筆記テスト
カブトと名乗る青年と音隠れの忍がひと悶着を起こそうとしたときに、奴らは現れた。
「静かにしやがれどくされヤローどもが!!」
「な…何だっ?」
ボンっという破裂音と、立ち上る煙。聞こえてきたそんな言葉。
それらの後に姿を見せたそいつ等は、一目見ただけでも強いと分かる木ノ葉の忍集団だった。
特に真ん中に立つ男は、顔に沢山の傷があって威圧感も凄い。
森乃イビキと名乗ったその男は、どうやら第一の試験の試験官らしい。
イビキは音隠れの忍に指先を向けると、ぎっと睨みを利かす。
「試験前に好き勝手やってんじゃねーぞコラ。いきなり失格にされてーのか」
そう言われてしまえば引き下がるしかなく、音隠れの連中は大人しく足を引いた。
イビキの担当する第一試験は、なんとペーパーテストらしい。
ルールが幾つかあるらしく、質問を受け付けないとイビキは淡々と説明だけを行っていく。
まず、最初に持ち点が10点配られ、間違える度にマイナスされていく減点方式で判定するらしい。しかもチーム戦として適用されるらしく、3人の合計点数で合否を判断するのだそうな。
また、カンニング行為及びそれに準ずる行為を行ったと監視員たちに見なされたものは一回に付き2点も減点されるらしい。
そっと周りに視線を走らせれば、集団の忍たちがそれぞれの角度から席に着き、バインダーを片手に目を光らせている。
絶対に見逃さないと言いたげな笑みを浮かべて受験者たちを見ているさまは、獲物を前にした猫のようで何とも意地が悪い。
「不様なカンニングをなど行った者は自滅していくと心得て貰おう。仮にも中忍試験を目指す者。忍なら…立派な忍らしくすることだ」
(…………?)
なんとなく、引っ掛かりを覚える言い回しだった。
それを考える暇もなく、イビキが最後のルールを言い渡す。
"持ち点をすべて失った者、および正解者数が0だった者の所属する班は道連れで全員が失格となる"
無情とも言えるようなルールを告げられた後、試験は開始された。
正直に言おう。
(一問たりともわかんねェ……!!!!)
まずい。
これは非常にまずい。
いや?確かに俺はアカデミーでは常に上位の成績を取り続けてきたが、それは実技込みでの話だ。
それにぶっちゃけ実技もナルトに勝てたことは無い。
誠に遺憾ではあるが。
座学に関しては恐らくサクラの方が断然頭がいい筈。
(足引っ張ってんの俺じゃねーか!)
思わず机に額をぶつけたくなって、しかし思いとどまる。
何となく、先程の引っ掛かりについて考えてみようと思ったのだ。
イビキの言葉を思い出す。
――不様なカンニングを行った者は自滅していくと心得て貰おう。
――仮にも中忍を目指す者、忍なら…立派な忍らしくするものだ。
(ちょっと待てよ、)
要はそれは、バレないようにカンニングをしろという話ではないだろうか。
爆発したように興奮が押し寄せてくる。
そう。
そうだ。
いつかのカカシの言葉を思い出す。
"忍者は裏の裏を読むべし"
そうか。
イビキの言葉の裏には意味があったのだ。
そしてそれを確かなものにさせるように、これだけ見張りの監視員が居ることがあげられる。
この試験はペーパーテストなどでは無い。
如何にバレずにカンニングを行えるかという試験だったのだ。
そうと決まれば話は早い。
写輪眼を発動し、適当にアタリを付けた何人かの腕の動きをコピーする。
その間にも幾人かの失格者が現れては、チームメイトを道連れにアカデミーを後にしていく。
(ナルト…は、まあ心配することは無いだろうが、サクラは大丈夫かな…)
今は二人を信じるしかない。
そうして試験開始より45分後、イビキが声を上げた。
「よし!これから"第10問目"を出題する」
遂に来たか…。
ゴクリと、緊張から口内に留まったつばを飲み込む。
イビキは面白げに面々を見渡すと、静かに出題を始めた。
「まず、お前らにはこの第10問目の試験を"受けるか"、"受けないか"のどちらかを選んでもらおう」
受けなかったらどうなると言うのか。
鋭く質問が飛ぶ。
「"受けない"を選べば、その時点でその者の持ち点は0点となる…つまり失格!もちろん、同班の2名も道連れ失格だ」
「ど、どういうことだ!?」
「そんなの、"受ける"を選ぶに決まってるじゃない!」
再び、受験者から鋭い声が飛んだ。
「"受ける"を選び、正解できなかった場合―――その者については今後永久に中忍試験の受験資格を剥奪する!!」
(!?)
