「ねえ都、何それ」
「はあ?何が?」

 そんな声にパッと顔を上げれば、静かに本を読んで居たはずのサエにじとりと睨まれている。
 なんで睨まれているんだ、なんて思わず眉根を寄せる。こっちが「何?」って話なんだけど。不機嫌そうな顔をしたサエが本を置いて私の真横までやってくる。

「うひゃ、なになに!?」
「これ」

 グイッと身体を寄せられて、ブラウスから覗く首元を指さしたサエ。
 「これ」なんて言われても見えないし主語も述語もないから何も伝わらない。

「いや、何が? 見えないか…ちょ、待って何!?」

 ドンと背中は床とくっついて上には怖い顔をしたサエ。
 ぷちぷちとブラウスのボタンは数個だけ外されしまい、一瞬頭が真っ白になるが抵抗しようと手を伸ばす。そんな抵抗虚しく両手は纏め上げられてしまうのだけど。
 近付いてくる顔に思わず顔を背ければ首元に齧りつかれて思わず変な声を上げてしまう。
 ぬるりとした舌がそこを這つてゾワゾワとした感覚に襲われる。やめて欲しい、頭がおかしくなりそうだ。
 いや、そんなことよりだ。

「か、痒いからやめて貰えますか!?」
「…どこが?」
「手ぇ離して!」

 バタバタと暴れれば両手の拘束は解けて自由になる。折角痒くなくなってきていたのに、変に刺激を与えられたせいでまた痒くなってきた。

「サエのせいでまた痒くなったじゃん!」
「…もしかして、虫刺され?」
「そうだけど、何?…キスマにでも見えました?もしかして」

 まさか、そんなベタな間違いするわけないだろうと思い訊いてみればバツの悪そうな顔で「別に」と顔を背けたサエ。えっ、マジじゃん。

「なに、ヤキモチ?」
「…悪い?」
「いや別に悪いとは言ってないけど」
「正直、虫相手でもイラつく自分がいることに驚いてるんだよね」
「エッ」

 目を丸くしてムスッとした顔をしているサエを見つめれば、またがばりと覆いかぶさられ首元に顔を埋められる。
 髪の毛がこそばゆくて身を捩るけどそれでも離れてくれない。さっきみたいに、またちうと吸われて舌が這う。
 違うところにチクリとした痛みが走って。嗚呼、やられた……なんてもう抵抗する気も起きないな。

「あの、サエさん」
「なに?」
「あんまつけすぎないでよね」
「わかってるって」

 わかってない時の返事だ!
 虫相手にヤキモチって、どんだけ独占欲が強いんだこの男は。こうなれば諦めるしかないし、好きにさせるほかない。
 後で確認すれば普段は見えないところだけど、沢山の赤い華が散っていたのは言うまでもないだろう。


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