中忍試験の幕開け

昨日カカシに貰った志願書を片手に、二人との待ち合わせ場所へ向かう。
どうやら俺達7班の担当上忍は、3人共を推薦してくれたらしく、強制ではないが参加可能との事。
その期待は嬉しくもあり、とんでもないプレッシャーでもあった。
兄さんにはお前ならできる、頑張れと頭まで撫でられたので頑張るしか無いのだけれども。

受ける場合は志願書にサインして午後四時までにアカデミーの301まで行く事。

言われたことを頭の中で反芻しながらアカデミーまで行くと、確かに溢れんばかりの忍が集まっていた。
その中に二人の姿を見つけ、走り寄る。

「ナルト、サクラ、おはよう」
「あ、うん。オハヨ!サスケくん…」

気のせいだろうか。サクラの元気が無いような。

そう感じつつも、いつも通りに振舞っているので突っ込むことは出来ない。
表情を見るに、あまりこの試験に乗り気ではないらしい。

何故だろう。
歩きながら考えてみて、それとなく理解する。

―――劣等感。

自分がイタチに持っている感情を、彼女も俺達に持っているのかもしれない。
サクラの浮かべる表情は、兄の偉業を見て聞いて凄いと感じると共に焦燥感を隠しきれない俺と全く同じだった。

確かに、ナルトのように規格外の強さを持っているわけでも、俺のように写輪眼などの血継限界を持っているわけでも無いかもしれないが、けれど自分よりはチャクラのコントロールが上手いのだ。
それはとんでもなく誇ってもいい事だと、俺は思う。

どのようにしてサクラを元気付けるべきなのか考えながら、俺達は目的の301まで歩く。
上の階へ行く道に差し掛かった時、変な違和感に襲われる。
全身を制限されているような、非常に不愉快極まりない感覚。

一体何事かと写輪眼を発動させれば、どうやら自分は幻術でできた結界に足を踏み入れているらしかった。
こんな継ぎ接ぎだらけの幻術に時間を取られるのも癪すぎるので、殴り飛ばされていた少年少女と、扉の前に陣取り何かを喋っている二人の間に割って入る。

「悪ィけど、通してもらうぜ。この幻術でできた結界を解いてくれ。俺は三階に行きたいんだ」

何を言ってるんだ?
さあ。

そんな囁きが聞こえる。
確かに、男たちの陣取る扉のプレートには301と書かれているが、生憎ここは三階ではない。
ナルトとサクラに視線をやり、確かめるように言う。

「お前らもわかるだろ?二人とも、俺より分析力と技術のノウハウがあるしな。…特にサクラは、俺よりもそれが凄いから」
「………っ!」

サクラの顔が一瞬の間を置いて明るくなる。
その変化に驚きつつも首を傾げれば、先程より活気の戻った顔でサクラは笑った。

「…もちろん、気付いてる。だってここは二階だから」
「……」

ナルトは相変わらず読めない表情であったが、静かに頷いてくれた。

その瞬間、空間が気持ち悪いほどぐにゃりと歪み、プレートの数字が本来の201へ戻る。
二人のうち片方が、ニヤリと口角を上げた。

「ふーーーん。なかなかやるねェ。でも、見破っただけじゃあ…ねえっ!!」
「!!」

繰り出される蹴り。
それに反応し、反撃の一手を繰り出すより早く、俺達の間に何者かが躍り出る。

またナルトかと思ったが、其処に立っていたのは先ほど殴り飛ばされていた少年だった。
怪我をしているとは思えないほど俊敏に動き、俺と相手の足を受け止めた少年は、深く息を吐き出す。
何というか、色々なものが濃ゆい少年であった。

そこに別の少年が近づいてくる。

「おい」

日向一族の少年は、濃ゆい少年に眉を潜めながら何事かを呟いている。
そして向けられた視線。
…というより、サクラをじっと見つめる、熱視線。

気付くと、少年もその後ろのお団子少女も、先程までの傷などどこにも無かった。

不意に、濃ゆい少年がサクラへと近付き、話しかける。

「あの。ボクの名前はロック・リー。サクラさんというんですね…ボクとお付き合いしましょう!!死ぬまでアナタを守りますから!!」
「!?!?」

キラリと輝く白い歯。
二カッとという効果音が付きそうな笑み。
濃ゆい眉毛。

ロック・リーと名乗った少年は、どこまでも濃ゆい男だった。

一方、告白されたサクラはというと、若干青褪めた顔で首を横に振っている。
可哀想なほどの拒絶だが、まあサクラにも好みというのはあるだろうし、仕方無いような気もする。
あからさまにガックリと肩を落としたリーは、しかしその目にナルトの姿を認めると、一瞬で真剣な顔つきに変わった。

「君は…」
「…」

目を向けられたナルトが、感情の読めない碧をリーへと向ける。
興味があるのか無いのか…判断しづらい表情だ。
そのあまりの無機質さに、ほんの少したじろいだリーだったが、瞬きをする間にそれは笑みへと変貌した。

