始まりはサエの何気ない一言。

「都のことを閉じ込めたい」

 ぎゅうと抱き締められながら、優しい目をしてそんなことを呟くものだからちょっとした冗談だと思っていた。
 まあ、よくある強い独占欲から来るそんな感情を言語化しただけで、実行に移すとかは流石にないだろう。だから「いいけど、どうやって?」なんて少し試すような物言いをしてしまった。

「どうって、うーん…。少しだけ待って貰える?」
「え、うん。いいけど……」
「ありがとう、大好きだよ」

 この日はこれでおしまい。まだ一緒に住む前だったから帰りは実家の近くまで送ってくれて、別れ際には「またね」なんて言って手を振りあったのだった。


────────


「というわけで、はい。纏めてきた」
「ええ、何を」
「都を閉じ込める計画?」
「言葉にすると物騒すぎるね」

 数枚の紙に纏められた内容をパラパラと捲りながら簡単に目を通す。
 所謂軟禁なのでそれに対するメリットデメリット。デメリットに対する対策に、この状況下に置かれた私を如何に過ごしやすくするかと綴られた圧倒的な熱量。

「こりゃ凄いね…」
「気に入って貰えた?」
「才能の無駄遣いというかなんというか…」
「で、俺に閉じ込められてくれる?」

 本当に凄いよ、ドン引きが一周まわって尊敬に変わりそうだもん。
 ふにゃりと笑いながらそんなことを言うものだからまるで同棲しないかと誘われてるなんて錯覚するけど、実際は軟禁していいかって聞かれているのだ。これ、もしかして発言次第ではバッドエンドでは?

「質問いい?」
「いいよ」
「ゲームしてもいい?スプラとか、そういう知らない人とマッチングしちゃうようなやつ」
「出来ればして欲しくないけど…まあ、でもスプラはチャットとかないし良いかなぁ。知らない男と連絡取れるのはやめて欲しいかも」
「じゃあその辺は大丈夫か…。お出掛けは?髪切りたいとかそういうの」
「俺が全部してあげたいけど可愛くしてあげれないかもだから、俺が全部予約して連れて行ってあげる。ただ、俺が休みの日だけになっちゃうけど良いかな?」

 その後、何個か質問を投げて返ってきた答えを聞いた結果ひとつ思ったこと。
 ──ダメだ、快適すぎる。しかも軟禁というよりこりゃカテゴリー的にペットだわ多分。

「私、もしかしてサエに飼われるの?ヒモ?」
「……そんなつもりは無かったけど、言われてみるとそうかも」
「あ…そうだ。金銭的な話になるけ…」
「貯金もあるし一応俺、公務員だよ。贅沢はまだ出来ないけどしなければ都ひとりくらいは養えるよ」

 食い気味にそう言われてグッと言葉に詰まる。今のご時世なら、やろうと思えば在宅の仕事だって出来るんだし私が働きに出る…なんてしなくていい。つまり、退路は全部絶たれた。
 ニコニコと笑うサエにぐぬ、なんて言葉に詰まっていればそうだ!なんてひとつ、希望の光を見い出す。

「お、親!私の親が!」
「虎次郎くんと住むなら安心だねって」
「えっ」
「都のお父さんとお母さん、賛成してたよ。流石に閉じ込めるとは言えなかったけどね」
「た、退路ぉ……」
「どうする?俺に閉じ込められてくれる?」

 逃げ道は無事全て無くなった。そんなよわい私はこくりと小さく頷くことしか出来ないのだった。


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