胸中を暴く
敵に居場所を知られてはならないので火はつけない。
暗闇の中で神経を尖らせ、俺達は見張りを交代制で行っていた。
ナルトの具合は今だに戻らず、苦しそうな息遣いから発熱している事が伺える。
手持ちの水筒から垂らした水で手拭いを濡らし、気休め程度ではあるけれどナルトの額へ置いた。
ナルトが熱を出すとこなんて、初めて見たな。
どちらかというと体調を崩すのは俺で、その度にイタチとナルトが世話をしてくれていた。
今と明らかに違う訳じゃないけど、昔のナルトはそれなりに空気が柔らかかった。
その手はとても優しく、何故だか家族よりも安心した記憶がある。
そっと熱を持った手を握っていれば、サクラがぽつりと呟いた。
「…どうして、ナルトはこんなに強いのかな」
「……わからない。でも、コイツはずっと一人だったから…」
「……」
「強くなるしか、無かったんだろうな」
孤独の痛み。
家族の居る俺にはわからない。
ナルトの家族がどうしているのかも、わからない。
イタチは言っていた、ナルトが独りぼっちだからうちはで引き取ると。
生まれた時から一人。
それはどんな心地なのだろうか。
あったものを失う事と同じくらい苦しいのだろうか。
自分の家族が居なくなったらと考えて、その恐ろしさに身震いした。
―――ガサッ
「「!?」」
突然の物音と気配に、サクラと同時に振り向く。
気付くと周りには光が差し始め、夜明けが来たのだと理解した。
恐らく身を潜めていた他の班も動き出したのだろう。
目を向けた先に居たのはリスだった。
「…リス?」
何故リスが突然。
どうにも怪しい感じがして、リスの前にクナイを投げる。
吃驚した様子で、リスはそのまま別の方向へ走り去ってしまった。
過敏になっている神経を鎮めながら息を吐く。
二人して座り込んで見上げた空には、太陽が昇り始めていた。
∞
「クク、寝ずの見張りかい」
来たか。
全く襲われない等と甘い考えは持っていない。
脱落していない限り、俺達は四方八方を敵に囲まれているのだ。
クナイを構えた先には3人の音隠れの忍が立っていた。
その3人には見覚えがあった。
第一の試験でカブトとひと悶着を起こした奴らだ。
「最初はサスケくんと闘うはずだったんだけどね、急遽ナルトくんと闘う事になったんだ。だから彼を起こしてくれよ」
「――何言ってんのよ!大蛇丸って奴が裏で糸引いてるのは知ってる…いったい何が目的なの!?」
「「「!?」」」
何故それを知っているのか。
まるでそんな事を聞いてくるような表情だった。
真ん中の顔が分からない奴はぶつぶつと呟く。
「何をお考えなのか…あの人は…」
「それを聞いちゃあ黙っちゃられねーな。このガキ二人もナルトとやらも俺が殺る」
向けられる殺気。
俺達も迎え撃つように構える。
横目に見たナルトは、やはり苦しそうに眠っているだけだった。
「余所見なんて余裕じゃねぇ、の!!」
「っ、」
逆毛の男の攻撃を防ぐ。
そのまま力で押し返すと、すかさず印を組んだ。
――火遁、豪火球の術!
火の玉が飛び、男に少しのかすり傷を付けたが、男の放った衝撃波で掻き消える。
包帯男の追撃を交わすと、そこにサクラが飛び込んできてチャクラを纏った手で殴りつけるが、惜しくも躱された。
「ハッ!」
「うぁ…、」
「きゃっ」
物凄い空気圧に押され、体勢を崩す。
反撃をする前に聞こえたサクラの悲鳴。
見れば、音隠れの女がサクラの髪を鷲掴みにして笑っている。
そしてそれに気を取られたうちに、目の前に迫った包帯男に思い切り蹴り飛ばされた。
大木に思いきり背中をぶつけ、空気が逆流する。
「かはっ、」
「サスケくん!」
今すぐに動いてこちらに向かおうとするが、髪を掴んでいる女がそれを許さない。
「私よりいい艶してんじゃない…これ。フン…忍のくせに色気付きやがって…髪に気を使うヒマがあったら修行しろこのメス豚が…」
「痛い!」
更に髪を引かれ痛がるサクラだったが、不意に女を睨み付ける。
懐からクナイを取り出すと、その激情を抑えられないとでも言うように腕を振り上げた。
「そんなに羨ましいならくれてやるわよ!!!」
思いきり切られる髪。
足にチャクラを籠め、一気に飛び上がる。
サスケの傍に降り立ったサクラに、サスケは咳き込みながら体を起こす。
そして心底悲痛な声で呟いた。
「サクラ…髪が…」
「……ん、大丈夫よ!サスケくん。髪なんて、幾らでも伸びるんだから!」
全く傷付いていないと言えば嘘になる。
でも、命には代えられない。
髪は女の命なんて言うけれど、本物の命には及ばない。
だから、私はまだ戦える。
サクラとサスケが姿勢を低くして身構え、三人の攻撃に備えていたが、しかしそれは杞憂に終わった。
―――ぶしゅっ
「あ……?」
ない。
血が舞う。
誰もが目の前で起こった事の情報を処理出来ずに固まる。
ない。
おかしい。
そこに無くてはならないものが存在しない。
それが脳を可笑しくさせているのだろうか。
何が無い?
