たぬき VS きつね
「ちょちょちょ、ちょっと!!!なにあれ!?!?!」
「…おいおい、何時から怪獣大戦争ものの特撮映画が始まってんだよ」
シカマルとパックン、途中で合流したシノや、音忍に襲われたときに助けてくれたアスマ先生と共にナルトとサスケの後を追っていたサクラは、突如現れた怪物二匹に狼狽える。
距離はあるが、それでもはっきりと見えるほどにその二匹は、デカい。
「九尾……!!!」
アスマが絶句したように呟いて、その動きを止めてしまう。
顔色が酷く、何やらあの怪物の片方にトラウマがあるようだった。
上忍であるアスマ先生が怖がるような生物、よっぽど怖いものであるなら、その足元に居るはずの二人が心配だ。
九尾という言葉の意味を尋ねる前に、サクラは駆けだしていた。
∞
うちはサスケは酷く困惑していた。
絶叫マシンに乗った時のような絶叫を上げながら、ナルトが呼び寄せた生物の存在に困惑していた。
目の前の狸とは比べ物にならない程の禍々しいチャクラは、傍に居るだけで身を焦がしそうな程の熱を持っている。
けれど、その狐の背中に乗っていても身体が燃やし尽くされるような事は無い。
ナルトが赤い目を細めて笑う。
始めてみる、心底楽しそうな表情だった。
「――ああ、久しぶりの空気だろ。壊すためじゃない、助けるために暴れるんだ。お前を咎める奴は俺が許さない」
誰かと話している…?
独りごとでは無いようなその台詞を尋ねる前に、相手も動き始めていた。
「シャハハハハハアァ!!!やっと出て来れたぜェ!!………!!ひゃはァ〜〜〜!?!?いきなりぶち殺したいクソ狐発け〜〜〜〜〜ん!!!」
………なんか、思ったよりファンキーなんだな。
あと多分、アホの子の類だ。
「ほざけクソ狸」
……………!?
突然聞こえてきた第三者の声。
低く、聞く者を委縮させるような声を響かせたのは、今俺が乗っている狐。
「お前喋れたのか!!」
「……!くるぞ九喇嘛。サスケ、口閉じてねぇと舌噛むぜ!」
何を―――、
問い掛ける前に、狸が思い切り自分の腹を叩いた。
風遁、練空弾!!
有り得ない程の塊が、まるでスプーンでアイスを抉り取るみたいに、木や土をこそぎながら向かってくる。
なんの合図も無く、狐はそれを避けるべく上空へ飛び上がった。
ナルトが舌を噛むと言っていた意味を理解する。
もしも今口を開けていたら、頭上から降り注ぐ重力によって思いきり舌を噛み切っていた事だろう。
目が回るほどの勢いに、なんとか狐の身体にチャクラでしがみ付いて耐え抜く。
隣で立ったまま付いてくるナルトが信じられなかった。
上空に飛び上がった狐はそのまま狸の前へと体を落とすと、周りの森林が衝撃波で吹き飛んでいく。隕石が落ちたような有様だ。
狐が狸に勢いよくその鋭い牙で噛み付き、振り上げた両方の鉤爪で体を串刺しにして動きを封じていく。
呻き声を上げた狸は、憎々しげな眼を狐に向けていた。
「サスケ!!守鶴の上で眠りこけてる我愛羅を叩き起こせェッッ!!!」
「言われなくても…ッ!!!」
思い切り飛び上がり、狸へと半身を沈めている我愛羅の前に飛び降りる。
「いい加減――、」
その勢いのまま思い切り腕を振り上げ、
「目を――、」
全身全霊渾身の力を込めて、
「覚ませええええぇぇッッッ―――!!」
狸寝入りを決め込む顔に叩きこんだ。
「ぐ、あああっ」
歯の一本か二本折ってしまったかもしれないが、目を覚ますならなんでもいい。
苦し気に呻き声を上げて、我愛羅が血の流れ出る鼻を抑えつけた。
気付くと、狸の身体が砂のように色味を無くし始め、ひび割れ始める。
「チクショウがぁ!!覚えてろよクソ狐ぇ!!」
そんな言葉を残して、狸が散り散りになっていく。
当然俺は足場を無くし、意識を取り戻した我愛羅と共に落ちていく。
しかし、その体が接地する事はなく、いつかのように温かい感触に包まれる。驚いて顔を上げれば、いつも通りの顔をしたナルトが俺を片腕に抱えて柔らかく着地した。
―――ドサッ
「っで!!」
着地後は酷く乱暴な仕草で投げ捨てられる。
文句の1つでも言ってやろうかと思ったが、俺達の前に同じようにテマリとカンクロウに支えられた我愛羅が降りて来たため、急いで身構えて動向を窺う。
口端から血を流しながら、我愛羅は俺の目を見た。
翡翠の目が、ほんの一瞬ゆらめく。
「……変な事を、聞く…。俺はずっと独りだった…これからも、…その先も…」
「!」
―――…ッなんでテメェらは自分を独りだと思うんだ…!!
