をしている。
我愛羅は風にまかれると、カンクロウと女の間に降り立った。
それと同時に、ナルトも下へ飛び降りる。
対峙する両者。
強く交わる視線。
周りは、二人の放つ空気に威圧されたように一歩下がる。
―――先に話し始めたのは、意外にもナルトだった。
「砂漠の我愛羅か。テメェも俺と同じだな」
「…同じだと?」
「ああ」
「ふざけるな…俺と貴様の何が同じだと言う」
「…だってお前、中に飼ってんだろ。守鶴を」
「!!」
初めて表情を崩す我愛羅。
サスケやサクラは何の事かわからずに首を傾げるが、砂の忍二人は知っているようだった。我愛羅と同じく、驚いたような表情でナルトを見ている。
暫しの沈黙を経て、今度は我愛羅から口を開く。
「では、貴様もそうだというのか」
「ああ。俺が飼ってるのは狐だ」
二人にしか通じる事の無い何かがあったんだろうか。
我愛羅は一瞬だけ何かを考え込むように瞼を閉じていた。
数秒の後、瞼の下から現れたその翡翠の目をナルトへ向ける。
ナルトも、仄暗い碧を我愛羅へ向けていた。
「―――我々は中忍選抜試験を受けに木ノ葉へやってきた…貴様、名はなんという」
「―――俺はうずまきナルト」
ナルトの名前を聞いて満足したのか、一つ頷く。
「行くぞ」
我愛羅の一言と共に三人はそのまま姿を消す。
恐らく、木ノ葉での滞在場所に向かったのだろう。
酷く歪な三人だったな、などとおかしな感心をしていたサスケだったが、ふと意識を戻す。
「…いや、ちょっと待て」
そして慌てたように、何事も無く去ろうとしていたナルトへ待ったをかけた。
ナルトはと言えば、我愛羅が相手の時とは違い、至極面倒くさそうに振り返る。
その扱いに特大ダメージを負いながらも、サスケはなんとか言葉を口にした。
「守鶴とか狐とかの会話も気になったけど、それ以前に中忍選抜試験ってなんだよ」
サクラもハッと意識を戻して首を傾げる。
ナルトは呆れたような視線を二人に向けていたが、珍しく教えてくれるらしい。
そして、なんて事の無いようにとんでもない事を口に出す。
「中忍になる為の中忍試験本戦への出場者を決める試験が明日からあるんだよ」
「へー……」
……、え?
「明日からぁ!?!?」
サスケの大きな声に、木に留まっていた鳥たちが一斉に羽ばたいた。
突然騒がしくなった二人を見ていたナルトは、ふと視線を逸らす。
木々の合間に見えた三人を横目で見ていれば、そのうちの一人と視線が重なる。
「…!」
驚いたような顔と共に、音も無く消え去った三人組。
生憎、その場に居てその出来事に気付いて居るのは、ナルト一人だった。
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