普段と変わらない夜の時間。いつもみたいに一緒にご飯を食べてさっとお風呂入って、ソファの上で寝るまでダラダラ過ごす……一日の中で一番好きな時間だ。
 サエは持ち帰りの仕事がある様で、今は必死にPCと向かい合っている。教師という仕事は大変とよく聞くけれど、教員になってからのサエを見ていればそれがよく分かるようになった。
 なにかに煮詰まっているのか、何度も首を傾げている様子が少し面白くて眺めていれば、サエは小さく息を吐いてからがくりと俯いた。

「……はぁ、都」
「ん?なぁに」
「ちょっといい?立って」
「えっ、はい…。なに、私怒られる?」
「はは、怒らないよ。ちょっとね」

 言われた通りに立ってみれば、サエはソファにどかりと座り込み「ん」なんて自分の膝の上を指す。ポカンとした顔でサエを見れば、サエ自身も不思議そうな顔をしていて思わず「え?」なんて声が出てしまう。

「なに?」
「座って」
「そこに?」
「ここに」
「ヤダって言ったら?」
「無理にでも座らせるよ」

 そう笑いながら言ったかと思えば、グイッと手首を引っ張られあっという間にサエの上に倒れ込む形で膝の上に乗っかってしまう。
 いきなり引っ張るなんて危ないでしょ!なんて文句を言う為に顔をあげようとするけれど、私の肩口に顔を埋めたまま動かなくなってしまった。どうしようもなくなってしまい、少しだけ頭をサエの方に倒せばグリグリと肩に顔を擦り付け始めるサエ。

「どうしたんですかお兄さん」
「疲れたから都を充電中」
「それはお疲れ様です」

 モゾモゾと足を動かして自分が座りやすい位置に移動する。とは言ってもサエの足に跨るように座り直しただけなのだけど。
 流石に疲れたと言っている人間を突き飛ばす程悪い人間じゃないから、甘んじてそれを受け入れて優しく背中を撫でるくらいはしてあげても良いだろう。背中に回した手でお疲れ様の意味も込めポンポンと軽く叩けばサエは小さく笑う。

「なんか、同じボディソープ使ってるのに都の方が甘い気がする」
「そりゃお風呂出たあとに保湿のクリーム塗ってるか、ぎゃあ!」
「……うん、甘いかも」
「流石に時間経ってるとはいえ、突然舐めるのはどうかと思うよ」
「突然じゃなかったら舐めてもいいの?」
「良くないよ何言ってんのバカ」

 密着していた身体を少し離して頭を軽くペチリと叩く。そうすれば眉を下げながら謝るものだから、それがなんだか可愛くていつも許してしまう。
 いつも軽くワックスでセットしている髪の毛はお風呂に入った後だから当たり前だけど、下ろされていて少しだけ幼い感じがする。少し硬いけれどサラサラとしたそれに手を伸ばせば、するりと手に擦り寄られる。

「……どうされたいの」
「……頭、撫でて欲しいな〜…なんて」
「っふ、いいよ。こじろうくんは良い子ですね〜」
「なんかバカにされてる気がするな」
「してないよ、可愛いなって」

 頬を軽く撫でて所望された通りよしよしと頭を撫でれば、満足そうに目を細めされるがままのサエ。
 ぎゅうとまた抱き寄せられ驚いて手を止めれば、「やめないで」なんて耳元で囁かれて少し擽ったい。止まっていた手をまた動かして少し経った頃、突然「ねぇ」なんて呼びかけられぱっと顔を上げる。

「なぁに?」
「なんで半ズボンなの?いつもならジャージ履いてるのに」
「や、暑くて。今年遂に半ズボン買っちゃった。パンイチになるよりいいかなって」
「ふぅん。そっか」
「ぅひゃ!ねぇ、擽ったいんだけど」

 突然折り曲げていた足を撫でたかと思えば、脹脛と腿の間に指を差し込まれ思わずぎゃっと声を上げてしまう。じとりと睨み付ければ何が悪いか分からないような顔で笑っていて、少しだけ腹が立つ。

「だめ」
「だめなの?」
「だめ」
「ちょっとだけ」
「やだ」

 バタバタと暴れても残念な事に背中に手を回されているから抜け出せず、不機嫌な顔をしてサエの肩を押しながら抵抗する事くらいしか出来ない。

「かわいい」
「やだー」
「好きだよ」
「んッ……、いやって、いった!」
「明日は休みだろ?嫌なら本気で抵抗しなよ」

 ちうとくちびる同士をくっつけられて離したあと、何かを期待するような熱っぽい視線を向けられ思わずたじろぐ。確かに、抜けようと思えば抜けれる程度の拘束であとは私の行動次第…みたいなところはある。