それは、先程の問いの答えだったのだろうか。
思いたくて思ってるわけじゃないのは理解っている。
きっとそうならざるおえない"何か"があって、そうでも思わないと生きていけない状態なんだ。
…だけど、それではあまりにも。
あまりにも、周りで頑張っている彼らが救われないではないか。
「――なら、お前の両隣でお前を支えているそいつらは何なんだ!」
「……!」
「お前を守りたい為に刺し違えてでもナルトを止めようとしたそいつらは…一体なんでそこまでしてると思ってんだ!」
俺の言葉に、我愛羅がほとんど動かない首をなんとか動かして、自分を支える二人の顔を見る。
テマリとカンクロウは、心底心配そうな顔で我愛羅を覗き込んでいた。
「お前に何があったかなんて俺にはわかんねぇけどさ、…でも、お前は存外、お前が思ってるより独りじゃない筈なんだ…」
「………」
無言だったが、我愛羅は何かを深く考えて、何かしらを感じ取っているみたいだった。
ナルトにも目を向ける。
我愛羅だけでなく、ナルトにも向けた言葉だったが、ナルトの顔は相変わらずの無表情で俺たちを見ているだけ。
それが、まるで映画でも見ているような傍観者の眼差しで、酷く歯がゆい。
だけど、それをナルトに当てるのは違うと感じた。
俺達と相対していた三人は、暫し無言で此方を見ていたけれど、やがてそのまま支え合うように立ち去っていく。
その後姿を見送って、俺は何かが変化したことを祈った。
「サスケくん!!ナルトー!!」
三人が去り、木ノ葉に戻ろうとしたところでサクラの姿が見えた。
泣きそうな顔で駆け寄ってきたサクラは、ふらふらと歩く俺を支えてくれる。
情けない話、チャクラが大分切れていて動くのがしんどかったのだ。
「ありがとな、サクラ」
「ううん、私、何もできなかったから」
俯くその頭を数回撫でて、戻ろうと声をかける。
再び前へと向き直った俺は、其処に立っている人物に目を見開いた。
「アスマ…」
後ろにはシカマルやシノも居たが、どちらも少し困惑気味にこっちを見ている。
何かあったのだろうか。
「――ナルト、大丈夫なのか」
「…何が?」
ほんの少し、そこに不機嫌そうな色を見た気がした。
何故だろう。
アスマは何か、気に障るようなことを言っただろうか。
「何が、って…さっき"居た"だろう」
…居た?何が?
考えて、思い当たる。
もしかして、あのどでかい狐の事を言っているのかもしれない。
ナルトは、特に顔色を変えるでもなく淡々と返事をする。
「ああ。でも何も起きてないだろ?」
「…それもそう、だな」
これ以上の詮索は良くないと、肌で感じたのかもしれない。
産毛が立つほどのピリピリとした空気が、ナルトからは発せられていて。
下手な事を言うモノならそれは敵意へと昇華していただろう。
だけど、アスマが心配しているのは確かなのだ。
わかって居るのか居ないのか、ナルトはそれ以上特に何を言うでもなく、来た道を歩き出すのみだった。
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