馬鹿な!!!
そう叫びそうになったものを、なんとか飲み込む。
受験者たちの間に、さざ波のようなざわめきが広がり、かつてない緊張感が辺りに充満する。怒号を上げる者も居たが、イビキはそれを「今年俺が担当になった運の悪さを諦めるんだな」と一蹴する。
嫌ならば今回は諦め、また来年や再来年受ければいいだろうと。
「"受けない"者は手を挙げろ。番号確認後、ここから出て貰う」
その言葉を最後に、静寂に包まれた。
恐らく、誰もが身動きすら取れずに考え込んでいるに違いない。
そういう俺こそ、頭の中で必死に考える。
そこまで言うということは、とんでもなく難しいかとんでもなく簡単かの二択。
もし間違えれば一生中忍以上にはなれず、下忍のまま過ごすことに。
かといって諦めるのかと言われれば、それも嫌だった。
そうこうしてるうちに、辞退者が出始める。
道連れになった者は、悔しそうにしながらも黙って出ていく者や、手を挙げた者を責め立てる者と様々だった。
自分一人ならまだいい。
けれど、他の二人も一緒に脱落するなど、次受けられるとわかっても一生後悔するに決まっている。
俺が突き放してしまった弟を取り戻したいと願った。
なら、俺はもっともっと強くならなければいけない。
―――こんなとこで躓いてなんて、いられない…!!
雄叫びを上げるように、振り上げた手を机の上に叩きつける。
ビリビリとした衝撃が背筋から脳天を突き上げ、冴えていく脳みそ。
静かな教室内だっただけに、それは物凄い音を立てて響き渡った。
視線が、あちこちから向けられたのを自覚する。
しかし、それすらも煩わしいと跳ね除け、俺はただ一点。イビキのみを睨み付けた。
「―――なめんじゃねぇ、俺は逃げねぇ!!一生下忍になったって、こんなとこで諦めてたらそんなのは俺が目指す忍じゃねェ!!!俺は諦めない、怖くなんかねーぞ!!!」
そこまで言い終えて、遠くに座っているナルトを見る。
アイツも、真っすぐと俺を見ていた。
先程まで悲壮感を漂わせていた教室が、いくらか明るさを取り戻したことを肌で感じる。
そして、辞退者はそれきり出なかった。
イビキが再び面々を見渡し、一つ頷く。
「いい決意だ。―――では、ここに残った全員に"第一の試験"合格を申し渡す!!」
――――、
―――――――、えっ?
「はっ、はぁ………?」
ぽかんと間の抜けた空気を醸し出す室内に、イビキは種明かしをした。
9問目までは俺の考えた通り、情報収集戦のテスト。
そして最後の1問は、仲間の足を引っ張ると言うプレッシャーに耐え、仲間に勇気を示し苦境を突破していく事ができるかのテストだったらしい。
(………なんだよ、ソレ)
思わず肩の力が抜ける。
安心したんだか、拍子抜けしたんだか、よくわからない。
ただ、あの時諦めなくてよかったと感じたのは確かだった。
そうこうしているうちに、窓から突然何者かが飛び込んでくる。
窓ガラスを叩き割って入ってきたその人物は、己をみたらしアンコと名乗った。
第二試験管らしいが、周りはその台風のようなテンションに付いていけない。
残ったチームは28。
それを半分以下に減らしてやるというみたらし。
そこに浮かんでいる加虐的な笑みに、ぞわりと背筋が粟立った。
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