それを考えてゾッとする。
――逆毛の男の両腕が、関節から一気に引き千切られていた。
「―――――、」
悲鳴、なんてレベルじゃない。
人間が出せると思えない程の声で、男が叫び散らす。
そのまま膝をつくと、自分の腕の有様に気絶してしまった。
「、え?なに…なんなの…?」
訳も分からず、敵も味方も忘れて辺りを見回す。
怖い。
ひたすらに恐い。
何が起きているのかわからない現状が、おそろしい。
戸惑う俺達の前に、何かが落ちた。
ぼたり、なんて重たい音を響かせて落ちたソレは
―――人の腕だった。
「ひ、」
サクラも俺も、悲鳴を上げずに済んだのはどうしてだろうか。
それとも、俺はもう悲鳴を上げているのか?
自分の事なのに、まったくわからない。
サクラが座り込むのが視界の隅に入る。
駆け寄ってやりたかったが、俺もそれどころではなかった。
震える足腰は今すぐにでも崩れ落ちそうなのに、それとは真逆に視界はうろうろと色んな所を見ている。
金縛りのような、圧。
脳みそだけがグルグルとフル回転する中、突然あまりにも禍々しすぎるチャクラの気配が背後から漂ってきて、身体がぎくりと跳ねた。
「さすけ」
さすけ。
それが一瞬何かを考えて、自分の名前だと思い出す。
後ろを振り返るが憚られて、心臓が嫌な音を立てる。
正直に言うと、信じたくなかった。
今この場所に居る中でこんな事ができるのは一人しかいない。
だけど、俺はそれを信じたくなかったんだ。
だって、ここまでも暴力的で巨大で憎しみに満ちたチャクラを出しているのがアイツだなんて。
そんなの、辛すぎる。
―――そうやってまた逃げるのか。
またあの時の子供の自分を繰り返すのか。
そうしてまた、ナルトを傷つけるのか。
そんな事、自分が許せるわけも無い。
音隠れの忍達は、そのあまりに大きなチャクラをぶつけられたせいで意識を失っていた。
あれだけ悪意に満ちたものをぶつけられたのだから当たり前かもしれないが、その表情は苦痛に歪んでいる。
逆毛の男も、あれだけ出血しているのだから早く治療しなければ恐らく死ぬだろう。
そんな中をナルトが平然とした顔で歩き、包帯男の懐から地の書を奪い取る。
そしてそのまま、まるでトドメをさすような仕草をした。
「!!!!」
耐えられず、走り出す。
思い切り体当たりして押し倒す。
仰向けに倒れたナルトの上に覆い被さるような体勢だったため、その顔はよく見えた。
真っ赤な瞳。
写輪眼よりも黒々しい赤の色。
瞳孔が開いていて、今だ熱があることを表している。
「…に、しやがる…ば、か…」
そんな憎まれ口を叩くぐらいには正気に戻ったんだろうか。
「もういい」
そっと顔中を撫でながら呟く。
「もういいんだ、ナルト」
「……」
納得いかないような顔だったけど、それでも堪えてくれたのか、静かに瞼が落ちた。
首筋から広がりかけていた謎のアザも、今は元に戻っている。
どういう原理かはわからないが、あの化け物にやられたこのアザが何かしらの作用を起こしているのは間違いないみたいだ。
再び苦しそうに眠りに就いたナルトにほっと息を吐いて立ち上がる。
サクラの方を振り返れば、泣きそうな顔をしながらも安心した様で、同じように深いため息を吐いていた。
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