「いじわる」
「都が素直じゃないからだろ」
「ん…しらない」
「ベッド、行く?」

 少し甘えるように手を首に回してすりすりと頬を寄せれば満足気に笑いながら、応えるように軽く頬にキスされる。
 分かるか分からないか、それくらい小さくこくりと頷きそのままサエの首に顔を埋めれば少し擽ったいのか小さな笑い声が聞こえた。

「ちゅーしてくれたら連れてってあげる」
「じゃあ今日はしない」
「うそ、冗談だから行こう?はい、足はこっち」
「わ、!び、びっくりした」

 足を揃えた方向にくるりと向きを変えられたかと思えば、そのままひょいと持ち上げられて思わずサエの首に回していた手に力が入る。

「いたた、ごめんごめん。驚かせちゃった」
「や、大丈夫だけど、はずかしい」
「恥ずかしがってるのも可愛いね」
「……もうなんでもいいじゃん…」

 落とされないように大人しくしていれば、そんな様子が珍しいのか私を見ながらサエは「ふふ」なんて小さく笑う。

「いつもみたく暴れようか?」
「全部受け止めるからいいよ。絶対に落とさないし……はい、着いた」
「ゔ〜……やっぱ恥ずかしいからやめる」
「だ〜め。はい、ばんざい」
「……ばんざい」

 ベッドの上に優しく下ろされたかと思えば、子供にするみたいに服を脱がそうとするから余計羞恥心を煽られる。言われるがまま、ばんざいすればあれよあれよとTシャツは脱がされ上は下着一枚。
 くちびるを親指でするりと撫でられ近付くあの無駄に良い顔面にぎゅうと目を閉じそれを受け入れる。せめてもの抵抗で口を真一文字に閉じていれば、舌で隙間をこじ開けるようにつんつんとつつかれる。

「…鼻摘む?」
「っぷは、あれキツいから勘弁してください」
「じゃあそろそろ諦めて」
「う〜…まだ舞える……」

 とん、と肩を押されそのまま後ろに転がり込み頭を枕に預ける。ちょっと雑に扱う癖にこうやって痛くないよう配慮してるの、ズルくないか。
 私の上に跨り見下ろすその顔に少しだけドキリと胸が高鳴る。良くない、本当に良くない。ふい、と顔を逸らせばその様子に気付いたのかサエは悪い顔をして続ける。

「そんなに俺の顔、好き?」
「ぐっ、……す、すき」
「俺のことは?」
「ひっ、ぅ…す……き、」
「ははは、ありがとう。俺も都のこと好きだよ」

 私に対して自分の顔面の有用性を理解しきっているこの男は、たまにこうして顔面を最大限活用してゴリ押してくる。毎度毎度負けているから流石に悔しい。

「さ、サエも脱いで」
「都のすけべ」
「〜っ!そういう!意味じゃ!なくて!」
「はは、冗談だよ。…全部脱ぐ?」
「しらない!好きにして!」

 「都はわがままだなぁ?」なんて笑いながらTシャツを脱ぎ捨てたかと思えばその流れでズボンも脱ぎ捨ててしまった。下着以外全部いったじゃんコイツ…。好きにしろと言った手前何も言えずに目線を彷徨わせる。
 ウロウロと彷徨わせた後、ちらりとサエに目線を戻せば引き締まった腹筋が目に入り思わず両手で目を覆う。

「何してるの?」
「……戒めてる」
「やっぱり都、すけべじゃん」
「上半身下着一枚の女組み敷いてる男に言われたくないよ」
「ほら、都も早く脱ぎなよ」
「やだ〜脱がない〜Tシャツも着直す〜」
「着衣でしたいの?別に俺はいいけど……」
「ば〜か!」

 ぺちぺちと差し出されていた手を叩けば困り顔になったサエ。お、諦めてくれたか…なんてほっと肩を撫で下ろせば一言。

「実力行使…かなぁ」
「え゙」


────────


「ばかばか、ばかさえ、あほ!」
「素直にしない都が悪いっていつも言ってるじゃん」
「すなおじゃっ、んンっ…、なくてぇ…いいってさえ!いったも…んっ、!」

 一言呟いた後、宣言通り実力行使。サエをペちペちと叩いていた手は、彼の片手により頭の上で一纏めにされてしまい、もう片方の手で器用にも脱がされ即刻下着のみの状態まで剥かれた。
 何が悔しいって、私の手を纏めていたのはサエの右手。つまり利き手……コイツの利き手じゃない右手に!両手の力で勝てなかったのだ。
 …じゃああの腕相撲は接待だったのか!許せない!なんて憤慨する暇もなく……。

「考え事するなんて余裕だね?」
「ッあ、いや…!〜っ、」

 あんたの事だよ!なんて反論する暇もなく動かされる腰に頭は痺れて、覆い被さるサエの肩を握ることしか出来ない。
 普段ならもう少し傷になんないようにとか考えるけど、もう今日は知らない。どうせ傷がつこうがコイツは喜ぶだけだ。

