(都先輩と虎次郎くん)
私が大学に入ってから、授業やら課題やらに追われてしまい虎次郎くんと会う頻度が少なくなってしまった。高校生だった頃は毎日会えていたのに、なんて少ししょんもりしていれば虎次郎くんからの提案。
「たまにでもいいから、夜とか…電話しよう?」
二つ返事で了承して数日に一度、寝る前に少しだけ電話をする時間を設けた訳だ。虎次郎くんは割と寂しがり屋らしく。ホントなら毎日したいんだけどね、なんて笑っていた。
「〜ってことがあってね、」
「…ん、ふふ。みやこさん、大学たのしい?」
「うん。楽しいよ〜。……ふふ、そろそろ眠たいね。切ろうか?」
「えっ……やだ、切らないで、みやこさん」
ふわふわとろとろ。普段はあんだけカッコイイのに眠たくなると少し駄々っ子みたいになっちゃう所、可愛くて大好き。
「じゃあ、あと少しだけお喋りしよっか」
「ふふら、ありがとう。すきだよ、みやこさん」
いっぱいいっぱい私の名前を呼んで、「すき」だなんて呟いている虎次郎くん。多分、明日起きた頃に思い出して照れるんだろうな。そんな所を想像してみたら、なんだか可笑しくなっちゃってくすりと笑ってしまった。
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(都先輩と虎次郎くん)
未だに慣れないソファの上でソワソワと目線だけを動かす。都さんは「お茶持ってくるね〜」なんてキッチンの方へ向かって行ってしまった。
一人暮らしを始めた都さんのお家。
俺はまだ高校生で、流石にお泊まりやら毎日のように入り浸ることは許しては貰えないけど、休みの日はたまにこうやって遊びに来させて貰えている。
「はい、どうぞ。ごめんね?麦茶しかなくて……」
「麦茶好きだから嬉しいよ、ありがとう」
「ふふ、……ふぅ、夕方からバイトやだなぁ」
横に座った都さんはこてん、と俺の方に頭を預けながら小さく呟く。進学してからバイトを始めたらしい都さんは近くのドラッグストアでアルバイトをしている。
肩のから感じる都さんの温かさやシャンプーの良い香り。落ち着かない、俺だって年頃の男子だ。好きな人を感じたら落ち着かなくなるに決まっている。
「ん〜…、虎次郎くんといると落ち着くからさ、眠たくなってきちゃった…。ちょっとだけ、寝てもいい…?」
「……うん、大丈夫だよ。毎日お疲れ様」
「んふふ、ありがと。ごめんね、重かったら退けて良いからね?」
またこてんと頭を倒して目を閉じた都さん。どうやら彼女は俺と真逆らしい。すぅすぅと小さく寝息を立て始めた都さんを恨めしく思う。
都さんをじとりと睨んでぷにぷにと頬を指でつつく。こうやって、信頼されるのは嬉しいけど。俺、都さんのこと大好きでそういうことに興味ある年頃の男なんだけどな。
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(同棲さえみや)
「たまには趣向を凝らしてみない?」
「……と、言いますと」
サエの突発的な提案、今に始まったことではないけれど何の話だ。なんで主語がない、国語教師のくせして。眉を顰めながらサエを見つめればにこりと笑いサエは続ける。
「夜の営み」
「はあ?」
「目隠しか拘束、あとは言葉責め、焦らしプレイとか?」
「は??」
立てられた四本指。見事に全て所謂SMなプレイだし私が虐められる側で、思わず本気の「は?」だ。いや、まあ付き合い出してから私が主導権を握るなんてことはほぼ無かったけれど。
そんなことより、だ。なんでまだ……そんな、すけべな話するには早い時間なのに、こういう類の話をしなきゃいけないんだ。
「どれも、嫌」
そう言ってふぃと目を逸らせば「ふぅん」と少し不機嫌そうな声を漏らしたサエ。あ、まずい…?なんてそろりと様子を窺えば何か言いたそうな顔でこちらを見ている。
いや、分かってる。分かってはいる、正直自分のことは自分が一番。それに自覚はあまりないが前に言われたことだって頭の片隅にはキチンとある。
サエ曰く、営み中は虐めて欲しいみたいな顔をしてたり少し強い言葉を使った時はナカがきゅうと締まるらしい。この辺、個人的には分からないけどサエが言うならそうなのかも、しれない。
……案外、否定はできなかったりする。何となく自分でも分かってはいたけれど、どうやら私は若干虐められたい気質らしい。
……それなら、どうせなら。サエの立てた四本の指、全てを両手でぎゅっと包み込んでひとこと。
「……ぜんぶ、」
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(同棲さえみや)
どうしても、なんて頭を下げられたら断れない。いや、この顔で頼まれると普通に頭下げられなくても断れないんだけど。
「ひざまくら、ぐぅ……」
「お願い、ちょっとだけ。ね?」
「……ゔゔ…まあ、ちょっと、だけなら」
甘やかしすぎだろうか。その分私も甘やかされているけれど、疲れてるなら、まあ。ちょっとだけなら。
カーペットの敷かれた床の上にちょんと座り控えめに腿を叩きながら「お、おいで」なんて声をかける。それだけで嬉しそうに顔を綻ばせるものだから仕方ない。
「失礼します」
「ぎゃ、ってどこで息吸ってんの!バカ!変態!もうやめるよ」
「いてっ、冗談じゃん。ごめんね?もうしない、ごめん」
早速太ももに顔を埋めたと思えば腿の間に顔をうずめて大きく息を吸ったもんだから、思わずバチンと後頭部を叩いてしまった。流石にこれをスルーできるほど私は優しくない。
「冗談」そう言ったサエは先程と同じようにうつ伏せではあるけど、私のお腹に抱きついてぐりぐりとお腹に頭を擦りつけている。
ほんの少しだけこそばゆい。でも、なんか小さい子みたいで可愛い。
ころりと仰向けになったサエとぱちり、目が合う。じぃと見つめられてなんか先に逸らした方が負けかも、なんて。
「二の腕、触っていい?」
「……いつもの」
「そう」
「……太ったとか言わないでね」
触りやすいよう、サエの方に腕を伸ばせばもにもにと脳死で二の腕を揉み始める。いつからだっただろう。疲れたら脳死で二の腕揉むの。
正直、ちょっと体重増えたから触られたくないんだけど。
「……楽しい?」
「気持ちいいよ」
「あっそ……」
なんか、もう。いっそ胸でも触ればいいのに。そっちの方が柔らかいし。
でもそんなこと言うと、それだけで終わらないことは確かだから口が裂けても私から言うことはないだろう。
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