ありゃ、どうしたことか。こんな慣れない土地で友人と連絡が取れなくなってしまった。大変かも。
修学旅行で訪れている沖縄県。三泊四日の内の二日目、夜の国際通りでの自由時間の事だった。行動を共にしていた友人とご飯を食べた後、お土産買お〜なんて適当にぶらついていたら、はぐれた。……こんな年になっても、迷子が直らない私が悪いのかもしれない。
連絡を試みたが既読は付かないし電話に出ない。もう、どうしたことか!
どうしよう〜…なんてぼんやりと宛もなく歩き出せばどん、と人にぶつかってしまう。
「ご、ごめんなさ、」
「あがっ。あー、ごめんちゃい」
ばっと顔を上げれば訛った言葉に男の人の声。なんだろう、何故か見覚えのある顔に頭は酷く混乱していてこの後どう返せばいいかなんて、私の小さな脳みそでは考えてくれそうにない。
「うわ!やーの服、大丈夫か!?」
やー?ってなんだ。服、大丈夫か?の一言ですっと自分の服へ視線を落とせばベッタリとついたソースの跡。また視線を上げればお兄さんの手元には串に刺さった揚げ物……ソースがたっぷりとかかっている。
それを見て慌てているお兄さんの横に居るあまりにも彼と同い年には見えない……失礼だが、少しおじさんに見える人が続ける。
「甲斐くん、ちゃんと前を見て歩かないからですよ」
そう言ってイントネーションが独特な標準語でお兄さんを諌める。
……『甲斐』って言った?今の人。いや、でも。いや……甲斐、なんて苗字は沖縄だと多いだろう…多分。
「あ、えっと……もうホテル帰るだけだし…大丈夫で、」
「弁償するあんに、ついてきちみー!」
「えっ、わ!?」
がっちりと捕まえられて連れ去られる!?新手の誘拐か!?だなんて身構えれば、近くのTシャツ屋さんに引きずり込まれて、適当に選んだであろうTシャツを買って渡される。
今すぐ着替えると言ったのか、店の試着室に押し込められ渡されたTシャツをぴらりと開けば『海人(うみんちゅ)』と特徴的なフォントでデカデカと書かれている。わあ、うみんちゅ。初めて見た。
まあ、こうなると着替えるしかないワケで。今日はワンピースとかじゃなくて良かった。ソースのついたシャツを脱ぎ貰った袋に突っ込む。この後ホテルに帰ってから洗えば多少は落ちるだろうか。
……そんなことより、だ。試着室の中にいた時に聞こえた話、「木手」やら「テニス」やら。そして「比嘉」がなんだか決定打。嫌なことに、あの時の記憶もよみがえってきた。役満だ。
あの時……中三の夏の事。ぐらり、少し頭が煮えそう。……早く、帰ろう。
試着室を出てお店の人にお礼を言いつつ店から出る。
「えと、服ありがとうございました。それじゃ、」
「ちょっ!待って…!えっと、やー、どこから来たんば?内地か?」
「えぇ…。千葉から、修学旅行です」
「なあ木手。千葉ってどの辺?」
「…はあ、関東ですよ」
「ほ〜」
あれっ、もしかして。この人ってちょっと馬…いや、失礼か。
『千葉』に何かあるのか、木手と呼ばれた人は眉根を寄せる。甲斐さん…と思わしき人も何かを思い出しているようで。
「……あの。中学三年生の時、多分全国で見ました。試合…。私、六角…中で…あの時……」
そんなこと言わずに去れば良かったのに。あ、ダメだ。思った時には既に遅く、ぼろぼろと涙が溢れ出る。ゴシゴシと手の甲で涙を拭えば焦ったようにわたわたと手を動かしながら甲斐さんは口を開く。
「わ、悪かったと思ってる!今は反省しとるあんに、その。あの…あのじーさんはふぃーじーやたん…?」
「ふ、ふぃ…?」
「大丈夫だったか?ってことですよ」
「あぁ…はい。特に大事にはならなかったし、おじいは…おじいは怒ってなかったけど……」
しょんもり、肩を落とす。そう、あの時おじいは怒っていなかった。きっと怒っていたのは私たちだけだろう。
