死の森
みたらしに連れられて辿り着いたのは、金網に「立ち入り禁止」の張り紙がなされた森への入り口。
そこは第44演習場…別名を死の森と言うらしい。
名前の通り、不気味な雰囲気の漂う森だった。
「それじゃ、第二の試験を始める前にアンタらにこれを配っておくね!」
そういって、みたらしが取り出したのは「同意書」と書かれた紙の束。
どうにも嫌な予感しかしないなと思っていれば、それは間違いではなかったらしい。
みたらしは言う。
死人が出るので同意を取っておかないと自分の責任になってしまうのだと。
ルール説明の後にサインして提出しろとの事。
「早い話、ここでは極限のサバイバルに挑んでもらうわ」
ルールは至って簡単だった。
この第44演習場で"天の書"と"地の書"と呼ばれる巻物を他の班から奪い、両方を持ったまま中央の塔まで3人で辿り着く事。
26チーム中の半分に地の書、もう半分に天の書が配られるらしい。
つまり、確実に半分以上は脱落するチームが出てくるのだ。
最初にみたらしが言っていた言葉の意味が分かる。
しかもこの試験は5日間を使って行うらしい。
敵班の他にも人食い猛獣や毒虫、毒草などもあるのでむやみやたらに動き回るわけにもいかない。
食事などは全て自給自足。
正しくサバイバルであった。
巻物を持ってこれなかった場合や班員を失うほかに、再起不能者を出した場合も失格となるらしい。
そして、ギブアップは許されない。
中々にシビアな条件に、思わず笑いが出そうになる。
最後に、巻物の中身を途中で見てはならないと言って、みたらしは説明を締めくくった。
「最後にアドバイスを一言。死ぬな!」
そんなもの、言われなくても当たり前だ。
米神の冷や汗を拭い、頷く。
ナルトとサクラの同意書を受け取り受付へ持っていく。
渡された巻物を手に、二人と合流した。
「俺達のスタートゲートは12だ」
「頑張るわよ、二人とも…!」
そうして待つこと数分後、始まりの合図と共に俺達は一斉に森の中へ走り出した。
∞
「……チッ」
ナルトは目の前に現れた大蛇に舌打ちを禁じえなかった。
少し席を外した瞬間にこれである。
どうとでもなるとタカを括っていたが、あの二人がどうなるかはわからなかった。
「邪魔だ、死ね」
チャクラを練り上げ作り出した螺旋手裏剣を投げ飛ばし、蛇の頭を刈り取る。
血の雨を浴びながら、ナルトはその先へ急いだ。
森の少し開けたところに、そいつらは居た。
草隠れの不気味な奴と対峙して、ボロボロに傷ついているサスケとサクラ。
そいつは蛇のように胴を伸ばし、木の幹に巻き付いていた。
視界からくる嫌悪感に顔を歪め、口の中の血を唾と一緒に吐き出す。
どろりとした感触がますます気持ち悪い。
「ふふ…そんなに血塗れになって、一瞬誰だかわからなかったわよナルト君。どうやらあの大蛇を見事に倒したようね…」
サスケはボロボロの姿のままナルトを見上げる。
酷く機嫌が悪く、鈍い光を放つ目で、草隠れの忍を見ていた。
巻物はナルトが持っている。
(どうするつもりなんだ、ナルト…)
相手の力が桁違いなのは、この短時間で痛いほどに理解できてしまっている。
ナルトならば、あるいは。
考え続けるサスケの視線の先で、ナルトもまた考えていた。
勿論、ナルトには巻物と引き換えに二人を助けろ、など言うつもりも無い。
(…さて、どうしたものか)
草隠れの忍は不気味な笑みを浮かべ、何かを企んでいるのは一目瞭然である。
相手の出方が分からない以上、突っ込むのは得策と思えなかった。
「……案外、慎重派なのね」
先に動いたのは草隠れの忍。
睨み合いによる牽制を壊し、瞬時に噛み破った親指の血を手首へと塗り付ける。
一瞬しか見えなかったが、口寄せの術式が書いてあるらしかった。
口寄せされた大蛇が、周りの木を薙ぎ倒しながら突っ込んでくる。
そのまま、サスケへと矛先を向けていた。
しかしサスケの前に躍り出たサクラが、チャクラを纏った両手で受け止める。
サスケはその瞬間を逃さず、大蛇に向かって豪火球を放つ。
試験開始直後に、ナルトはサクラに戦う術を教えていた。
チャクラコントロールが得意なサクラにこそ最も相応しい戦い方。
手の先一点にチャクラを集中させるという至ってシンプルな手法であるが、それはかなりの力を発揮する。
案の定すぐにモノにしたサクラにとって、ただ大きいだけの蛇など恐怖の対象では無かった。
「大丈夫!?サスケくん!」
「ああ!」
とりあえず二人は大丈夫そうだと草隠れの忍へ視線を戻したナルトは、なおも笑っているそいつをじっと見た。
動く気配はない。
何を考えている…?