「君がうずまきナルトくんですか。強いとの噂は予々聞いていますよ」

…一体誰に聞いたと言うのか。

「……」
「…無口な人ですね。まあいいです。ボクは貴方と闘ってみたかった。よろしければ、一手手合わせ願いたい」

誰かの息を呑む音が、やけに響いた気がした。

理由はわかる。
ナルトから発せられている威圧感が、この空間全てを包み込んで圧迫しているのだ。
それを真正面から受けているリーは、勿論冷や汗が凄い。
今更ナルトの何にも驚かないと覚悟はしているが、こういう空気を出されるのには全く慣れない。

不意に、ナルトが笑った。

「威勢がいいのは認めるが、それは本戦まで取っておけよ」
「に、逃げるんですか!」

安い挑発だとリーも分かっていた筈だ。
それでも、そうあしらわれてしまえば引くに引けない。

どんな言葉を吐いても、相手を自分と同じ場所に立たせたいというのは、酷く理解できる心境だった。

けれど、やはりそう言うモノはナルトに通用しない。
どうでも良さそうな顔をリーに向けながら、肩を竦めている。

「他の猛者とも戦えるチャンスがあるのに、こんな所でお陀仏になりたくないだろ」

お前をいつだって殺せるという強迫にも取れる言動。
弱者が言うと逃げ口上にしか見えないのに、殺気をダダ洩れにさせたナルトが言うのだから本気に違いない。
リーも、これ以上食いつくと折角の試験が台無しになりかねないと感じたらしく、そのまま引き下がった。

「残念ですが、確かに試験前に君と殺し合いをしたところで利点はあまり感じられませんね…。その代わり、試験中は全力で行かせて貰いますので覚悟しておいてください!」

よくわからないが、ロック・リーは凄い勇気のある奴なんだって事だけは理解できた。









「そうか、サクラも来たか」

俺達が辿り着いた時、301教室の前に居たのはカカシだった。
これで正式に申し込みできるな、というカカシの呟きに、俺とサクラは首を傾げた。
できない場合があるという事なのだろうか。

「実のところ、この試験は初めから三人一人組(スリーマンセル)でしか受験できない事になってる」
「ええ?でも先生、受験は任意だって…」

カカシ曰く、自分たちの意思で決めてほしくてそんな嘘を吐いたらしい。
自分の意志で集まった俺達を、カカシは自慢のチームだと言う。
それが何となく照れくさく、笑いが漏れる。

行ってこいという言葉に、俺は目の前の扉を開いた。


「―――!!」


そこに広がっているのは、試験を受けに集まった忍たち。
誰も彼もが、挑戦者として扉を潜った俺達を吟味するように睨み付けている。
思わず「すげー」と呟いた言葉が、存外響き渡った。

その時。

――どんっ

「うお、」
「サスケくん、おっそーい[V:9825]」

人を突き飛ばすような勢いで抱き着いてきたのは、同期の山中いの。
高く結んだ金髪を元気に揺らしながら、抱き着かれ首元に腕を回される。
圧し掛かってきた重みに、顔が歪んだ。

「私ったら久々にサスケくんに逢えると思ってぇ、ワクワクして待ってたんだからぁ」

くねん、とした喋り方も相変わらずである。
俺以外の前だとまともそうなのに、何故こうも豹変するのか。

「さっ、サスケ君から離れなさいよ!いのぶた!」
「あーら、サクラじゃない。相変わらずのデコりぐあいね、ブサイクー」

…そして始まる醜い言い争い。

せめて助けてほしい。
そんな感情を乗せてナルトへ視線をやるが、いつの間にか姿がない。
どういう事だ。
茫然とする俺に、今度は別の声が聞こえた。

「ナルトならあそこに座ってるぞ」

あそこ。

そう言っていのと同じ班の奈良シカマルが指したのは遠く離れた場所にある席。
周りの睨み付けているやつらを物ともせず、一人座っている。

…物ともしないどころか、逆に威圧して委縮させているのだから流石としか言いようがない。

シカマルはめんどくせーと口癖を言いながら頭を掻いた。
その横では、同じ班の秋道チョウジがポテチを食べている。

上忍アスマが率いる第10班の猪鹿蝶トリオは、今日も健在だった。

そこに、また別の班が現れる。
ハイテンションで姿を見せたのは、犬を連れた犬塚キバ。虫使いの油女シノ。日向一族の日向ヒナタ。
上忍 くれないが率いる第8班のメンバー。

同期の中でも変わり者の奴らが一斉に集結している様は、懐かしくもあり騒がしい。
ただ、同期と言っても奴らは敵なのだ。
懐かしいなどと言ってる場合ではない。


横目にナルトへ視線をやるが、アイツはつまらなそうな顔で前を向いているだけだった。


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