「ただいまぁ〜!」
「都!遅くなるなら連絡してって俺、いつも…。……ねえ、もしかしてお酒飲んでる?」
「あは、えへへ。飲むつもり無かったんだけど、一杯だけ〜ってしてたら沢山飲んじゃった」
「飲むのはいいんだけど…、言ってくれれば迎え行ったのに。それに、いつ帰るか連絡してって言ってるよね?」
「えへ〜、ごめんね?」

 これでも俺は怒っているつもりなのに、にへらと笑いながら俺の機嫌を取るようにぎゅうと抱きついてくる都。
 ふんわりと鼻を擽った彼女の香りと強いアルコールの匂いにくらりときて、思わず許してしまう自分は甘すぎるかもしれない。

「今度からは連絡してくれる?」
「うん、する。ぜーったいする」
「言質とったよ。でも無事に帰ってきてくれて良かった」
「ま〜友達の彼氏が車で送ってくれたからねぇ」
「……今回は許すけど、知らない男の車なんか乗っちゃダメだよ」

 ぴんとおでこを弾けば「あいた…」なんておでこを押さえる。ゆっくりと俺から離れた都はその足でお風呂に向かうようで。

「ひとりで大丈夫?」
「別にそこまで酔ってないからへーき。パジャマ持ってきて?あとカバン置いてきて!」
「はいはい、遅いようなら様子見に行くからな」
「サエのえっち〜」

 そう言ってけらけらと笑いながら脱衣所に消えていってしまった都。酔っ払ってしまうとどちらかと言えば笑い上戸になる節のある彼女は、そんな冗談も言えるくらいには上機嫌らしい。
 まあ、久しぶりに会う友達とのご飯だと言っていたし月に一、二度くらいしか飲まないお酒をついついたくさん飲んでしまったのにも納得がいく。
 パジャマを届けるため脱衣所へと向かえば、ドア越しにふんふんとこれまた上機嫌に歌っているようで、それにつられてふんふんと歌っていれば「サエも歌ってる〜!」なんて笑われてしまった。

「そんなに楽しかった?」
「す〜っごく楽しかった」
「俺とはあんまりお酒飲んでくれないのに」
「え〜、そこで拗ねるの〜?また今度、ね?」

 ドア越しにそんなやり取りを少しだけして先にリビングへ戻る。持ち帰りでしないと間に合わない仕事があるので仕方がない、またPCと睨めっこしながら黙々と作業を進めていく。
 あんまり家に持ち帰って都と過ごす時間を奪われたくないのだけど、残業をしていると上から怒られてしまうし、そもそも就業時間だけでは終わらないから仕方がない。

「おふろでた」
「…髪乾かした?」
「してない」
「ちゃんと乾かさないと風邪引くよ」
「えっ、してくれないんだ」
「……仕方ないなぁ、おいで」

 目の端にちらりと映った都は下着にキャミソールを着ただけの状態で、何事かと思えば髪を乾かしてなかったらしい。
 ドライヤーとヘアオイルを手渡され、向かいの椅子の上に収まった都はすいすいとスマホを弄り始めてしまった。どうやら先の友達にお礼を入れているみたいで。

「服着ないの?」
「暑いじゃん、まだ」
「せめて下は履きなよ」
「履いてるよ!ぱんつは」
「なんのために半ズボン買ったんだ……?」

 暑くてパンイチなるより…みたいな事をこの前話していた気がするけど、聞き間違いだったのだろうか。まあ、風邪は心配だけど履いてない方が俺的には役得か、なんて自分を納得させながらドライヤーの電源を入れる。
 ごうごうと風が出る中、連絡は終わったのかスマホを伏せてぼぅっとしている様子の都。

「今日は何食べたの?」
「ん〜?えっとね、焼き鳥とか」
「それはお酒飲みたくなるかも」
「甘いのいっぱい飲んだ、ちょっと吐きそうだったもんね」
「そんなに強くないんだから、程々にしておけよ?」
「……えへ!」

 これは言うこと聞かない返事だなぁ、なんて。
 ドライヤー中には飲み会の感想を聞いたりしながらサラサラとした髪に指を通す。毛先とかは何度か切っているだろうけど、大分伸びたような気がする。いちばん短かった頃は確か肩のあたりで、今は胸から臍の間くらいだ。
 一通り乾かし終わったところでドライヤーを置きながらうつらうつらとしている都に声を掛ける。

「ほら、終わったよ。寝るなら布団で、ね?」
「ありがと。でもまだねないもーん、サエは?」
「もう少し睨めっこするつもり」
「じゃあそれ見てる。こっちね、座って?私ここ」

 ソファとローテーブルの隙間にちょこんと座りとんとん、とテーブルを叩いた都。言われた通りPCを移動させて都の隣に座ればムッとした顔をしながら口を開く。

「そこじゃない」
「でも、俺の前座られたら画面見えないよ」
「……じゃあいいや、ふーんだ」

 拗ねたように頬を膨らませたかと思えば、胡座をかいた俺の膝を枕にして寝転がってしまった。一緒にテレビ見る時とかなら別に良いんだけど……。
 特に何も言及はせずに作業を始めれば、都は暇を持て余しているようでスマホを弄ったりごろりと転がってみたり。そんな様子を見ていれば段々と構えないのがもどかしくなってくる。