相手の出方を待っていたナルトは、後ろに感じた気配に、足を着けていた枝から飛び上がる。
数匹の蛇が今まで立っていたところにぼとぼとと落ちていく、それに視線をやっていたナルトは、消えた気配に視線を遣った。
草隠れの忍が標的にしたのは――サスケ。
その速い動きはサクラとサスケの目では認識できず、突然目の前に現れたその不気味な姿に目を見開くしかない。
そのまま振り上げられた手が、サスケを貫いて…、
――――ぐしゅり
「ぐ、」
嫌な音。
想像を絶するほどの痛みを感じさせる音。
サスケは、茫然と目の前に現れたオレンジのジャージ姿に見入る。
彼の細い首筋越しに、化け物と目が合った。
そいつはニィ、と目を三日月に細めると、ナルトの首筋に食い込んでいた歯を抜く。
片手にも、今しがた受け止めた化け物の指先が貫通していると言うのに、ナルトはほんの少し顔を歪めただけだった。
「ふふ、貴方にとってはこの程度の傷、なんともないのかしらね」
草隠れの忍は瞬く間に距離を取ると、ずぷずぷ土の中へ沈み込んでいく。
解放されたナルトは、発熱する身体に思わず体勢を崩す。
こんなにも茹るように熱いっていうのに。
寒気が止まらない。
「ナルト!!」
後ろから支えてくれたサスケに身を任せ、消えゆく化け物を睨み付けた。
「く、そ…テメェ、なにしやがった」
「あら、そんなに喋れるなんて」
噛まれた場所がじくじくと痛む。
そいつは置き土産よ、などとふざけた事を抜かす。
完全に姿が消えるのを見届けてからようやく、ぞわぞわと怖気の走り続けている全身の力を抜く。
サスケとサクラが心配そうに覗き込んできたので、ナルトは舌打ちしそうになった。
(情けねぇ面見せんじゃねぇ…)
「ナルト、おい!!ナルト!!」
「っ、せェな…耳いてーんだから静かにしろ」
「心配するだろうが…」
酷い拒絶反応から身体が震えるのが情けなくて、思わずサスケの袖を掴む。
驚きながらも嬉しそうに破顔するサスケに、今がどういう状況かわかってんのかと怒鳴りたくなる。
花を飛ばすサスケの横から顔を出したサクラが、真剣な表情でナルトの首元を覗き込んだ。
「…何かしら、このアザ」
噛み付かれた場所にできたアザ。
凶暴な程に荒れ狂うナカ。
必要ないものが無理矢理入り込んでくる感触と、感情を昂らせてくる何かと、自分の意思を邪魔する何か。
草隠れの忍がなにを施したのか合点がいき、ナルトは霞む思考をフル回転させる。
「……なるほどな」
眠気を抑えつけながら、これからどうするかを考える。
呪印を解く方法はわかっているので無問題だが、問題なのはこの後の話だ。
自分の意識はここで途切れるが、それで脱落などになったら堪ったものではない。
(とはいえ、今はこの二人に任せるしかねぇか…)
一人納得したように表情を緩めていくナルトに、サスケが苛立たし気に問い質した。
「なにがなるほどなんだよ」
「てめぇが気にする事じゃねえ。こんなもんに負けるわけねーんだ…よ…」
「おい、」
眠気が酷い。
それ以上喋れる気がせず、ナルトは軽く手を振る。
こんなもの付けられるなんて、情けない。
父さんが見たら「お前はまだまだだな」なんて言って笑うのだろうか。
視界を黒に染め上げられながら、ナルトは笑みを溢した。
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