なんなら多分、未だに根に持っているのは私だけかもしれない。…みんなは、もう。今となっては分からないし。
「ど、どうすれば…!き、木手ぇ…!」
「俺は知りませんよ」
そんなやり取りをしている二人をよそに、回らない頭で考える。もう、こうなってくれば当事者間では終わった話だ。おじいだって怒ってなければ、甲斐さんは「反省している」とまで言った。
今まで、私はこの感情をどうすることも出来ずにいて、もし次また会ったらおじいの分まで怒ってやるとまで思っていたのに。甲斐さんはすっかり反省していて、こうなってしまうと感情の行き場が失われてどうしようもなく、なんだかもにょりとしたものだけが残ってしまう。
ここでまた、あの時と同じくらい怒れるほど酷くはなれない。
「……今は、あんなことしてませんか」
「お、おう!わんはしてないさあ」
「……テニス、楽しいですか」
「……うぃーりきさん」
「ふ、ふふ。分からないけど、何となく分かりました」
確かに、彼らがやった事は一生消えないし消せない。消させない、忘れてなんかやらない。だけど、今はラフプレイなんてしていなくて、テニスを楽しんでくれているのであれば。これ以上私が怒る理由にはならない。
他人を疑って生きるのは辛くてしんどいことだ。その言葉に嘘はないと信じて生きた方がきっと、絶対に良い筈だ。
固まってしまった彼らをよそに、なんだかひとり納得してしまって悪いけれど。
「会えて、お話出来て良かったです。それじゃあ、今度こそ。またどこかで……」
……なんて、本当にさようならしようと思ったのに。
手を振り彼らに背を向け歩き出せば「なあ!」なんて声と共に急に手首を捕まえられてしまい、「ぅわあ!?」なんて振り向けば顔を赤くした甲斐さん。
「ご、ごめん!驚かすつもりはあらんくて、その。やーの名前、教えて欲しい!…です」
「え、えと。大和田、都……です」
「みやこ……都!LINEも!」
「え」
────────
「ほんとごめーん!充電切れちゃって……!」
「もー!ほんと、大変だったんだから!」
「……そのTシャツ、関係あったりする?」
「めっちゃする」
私が旅行のノリでこんなTシャツを買う事はあっても、一人で居るのに即刻着ることは無いだろうと理解している友人が、このうみんちゅTシャツなんか見たら何かあったと考えるのが妥当だろう。
かくかくしかじか…なんて事の顛末を話せば友人は目を大きく開いてきゃあきゃあと囃し立てる。
「そんなの、運命だよ!」
「運命って…そんな、大袈裟な……」
楽しそうに転げ回る友人を尻目にふ、とスマホに目をやればタイミングよく通知の音が鳴る。なんだろう…と内容を確認すれば相手は甲斐さん。
『明日って用事ある?』なんて簡素な一言が書かれており頭を捻る。そりゃあ、ある。確か十八時くらいからまた国際通りで自由行動のはずだ。
その旨を送れば『美味しいバナナオレ知ってるし飲みに行かねぇか?』だと。
どうしたことか、明日も友人と回る予定だ。どう断るべきか、素直に言えばいいけども……なんて迷っていれば、黙り込んだ私を不思議に思ったのか友人は首を傾げる。
「どうしたの?」
「さっきの人に、明日の自由時間の時お茶しないかって。どう断ろうかなっ、」
「デートのお誘いじゃん!?ウチらのこと気にしないでいいから行きな!?ちょ、貸して!」
「ちょっと!?」
スマホを強奪され、奪い返せば既に『もちろん行きたいな!』なんて返信され既読のついた後だった。
「ねえ!?何してくれてんの!?」
「も〜、行ってきなって!…それとも、まだ佐伯くん引き摺ってる?」
「……サエは、関係ないじゃん。……行くよ!行けばいいんでしょ!もう!」
怒ったようにべーっと舌を出せばぶるりと震え出すスマホ。画面には裕次郎と表示されており、一瞬そんな知り合いいない……とか思うけど、ああ、甲斐さんだ!