「みやこ」
「はぁい」
「好きだよ」
「わたしも〜」
「……珍しい」
「ふん」

 今、どんな顔をしているのだろうか。如何せん今は画面から目を離せないから彼女の様子を窺うことは出来ないけれど、いつもみたいに恥ずかしそうな顔をしているのか、はたまたさっきみたいに機嫌良く笑っているのか。

「今って授業何してるの?」
「あ〜、えっと…二年なら枕草子かな」
「春はあけぼの〜ってやつかぁ。懐かしいね」
「そうそう。俺たちの頃確か暗記させられなかった?」
「したした!まだちょっと覚えてる」

 ようよう白くなりゆく山ぎは────、なんて諳んじ始めた都。案外覚えているようで、最初の一節を全て言い切り満足気に「言えたぁ」なんて笑っている。

「夏は?」
「……覚えてないでーす」
「あはは、そうだよね。覚えるのそこまでだったし」
「サエは言えるの?」
「…ここだけの話、そんなに覚えてない」
「あ〜、わるなんだぁ」

 くすりと小さく笑えばつられたようにふふふ、なんて笑っている都。なんとなく彼女に触れたくなって、片手だけあればいいやなんて右手で都の髪に触れる。
 突然触られたことに驚いたのかびくりと身体を揺らした後、何事も無かったようにその手に擦り寄られる。頭を軽く撫で、そのまま柔らかい頬をむにむにと揉んでいれば、急に手を掴まれてしまい都に目を遣る。

「捕まっちゃった」
「捕まえちゃった。揉んだげる、マッサージです」
「ふふ、ありがとう。気持ち良いよ」

 両手の親指でぎゅうぎゅうと手のひらをマッサージされている。全然痛くは無いし、寧ろ気持ちが良いくらい。
 意外にもマッサージが上手でそのまま預けておきたいくらいだけど、流石にそれでは作業を終わらせられない。「ありがとう」なんて言って手を離そうとした瞬間、手のひらに触れた柔らかい感触。

「ごめ、当たっちゃっ……うわっ!びっくりしたなぁ…」
「んはは、うわって、ふふ」

 そりゃ変な声だって出るに決まっている。親指の付け根あたりを唇で食まれたかと思えば、そのままべろりと舐められてしまったのだから。
 俺の手の中で多分、唯一柔らかいその部分を味わうように軽く歯を立ててみたり吸ったり、舐めたり。

「……美味しい?」
「んッ、ふふ。その質問はちょっと面白いかも」
「勝手に人の手のひら舐めて、どうしたの?」
「気分だよ、きぶん」

 ちゅっ、なんてリップ音を立て離れたと思えば温かい舌が親指を這いぱくりと食べられてしまった。
 口の中が熱い。どうするつもりなのだろうか、一旦何もせず様子を窺ってみるか。なんて都からPCの方へ目を戻し、何とか片手で作業を進める。
 まるでおしゃぶりをしゃぶっているかのようにちゅぱちゅぱと吸ったかと思えば、この前みたいに齧られてまたぢゅうと吸われる。
 そのまま手を上下に動かし、口から出し入れする姿はまるで……そういえば指フェラというものは聞いた事がある。こういう事か、なんてひとり納得しながらほんの少しだけ興奮を覚えつつ。都の好きにさせてやるか、なんて。

「ふ、んッ… はぁ、やっと味無くなった」
「味って…ふふ、何味?」
「なんか、人体って基本しょっぱくない?」
「そうなんだ、舐めないからわからないや」
「舐める?指、自分のでも多分しょっぱく感じるよ」
「…どうせなら都のが良いんだけど」

 何が楽しくて自分の指を舐めなくちゃいけないんだ。ちらりと都に目を移せば彼女はいつの間にか起き上がっていて、「あ〜」なんて発しながら自分の指を俺の口元に運ぼうとしている。
 ……なにか試されているのだろうか、そんな考えが一瞬頭を過ぎるが思考を放棄してぱくりと咥え込む。確かに少ししょっぱい、だけどどこか甘くて。

「ボディクリーム?」
「舐めても大丈夫なのに変えた」
「そりゃ助かるね」
「おしまい」

 ひょい、と指を取り上げられてしまいじぃっと都の唇を見つめていれば、ムッとした顔で都はPCを指さしながら「集中」とだけ呟く。
 自分は遊ぶだけ遊んで、俺にはなんにもないのか…、なんて少し落ち込みつつ作業に戻ろうとすれば相変わらず掴まれたままの右手。

