02

年に見合わない立ち位置とその実力にひどく衝撃を受けたのをよく覚えている。

それから、その容姿にも。日本の中にあって日本ではないような都市、江戸。その治安を守る、もう一つの警察組織に属する真選組の副長、土方十四郎。彼に瓜二つの幹部はコードネームをアラックといった。

何度か任務を共にする機会があり、その素性をそれとなく探ってみたが反応はいまいちだった。本来ならば守るべき国民であるはずなのに、守られるべき年齢であるはずなのに、どうしてこんな所でその手を染めているのか。

アラックの表情はほとんど動かない。任務には不要だから、と言い切られた時は思わず頬がひきつった。それから必要以上に構いに行って、どうにかその鉄面皮をほぐしてやろうと画策した。その結果、成果こそほとんど出なかったものの意外にもアラックは俺に懐いたようだった。

任務に組み込まれていなくても勝手についてくることが多くなったし、任務以外にも行動を共にすることが増えた。最初はこちらがボロを出してしまったのではと焦ったが、純粋に好意でくっついているらしい。正直言えば組織以外の仕事ができなくなってしまうのでやめてほしいところではあるが、怪しまれても困る。それに親鳥について回る雛鳥のように見えてきて、邪険にしづらいというのもあった。

「兄がいたら、こんな感じなんだろうか」

ポツリと呟いたそれは、間違いなくアラックの素だった。初めて掴んだ尻尾を離すまいと、すかさず言葉を拾う。

「僕にも兄はいませんから、肯定はできませんが……アラックも一人っ子なんですか?」
「一人っ子というか……気づいたときには周りに大人しかいなかったから」
「……それは、どういう?」
「俺は、研究所で育ったんだ」

研究所。組織の傘下のどこかなのだろう。

「親御さんが働いていたとか?」
「いや。そういえば親……どこにいるんだろうな」
「え? ならなぜ研究所に……」
「なぜって、実験するために決まってるだろ」

任務があるからと立ち上がったアラックを引き止めるわけにもいかず、本人の口からそれ以上は聞けなかった。他の幹部にそれとなく聞いて回ったところ、にわかには信じがたい結論が導き出された。

以前の組織では地球人の夜兎化を目指す研究が行なわれていたのだそうだ。

夜兎。最強最悪と言われる傭兵民族。戦闘を好み、驚異的な身体能力を持つ天人。組織では薬品によって身体能力を引き上げ、夜兎族に近い地球人を生み出す研究が進められていた。有体に言えば、人間兵器の製造である。被験体には数多の薬が投与され、しかしその作用に体が耐え切れずほとんどが効果を得られないか、すぐに死んでしまった。唯一の成功例も何十回と投薬を繰り返していたため実用化にはほど遠く、莫大な費用がかかるため研究は打ち切られた。

「その唯一の成功例があの子――アラックよ」

ベルモットは煙草をふかしながらそう答えた。

「本来の夜兎族と違って元は地球人だから、日傘は必要ない。けれど身体能力は地球人とはかけ離れている……ある意味良いとこ取りよね。ビル一つくらいなら素手で解体できるんじゃないかしら」
「素手で、ですか? アラックは確か刀を得物としていたかと思いますが……」
「あれはね、力を制限しているのよ。扱いが難しい武器の方がうまく弱体化できるでしょう?」

結局のところ、アラックが危険人物であることには変わりない。けれどもアラックもまた、組織の被害者であるのは間違いない。

最近はやっと笑顔にぎこちなさがなくなってきたのだ。表情がなくたって、感情がないわけじゃない。アラックは決して殺人マシーンではなく、一人の人間であるのだ。人を殺した罪はあれど、それを償いさえすればいずれは普通の生活を送ることもできるだろう。

ああ、はやくこの組織を壊滅に追い込まなければ。若者が心まで黒く染まってしまう前に。