「は、はい!」
『あ、もしもし?断られる思ってたあんに、安心したさあ。明日、十八時ぐらいに県庁側の国際通り入口で待ってるぜ』
「はい。着いたらまた連絡しますね」
『おう。でーじ楽しみにしとるやし!じゃあ、おやすみ!』
「ふふ、おやすみなさい。……って、何。その顔」
にんまりとしている友人たちに訝しんだ目を向ければ「なになになに〜!?都もついに〜!?」と取り囲まれて楽しそうに笑っている。
ああ、恋バナが始まってしまった。これは夜遅くまで寝れそうにない。
────────
自由時間だと解き放たれたのはちょうど県庁側の入口近く。ああ良かった。これなら待たせること無く集合できるだろう。
みんなが国際通り内へと足を進める中、もふりとした茶髪を探してきょろきょろと辺りを見渡す。あ、いた。シーサーの横であの帽子を被り、スマホを眺めている特徴的な髪型。恐らく甲斐さんしか居ないだろう。
「……みんなはどっか行かないの」
「件の彼、どんなのか気になってて」
「も〜!早く!散って!」
追い立てるようにしっしと手を動かしながら甲斐さんの方へと歩き出す。
「後で色々聞かせて」なんてにまりと笑った友人にふん…と鼻を鳴らしてそっぽを向けばあはは、と声を上げながら手を振り国際通りへと消えて行ってしまった。
「おー、さっきん友達?」
「はい。えっと、…甲斐さんの事が気になってたみたいで。ごめんなさい、お待たせしました」
「わんは気にしてねーよ。じゃあ、行くか」
そう言ってニカッと笑う甲斐さん。昨日会った時は制服だったような気がするけれど、今日はラフな格好で少し印象が違う。
隣に並んで歩き出せばご機嫌と言わんばかりにふんふんと鼻歌を歌っている。
「ぬーかみぶさん?わん、やーの好きなもん分からんやし、色々考えてたんだけどよ」
「……ぬー?かみ……?」
「ああっ、えっと。ぬー食べたい?」
なんと言ったか分からなくてはてなを大量に浮かべた私を見て気付いたのか、言い直してくれたけど「ぬー」も方言だよなぁ…とか思って、少しくすり。
「ふふ、割となんでも食べますよ。甲斐さんのおすすめ連れてってください」
「…おう!美味いバーガー屋があってよ、そこ行こうぜ」
なんて連れてこられたバーガー屋さん。甲斐さんはパイナップルの挟まったやつを食べるらしい。因みにオススメとのこと。ううむ、パイナップル。どうせなら別々で食べたい……なんて私は普通のチーズバーガーにした。チーズバーガーって割と外れない気がするし。
運ばれてきたバーガーにかぶりつきながら甲斐さんは首を傾げる。
「パイナップル、苦手んば?」
「や、好きですよ。ただ、こう。別々で食べたいなってぇ…」
「ほー、わんの一口食う?」
「デェ!?やっ、だ、大丈夫です…?」
私の奇声がおかしかったのか疑問形で断ったのがおかしかったのか、ハハッなんて笑いながらバーガーにかぶりついた後、何かに気付いたのか一瞬だけ間が空いて。ゴホッ、なんて噎せながらコーラで流し込む甲斐さん。……気付いてくれて良かった。
「へ、変な意味じゃねぇかんな!」
「ふ、ふふ。あはは!分かってますよ。ふふ、あーおかしい」
「……笑いすぎやし…」
冷めない内に頂こう。大きく口を開けばくりとかぶりつく。ううん、美味しい。口の端についたソースを親指で拭いぺろりと舐める。
「やー、豪快だな」
「……お上品に食べるべきだったかも…。もしかして遅いですか?」
「しっかり見ちまったからなぁ。わんは豪快に食う方が好きやし。いいと思うぜ」
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
美味しい。こんな美味しいもの、ちょびちょび食べる方が難しい。セットのポテトももちろんほくほくで美味しい、因みに飲み物はコーラだ。デブまっしぐら。