「離してくれないの?」
「これは私のです」
「一応俺のものなんだけどなぁ」

 まあ、俺は都のものだしあながち間違ってはないけど…。そんなことを考えていれば、都は親指と人差し指の間をかぷりと甘噛みしている様子で。たまにぬるりと舌が這う感覚が少しこそばゆい。
 そのまま舌を這わせて気が付けば人差し指にまで舌を伸ばしていたようで、指の腹に軽く歯を立てられ小さな痛みを感じる。第二関節ほどまで咥えられちゅこちゅこと何度か往復を繰り返した後、爪の生え際を舌の裏側でなぞられてその感覚にちらりと都に目を移せばぼんやりとしている、だけどどこか物欲し気な目をしながら必死に口を動かしていて。
 ゴクリと喉を鳴らす。そんな音が聞こえてしまったのか、俺を見上げパチリと目が合った瞬間少し目を大きく見開いてから恥ずかしそうに伏せる。

「都」
「ん…」
「今から俺の言う通りにできる?」
「……?なに?」
「お勉強だよ。えっと……歯は立てないこと、あとは…う〜ん、苦しかったら俺の事トントンってできる?」
「わかった」

 いい子、だなんて左手で都の頭を撫でてやり一度指を口元から離しながら身体を少しだけ都の方に向ける。ぺたりと座り込んでいる都は目線だけで指を追いかけて、口元へと再度運べば控えめにはむ、と唇で挟む。

「第一関節くらいまでが先っぽで手のひら側が裏側。……歯、立てちゃダメな理由分かった?」
「…ん、ぐっ……ばかばかばか」
「あっ、ほら。歯を立てたら痛いよ」

 抵抗かどうなのか、ガブリと指先を噛まれてしまった。「痛い」と言えばパッと口を開き咥えるでもなく、どうすることも出来ないのか半開きのまま困ったように眉を下げている。

「どうしてもらおうかなぁ」
「ンっ……」
「あはは、ここきもちいい?」
「ふっ……はぁ…っ、んぐ〜!」

 どう舐めてもらおうか、そんな邪な事を考えながら指の腹で上顎のゴツゴツとした部分を何度かなぞれば、こそばゆいのかなんなのか抵抗するようにぶんぶんと首を振った都。

「どうしたの?」
「なん、っか…!こそばい!やだ!」
「やっぱり上顎弱いんだ。ふふ、いい事聞いちゃった」
「やだ!」

 もう一度ゆっくりと指を差し入れ、舌の表面から付け根にかけてをゆるゆるとなぞっていればピクリと身体を揺らしながら必死に我慢している様子で。上を向いていなければそのうちだらりと溢れそうなほど唾液が溜まってきて、そろそろかな。

「飲んじゃダメだよ」
「……ん、」
「じゃあまず、先っぽ。ベロの先で舐めながら、ん〜、今は握れないし…今は俺の手に自分の手を添えて?」
「ん〜…、こお?」
「そう、上手。亀頭…あ、先は敏感だからね。優しく…そう、あとはカリ……分かる?先と一緒に口の中で吸われるのも好きかも」
「……ばぁか」

 歯を立てない配慮か、唇で挟みながら小さく呟き俺の言った通りに舌を動かす都。たまに聞こえる甘い吐息に反応して、下着の中が苦しい。緩いズボンを履いていたのがせめてもの救いか。

「あとは裏側の筋、アイス舐めるみたいにね。あと舌でつんつんって……」
「んぐ…、はっ…ふ……よ、よだれ…たれる!」
「あはは、そんなに出てた?おいで」
「ぅえ、わっ……っん、」

 くい、と抱き寄せ唇をくっつける。舌でつついて口を薄く開かせればその隙間からは、とろりと温かい液体が少しずつ流れ込んできて。それをこくりと飲み下せばとんとんと背中を叩かれゆっくりと唇を離す。

「んっ、ん〜っ!」
「…っぷ、は。ははは、すごい顔してる。びっくりした?」
「の、のみやがった……!」
「美味しいよ、甘くて」
「きも……」
「じゃあ続き、ね。裏筋とカリの境目あたりも気持ちいいよ。あと竿はあんまり舐められても…だから一回唾液で濡らしてから手で扱いてくれると嬉しいな」
「ゔ〜!」

 少し乾いた唇の間に指を滑り込ませて何度か前後させればぐぐ、と舌で押し返されてしまう。これは…さっきので少しご機嫌ななめらしい。

「ふふ、今日はおしまいにしようか。お疲れ様、口ゆすぎにいく?」
「ぐぅ…そんなことより手ぇ洗いなさい」
「じゃあ一緒に行こうか」

 都を立ち上がらせて連れたって洗面台に向かう。都はきちんとうがいをしたあとタオルで口を拭いている。ついでに洗った手を一緒に拭かせてもらい洗濯機へ放り込んで。
 後ろから抱き締めながらすり、と軽く頬を寄せ耳元で小さく囁いてみる。

「……また今度、してくれる?」
「し、知らない。もう覚えてないです!」
「ふふ、都のうそつき」

 ぷにぷにと頬をつつけば「ふん」なんて鼻を鳴らしてリビングに向けて歩き出した都。今日はこれくらいにしておくけど、今度は期待していいのだろうか。
 それに、この調子でいけば…多分。開発のやり甲斐があるというものだ。


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