荒月は帝丹小学校から転校することになった。とは言っても転校先はデタラメ。実質的な退学だ。荒月は元の身体に戻って生活することを選んだ。
「わたしや江戸川くんじゃ一日しかもたない解毒薬だけれど、貴方なら完全に元の身体に戻るでしょう」
「ありがとう、志保」
「あら、自己紹介しなかったかしら? わたしは灰原哀よ」
「……ありがとう、哀」
正直、完全に元に戻れるのはとても羨ましい。けれどもそれが過去の実験による影響だというなら、いい事ばかりでもないのだろう。実際、アポトキシン4869を自分で飲んだと白状した荒月に灰原は激怒していた。
「言ったわよね、貴方の身体は薬の効果が強く出やすいって! 死ぬかもしれなかったのよ!?」
「でもほら、生きてるし」
「それは結果論じゃない!」
付き合いが長く仲も良かったらしい二人のことなので俺は口を挟むまい。
アラックについては、安室さんが「攘夷浪士たちに殺された」と組織に報告したそうだ。アラックの薬の効きやすさは組織の上層部でも有名な話だったらしく、最初は訝しんでいたジンですら睡眠薬を使われたと話したら納得したらしい。惜しい人材を亡くしたとはいえ、殺し殺されが日常である組織はあまり揺らがなかったと安室さんは悔しそうにしていた。
そういえば、荒月が赤井さんに会わせろと言うので相談してみたら、なんと赤井さんの方が二人きりで話したいと応えた。赤井さんが指定した日時と場所を荒月に伝えただけで、本人たちの希望通り同席も盗聴もしなかったが、後日会った赤井さんは身体の数か所を腫らしていた。「早い内に済ませておけて良かった」とは赤井さんの言だ。
荒月は「勢い余って殺さないようにかなり加減した」とのことだったが、腕っぷしは健在なのだと思うとかなり恐ろしい。これからも付き合いがなくなるわけじゃないので、なるべく怒らせないようにしようと胸に誓った。何せ俺たちは“共犯者”なので。
さて、最後は真選組について。彼らは荒月を“土方十六夜”として扱うことにしたようだ。土方副長に十六夜という名の兄弟がいたことは紛れもない事実であるし、荒月と土方十六夜は顔が瓜二つだった。そのことは今も土方副長によく似ている荒月の顔が証明している。また、土方十六夜の死亡届は提出されていない。これらを利用し、荒月を土方十六夜として、副長の血縁者として置く方が、下手に変装したり偽名を使うよりも偽装に説得力を持たせられるとのこと。
荒月はまた“土方十六夜”と呼ばれることに難を示していたが、土方副長が「今時同姓同名なんてよくあることだろ」と言い放ったため渋々納得したらしい。今後は真選組の小間使いから始めて、いずれは隊士として扱われるようになるそうだ。
また、組織にいた頃のアラックの罪については不問となった。というのも、安室さんが報告書を漁って調べた結果、アラックが手にかけた者はすべて攘夷浪士だったのだ。幕府方、武装警察に属する者が危険因子である攘夷浪士を粛正するのは何も不自然じゃない、と沖田隊長が言っていた。
結局土方十六夜ではない人物は、アラックの名を捨て、荒月真の名を捨て、土方十六夜の名を再び拾うことになった。幼い頃から実験体として扱われ、本当の名を与えられなかったそいつは、瓜二つだった片割れを心に宿して生きてゆくのだ。