「そういえばよ、やーは六角のテニス部の奴らとどういう関係なんだ?試合見に来てたらしいけどよ」
「んぐ、えっと。レギュラーだったみんな、小さい頃からの顔見知りなんですよ。と言っても小学生ぐらいの頃からですけど」
「はー。わんも昨日一緒にいた木手とは幼馴染さあ」
……どうやら、まあ。薄々勘づいていたが、同い年らしい。嘘だろ、あのヒゲ。
「ふふ、そうなんですね。……甲斐さんが戦ったサエ…佐伯。アレとは一応物心着く前からずっと一緒で、一緒……」
「ぬーなんば?」
「……ううん。なんでもないですよ。ずっと一緒って言っても、実はみんなと高校違うくって。今どうしてるかなぁ」
不思議そうにこちらを見た甲斐さんに、曖昧な笑顔を向けるしかない。
……うっすら、本当に。多分だけど、私はサエのことがずっと好きだった。……恋愛的なアレで。かと言って『幼馴染』という心地好い関係を崩せなくて、ズルズルと続いて中学三年の秋。サエに彼女が出来たと噂で聞いた。
いや、結局本当に彼女かどうかは知らないけど……最近あの子と仲良いんだって〜と聞いて、というか見て。邪魔はできまい、なんて初めての失恋と多少の気まずさで進路希望先を変えてみんなとは別の高校に来た訳だ。
ずっと、サエが産まれてからずっと一緒にいた。幼稚園も小学校も中学校も、全部で十五年間。初めて、彼の居ない時間を過ごしているけれど、それももう二年経つらしい。吹っ切れたと言えば吹っ切れたのか、ただ強がっているだけか……それは自分自身にも分からないけど。
「……うりやか、やーのこともっと教えて欲しいさー。ぬーが好き、とか」
「……ずっと気になってたんですけど。もしかして、「やー」って私のことですか?」
「……ずっと、伝わってなかったあんに?」
「に、ニュアンスで話聞いてました……」
あせあせ、と少し挙動不審かも。わかんないことがあったらわかんないって言えばいいのに、私の悪い癖だ。今だって「うりやか」ってなんだろう……って思ってるぐらいだし。
そろりと目線を上げてばちりと視線同士がぶつかれば、どちらからともなくぶはっなんて吹き出してしまう。
「あー笑った笑った!そういやさ、やー…都はなんでずっと敬語なんば?わんと話すんに、遠慮なんか要らねぇよ」
「え、遠慮……」
確かに、ずっと敬語だったかもしれない。というのも仲の良い同い年の男の子……となると対象があの六角のメンツしか居ない。それ以外はまあ、君付けに敬語だったりちょっとタメ口混じりだったり…。
遠慮がない異性の友達……となると、サエとか亮とかになるのだろうか。コホン、と小さく咳払いをして彼らと話していた時のことを思い出す。
「え、ええっと…。私、本読むの好きなんだけど…ゆ、裕次郎はさ。趣味とかある?」
「ぶっ!は、わ、わん…はビーチフェス行ったり、友達とだべったりするのが好きやし…!」
「へっ、え〜!そうなんだぁ……!」
……距離感、間違えた?もしかして。もしかしてだけど「甲斐くん」とかから攻めていくのがベターだったのだろうか。
おかしな会話に多少ギクシャクしつつ、既に食べ終わっているバーガーが包まれていた袋を小さく折り畳みながら反省。わ、私ってやっぱり愚か……。
「……甲斐くんは」
「裕次郎」
「……甲斐く」
「裕次郎」
「……ゆ、裕次郎は……って、何!その顔!笑ってる!」
恥ずかしさに負けて、呼び方を「甲斐くん」にすれば割と食い気味に訂正されてしまった。……まあ、甲斐さん…もとい裕次郎自身が嫌じゃないなら。慣れるまで少し時間はかかるだろうけど、そのまま頑張って呼び続けるとしよう。
なんて恥ずかしい思いをしたあとだ。多少は名前で呼ぶのもなんてことなくなって、お互いの事について話す。
