「みやこ」
「暑いうざい重い離れていやだ」
「照れ隠し?」
「うるせ〜」

コイツは物心が着いた頃には横にいた。
小さな頃はお互い性別を逆に間違えられたり、気の強い私の後ろを着いてきていた。そんな幼馴染こと不二周助。
あの可愛い『しゅうくん』はどこに行ったんだ。まあ、そう問い質したら「あの素直な『みぃちゃん』もどこに行ったんだろうね?」とか反撃してくるに決まっている。

寝転がっている私を背もたれにして、わざわざわ全体重を掛けてくるこの男は私をなんだと思っているんだろうか。
どうにかして抜け出せないかと動こうとしてもその度に邪魔をされ、終いにはほぼ上に乗られている状態で。
十字みたいになってるぞ、どういう状態だよ…なんて心の中でツッコミを入れる。

「周助くん、重いです」
「そんなことないでしょ」
「おめ〜はよぉ…」

人の上で伸びをするように背筋を伸ばしているこの鬼畜は何を考えているのか。既に二十年以上の付き合いの筈だけど分からない。一ミリも分からん。
重すぎる、伸びきった周助の腹を叩けば「セクハラだよ」とかぬかしやがるからほんとに腹が立ってきた。

「おもーーい!どけー!!」
「あはは、怒った」
「笑い事じゃないからね?」

やっと退いたと思えばそのまま同じように横になった周助。
文句を言うために寝返って顔を付き合わせれば当たり前だけど顔が近い、そして良すぎる。顔が。

「どうしたの?」
「クソ…ちょっと顔が良いからって調子に乗るなよ!」
「好きでしょ? 僕の顔」
「ん゙ん゙〜、……許した!」

自信ありげにニコニコと笑う顔に釣られて口を滑らせてしまう。本当に周助に甘すぎる、ダメだ。
もちろん、自分の顔の良さを自覚していて私がこの顔に抗えないを分かっていてこの言い様だ。多分、一生コイツに勝てないのはこの顔のせいだ。
本当に良い顔だな、改めてじぃっと顔を見つめる。手入れの行き届いた栗色のサラサラとした髪に細められた髪と同じ栗色の瞳。彫りの深い顔に高い鼻、少し厚い唇。つまるところ、顔の全部が好みなのである。

「そんなに見られたら照れるな」
「いいでしょ、減るもんじゃないし」
「減るよ」
「どこが?」
「鼻の高さとか?」
「それは困るから見んとく」

鼻が低くなるのは困る、非常に困ってしまう。世界の大損失じゃないか。
見ないでおこうと目をぎゅっと瞑ればまた声を上げて笑い出す周助。
こっちは真剣なのに、ゲラゲラ笑いながら人の頬を掴んでぐにぐにと遊び出すな。

「あははは!面白い顔!」
「いたーい、いたいでーす。やめてくださーい」
「ふふ。ねぇ、キスしていい?」
「こんな無様な顔させられれるのに?」

勝手なもんだ、ムードもクソもありゃしない。
「冗談だよ」なんて言葉と共に離された頬にほっとしながら、ヒリヒリと痛む頬を涙目でさすっていればちゅっという可愛らしいリップ音。

「……はあ、ほんとふざけてるって」
「僕はいつでも真剣だよ」
「へいへい、そうですね!」

私はこの先、一生この男に勝てないのだろう。
大きな溜息をつきながら天井を仰いだ。

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