松平のとっつぁんが連れて来たそいつは、誰がどう見たって土方の血縁者だった。
緑がかった黒髪、青い瞳、開き気味の瞳孔。顔立ちだってそっくりだ。実際そいつは土方を兄と呼んだし、奴も驚愕こそしていたがそれを受け入れている。そいつは土方十六夜と名乗った。
だから最初は気に食わなかった。隊士志望ですらないのに、とっつぁんの勧めで通う学校に近いからと屯所に身を置くことになったそいつは、申し訳なさそうな顔をしつつも吞気に笑っていた。
他の隊士の反感も大いに買っていただろうと思う。真選組には学がない者も多い。そんなところに転がり込んできて、東京まで出て高校なんぞに通うだなんて。それでも副長の兄弟とあっては表立って楯突くこともできず、不満ばかりが屯所内に渦巻いていた。
それが覆されたのはある日の稽古場でのことだった。休日だからと稽古に参加したそいつは、勝ち抜き形式の試合稽古で隊士たちを次々と打ち負かし、決勝まで上り詰めたのだ。もちろん最後は俺が負かせてやったが、それ以来「ひ弱なガリ勉野郎」なんて陰口を叩く者はいなくなった。どころか隊士たちに敬意をもって接するその態度に絆され、次第に真選組の一員として認められていった。
絆されたのは俺だってそうだ。試合稽古では俺が勝ったが、実践だったならどうだったかわからない。少なくともそう思わせるだけの気迫はあった。しかも相手は同い年。話してみれば案外取っ付きやすい性格をしていて、俺たちは屯所内でよくつるむようになった。
聞けば、記憶もないほどの幼い頃に誘拐されて土方と生き別れ、物心ついた時には誘拐犯たちの雑用係としてこき使われていたらしい。隙をついて逃げ出したところで戦場に迷い込み、攘夷戦争の最中、必死に逃げまどっていたのを攘夷志士に拾われ身を守る術として剣術を教わったのだと。その志士の伝手でとある組織に用心棒代わりにと世話になっていたそうだが、先行きが怪しくなってきたので暇をもらい、身寄りもなく途方に暮れていたのを松平のとっつぁんに拾われたそうだ。何とも忙しない半生である。
「それでも今こうして兄に再会できて、勉強までさせてもらえてる。俺は幸せ者だよ」
盗み聞きしていた隊士たちが、ベショベショに泣きながら雪崩れ込んできたのでそれ以上のことは聞けなかった。それでもむさ苦しい野郎どもに撫でくりまわされながら零した笑顔はこの上なく綺麗だった。