tips:【問答】
雨が降ってきた。
どんよりとした灰色の雲に覆われて、日の光は一切見えない。
降り出しそうだと感じた雨は突然現れ、まるでその場に居る者たちの代わりに泣いているような気さえした。
忍びはどのような状況においても感情を表に出すべからず。任務を第一とし、何事にも涙を見せぬ心を持つべし。
それを体現するかの如く、今この場で泣いているのは木ノ葉丸くらいなものだ。
死者に白い花が手向けられていく。
思いを込めて置かれるその花の重さが悲しくもあり嬉しかった。
三代目火影が死んだ。
その事象に、一体どれほどの意味があるのだろう。
或いは、自分が父さんの言うように助けようと思えば助けられたのかもしれない。
白と再不斬。
月光ハヤテ。
そして、三代目火影。
知っていた。
わかっていた。
だって父さんは言っていたもの。
彼らが死ぬことを。
でも俺は助けなかった。
助けられる力と情報を持っていても助けなかった。
それは何故?
「―――化け狐風情が」
これだけ雨が降って、地面に雨粒が当たって弾ける音で溢れてるっていうのに、その言葉はいやにハッキリと聞こえた。
純白の花を手向けようとしていた手が動きを止め、視線をそちらに向ける。
自分以外にも、知り合いの上忍や数人の暗部がその忍を見ていたが、彼はこちらを静かに睨み付けるだけだった。
よく聞くと、数人の忍がこそこそと後ろの方で言っている。
バケ狐。
化け物。
あんなやつが。
三代目の葬式なんかに。
浮かばれない。
事情を知る仲の良いモノ達は咎めるような視線であちこちを睨み付けているけれど、あまり効果は無いみたいだ。
サスケが何かを言おうとしてカカシに止められているのが視界の隅に入る。
―――これだ。
卑屈な笑いが抑えられなくなりそうで、少し無造作に三代目の写真の前へ花を手向け、踵を返す。
何人かの心配そうな視線を振り切って、俺は小さく止める声も無視して葬儀場を後にする。
髪や服が水を吸ってひどく重い。
けど、それ以上に頭が冴えて不思議と気分は爽快だった。
―――別に何かがヒントになったわけでもないけれど、俺の頭は唐突に理解した。
「九喇嘛」
「……………」
「俺、なんとなくわかった。…いいや、思い出したんだ。…父さんが置いて行った理由が、どうしてだかわかる」
「…死者を助けなかったことを悔いるか」
「――いいや。だって、助けても俺じゃどうにもできねえ」
「俺は、最初からサスケのようになれねぇんだ」
それは決まっていること。
父さんは酷い人だ。
酷い。酷い。酷い。
俺にこんな世界を歩かせるために置いていったっていうのだろうか。
その問いに答えてくれる人間は、今ここには存在しない。
酷く、寒い。
これは、俺が感じるもの。
"俺だけ"が感じ取れるもの。
そういう役割をもって生まれ落ちた、俺だけの…、
だからきっと誰かが死んでも何も感じず、恨みつらみだけが溜まっていく。
酷く寒かった。
それは雨のせい?
それとも、大事な半分が無いせい?
九喇嘛に包まれる感触に、ほう、と息を吐く。
雨だか涙か良くわからない雫が、静かに頬を滑り落ちる。
───心は、乾き切っていた。
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