「ふふ、いいよ。かわいいね」
「…っ、ばーか…!」
「まだそんな事言える余裕あるんだ?」
「ひぁ… ンっ…ごめっ、」

 ずるりと引き抜かれたかと思えば良い所に当たるよう、ゆっくりと奥を目指すように挿し込まれてしまい思わず腰が浮いてしまう。
 涙目で嫌だ嫌だと首を振ってもとろりとした目で見つめられてしまい、ああこれはダメだ……なんて頭のどこか冷静な部分は諦めつつある。

「俺さ、自分のことどちらかと言えば割とマゾ寄りだと思ってたんだけど」
「っえ…きゅ、にッ……なに…ぃ?」
「都がさ、涙を流しながらいやだって言ってるの見ると……ちょっと興奮するんだよね」
「……さっ、最悪の、こくはくを今ッ……するな…!」

 最悪だ、何してもサエの興奮材料になる。多分、自惚れかもしれないけど私なら無反応でも何でもイけるのだろう。
 ぎゅうと押し潰されて、すべすべとした肌が密着して気持ちいい。もうなんか考えるの嫌になってきちゃったから多分トばした方が精神衛生的にも良いのかもしれない。
 こつんと奥を叩かれ思わず大きく甘い声が出てしまう。耳を塞ぎたくなるような甘ったるい声が恥ずかしくて思わず唸ってしまう。

「ねっ、も…っはずかし、ぁ…!」
「あは、きもちいね?」
「ンッ あ…ぅ、きもち……おく、すっ……ぁ!」
「うん。知ってる、都の好きなとこ全部わかるよ」

 考える余裕もなくなって、どろどろに蕩けた思考では何も突っ込むことは出来ない。
 「好きだよ」だとか「かわいい」だとか耳元で延々と囁く声に思考も何もかも、全てを絡め取られて気持ちいい事だけしか考えられない。馬鹿になりそう、そんな一言が今の状況にはよく合うだろう。
 とんとん、とナカの良いところを擦られて頭は靄がかかったようにふわふわとした良い気持ちになる。自分の口からは簡単な母音くらいしか口からは漏れ出なくなってきて、そろそろ限界が近くなってきているのかもしれない。

「さえ、っ……すき、だいすき……ッあは、きもちぃ、ね…?」
「ン、きもちいね。もうだめ?」
「だめ、もう……ッ だめ、イきっ、ぁンッ…!」
「ん。良いよ、俺も……っ」

 なんだかんだ、ゆるりゆるりと私に合わせてくれていたんだ、なんていつもこの時になって思い至るのだけれど。
 寂しんぼなのか気持ち良くなる時は一緒がいいのか。先程までよりもっと激しく、はやく打ち付ける腰に目の前はちかちかと瞬く。サエの首に回した手を更にぎゅうと締めて引き寄せ首に顔を埋める。

「んふふ、っは……みやこ、こっち向いて。かわいい、っン」
「あっ、だめッ…ンッ…〜〜ッあ、!」

 すぐに離されてしまい、ぁ…なんて思えば長い指で顎を掬われ、くちびるがくっついてぬるりとした厚いベロが口内を犯す。
 必死に応えるよう動かせばお互い限界は近かったようで、がくがくと震える腰とシーツを引っ掻く爪先。耳元で聞こえる小さな唸り声にキュンとナカは疼いて、心地よい感覚にふわふわとした頭で彼の名前を呼ぶ。

「ん、ふ……っおもい……」
「……ごめん、ちょっと待って。もう少し」
「やっ…、もう、おもい…!」
「あはは、分かった分かった。でも、足離して?」
「……これは、ごめん」

 無意識の内に絡めていたらしい足が邪魔で離れられなかったようだ。四肢を布団に投げ出し、ずるりとナカから抜ける感覚に顔を顰めて目を擦る。
 元々少し眠たかったけれど、激しめの運動のお陰か眠気がだいぶ来ている。なんならこのまま目を閉じればすぐに寝れてしまうだろう。

「都、服着ないと風邪ひくよ」
「……ぜんぶして」
「甘えんぼめ」
「ふん……」

 ゴムの口を縛り処理を終えたサエはくすくすと笑いながら私の抜け殻を掻き集めて来たようで、私の手を軽く引いて身体を起こしたあとひとつひとつ着せていきすっかり元通りの状態だ。

「ねむい」
「ん〜…俺はもう少し仕事しようかな」
「やだ、寝る」
「ひとりで寝るの嫌?」
「ん、いっしょに寝る」
「じゃあ、あと少しだけ待ってて。保存してないからそれだけ」

 ん、なんて小さく返事すればぽすりと頭に手を置かれ未だ半裸のままサエはPCの置かれた隣の部屋へ向かっていく。
 お気に入りのぬいぐるみを抱いて、うつらうつらと首を揺らしながらお気に入りの抱き枕が帰ってくるのを待つのだった。


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