うっすらと差し込む陽の光に意識が浮上する。空いた右手でスマホを探し出し時計を確認すれば時刻は午前六時過ぎ。休みの日には少し早起き過ぎるかもしれない。
ぼんやりと目を擦り、俺の左側でぐっすりと眠っている都に目をやれば少し眉間にしわが寄っている。どんな夢を見ているのだろうか。夢の中でも怒っているのかな、なんて勝手に想像してくすくすと笑ってしまう。
それにしても、よく眠っている。この調子ならいつも通り昼過ぎまで起きないかもしれない。そっと頭の方へと手を伸ばし撫でようとすれば、ぱちりと急に目を覚ました都。
「わ、おはよう。ふふ……早起きだね」
起こしちゃったかもな、なんて思いつつ伸ばした手の行き場を探して少し彷徨わせたあと、予定通り都の頭へ着地させてそのまま何度か髪を撫でる。
そんな事も気にかけず、都がゆらりと起き上がったかと思えば未だ寝転がっているままの俺の顔を何度も確かめるようにぺたぺたと触る。
「ど、」
うしたの。なんて続くはずだった言葉は、彼女のぼんやりした目が俺を捉えた瞬間、ボロボロと溢れた涙によって遮られてしまう。
思わずぎょっとして慌てて起き上がれば、ひっくと小さな嗚咽を漏らした都は俺の方へと倒れ込むように抱き着く。
「ど、どうしたの」
「さえが、サエがいなくなる夢……みた……」
「……俺はここにいるよ。大丈夫だよ」
そう言ってあやす様にぽんぽんと背中を撫でれば落ち着いてきたのか、呼吸も楽そうだ。
それにしても、一体夢の中の俺は何をしているのだろうか。都を泣かすなんて、一度話し合わなければならないかもしれない。
「……あのね、」
「うん?」
「サエがね、可愛い子と……どっか行っちゃったの」
「……え?」
「サエのこと、諦めたくなかったけど、お似合いだし……サエが、サエが幸せそうだったから……諦めちゃった」
ぎゅうとシャツを握った都は「私なんかじゃ、ダメなんだって……」ボソリと呟く。
まさか、殺すだとかそんな風に脅されても絶対に俺がしないであろう事を夢にまで見て、彼女はこれだけボロボロと泣いているらしい。
どれだけ自己肯定感が低いのだろうか。マシになったとは思っていたけれど、根っこの方ではまだまだだったみたいだ。
「そんなこと絶対にしないよ。俺には都しか見えてないし、他の人になんか興味無いさ」
「でも、でも……きっと可愛くて素直で、素敵な女の子の方が良くなっちゃうよ。わたし、可愛くないし、素直じゃないし……」
「あ〜もう、俺は都だけ居ればそれでいいんだって。そんな心配しなくて大丈夫だよ」
「でもでも、だって」いつもの駄々こねが始まってしまった。こうなると、長い事はこれまでの事で嫌という程分かっている。
そんな彼女に意地悪ついでにじぃっと見つめながら口を開く。
「……都は、そんなに俺といたくないの?俺と……別れたい?」
「……そんなこと、言って……ないじゃん……!サエのばかっ!!」
やっと止まったはずの涙が、また面白いくらいボロボロと涙が溢れてきてしまった。怒ったように「ばーか!」なんて言いながら、ポコポコと俺の胸を叩く都。少しも痛くない。
別れたくなんかないのに、俺が幸せそうなら身を引いてしまう程に好いてくれているのか。なんてそんなことが頭をよぎった時にはもう遅い。都は泣いて怒っているのに、上がる口角を抑えきれず口元に手を当てる。
ああ、本当にダメだ。バレてしまったら余計怒られてしまう。それでも未だニヤけてしまう顔をどうこうする暇なんてない。
「さえのばか……。きらい、ばか。もうほんとやだ……、う〜……」
「うん、うん。ごめんね。冗談だよ、だからもう泣かないで」
「きらい」なんて言いながらこうやってくっついて泣いているところも、嫌なことを夢にまで見て俺のせいで泣いているところも。全部、ぜんぶが可愛くて愛おしくて。
俺ってば、こんななのに。都から離れるわけないじゃん。
彼女はまだ当分こんな感じだろう。だからもうあやすのも慰めるのも丸投げして、「なにみてんの……!?喧嘩!?」なんて怒っている都を笑って眺めているとでもしよう。
都のよく使う言葉を借りれば、本当に彼女は愚かで可愛いのだ。
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