なんでも裕次郎、沖縄武術を小さな頃からしているらしい。特にトンファーを使うのが得意らしいけど、トンファーなんか龍が如くでしか見た事ない。そう言って笑えば「今度見せてやるよ」なんて裕次郎も笑っていた。
気付けば会ってから一時間半も経過していた。時間も無限ではない。今回の目的は美味しいバナナオレを飲みに連れて行って貰うことだ。早速バーガー屋さんを出て目的のバナナオレのお店を目指す。
「何時にホテル帰るんだば?」
「えっと、二十時半くらいには帰らなきゃいけないかも」
「じゃあ後一時間半ぐらいか。…あー、時間経つのが早いんど〜」
「ね。裕次郎と話すの楽しくてほんと一瞬だよ」
「……そーか」
ふい、と顔を逸らした裕次郎。どうしたのだろう、と顔を覗き込もうとしても避けられてしまう。
ぐぬぬ、なんか悔しいな。もう一度覗き込もうとすれば「こら」なんて怒られて。
「変な裕次郎」
「都が悪い」
「えっ、ごめん」
「ハハッ、嘘やし。もう後ちょっとだし、ほら!行こうぜ!」
「わ、えっ。走る感じぃい!?」
突然手を取られたかと思えば、にぃっと笑った裕次郎は走り出す。なんて、彼にとっては小走り程度だろうけどまず元の足の長さと運動能力が違う。私、運痴だぞ……!
なんてお店に着く頃はゼェハァと肩で息をしてしまう。こんな短い距離でしんどいなんて、もう少し体力をつけるべきだろうか。
「やー、体力ねぇな」
「もっ……ダメ、はあ。疲れた。あ〜、裕次郎のばか」
「もう少し運動した方がいいさあ。ほれ、飲みな」
「ありがと〜…つめた。ん…んま!えーっ、もっと早く知りたかった」
「また飲みに来たらいいだろ。そん時は付き合ってやるぜ」
バナナ、たまに食べると美味しい。めちゃくちゃ気に入ってしまった。明日千葉に帰ってしまうのが悔しいくらい、千葉にも同じお店出来たらいいのに。
バナナオレのお金を渡そうとしたのに受け取って貰えず「次奢ってくれ」なんて言われてしまったら、もうお言葉に甘えるしかない。
「んーまだ時間もう少しあるなぁ」
「行きたいとことかあるんば?」
「昨日買えなかったし、お土産買おうと思ってて」
「付き合うぜ」
「ほんと?ありがと!」
なんて飲みかけのバナナオレを持って歩き出す。どのちんすこうが美味しいだとか、昨日自分用に買った紅芋タルトが美味しかった…って言ったら「お土産もう食うとか、やー食いしん坊さあ」なんて笑われたり。
適当なお土産屋さんに入ってご近所さん用に物色していれば、裕次郎はふらりと傍から居なくなってしまった。とりあえずお土産を選び会計を終わらせて店の外に出ればすっと戻ってきた裕次郎。
「どこ行ってたの?」
「うり、くりやるよ」
「えっ、わあ。綺麗……いいの?」
「いいさあ。わんとやーの思い出やし」
深い青色の綺麗なまぁるいガラスのキーホルダー。そういえば、琉球ガラスなんてものを見たかもしれない。それなのかな?
キラキラとしていて綺麗。だけど、きっと自分では買わないだろうしこれは良い思い出になる。裕次郎にはいっぱい感謝だ。
「ありがとね」
「おう!……っと、時間大丈夫かよ」
「……ありゃ、そろそろ帰らなきゃ」
「送ってくぜ。どこんホテル泊まってるんば?」
ホテルの名前を伝えれば本当に近くまで送ってくれるらしく、ちょっと不安だしこれもお言葉に甘えることにした。
並んで歩く内に少しずつ人通りも少なくなる。国際通りから近いところとはいえ、離れればこんなものか。
「なあ」
「ん?」
「……次はよ、いつ会える?」
「ええ、うーん……そんな頻繁に沖縄は来れないしなぁ……」
「じゃあよ!それなら、わんが都に会いに行くやし……そん時は、会ってくれるか?」
なんだかしょんもり、自信なさげに「会ってくれるか?」なんて聞かれてしまった。別に、嫌な訳じゃなければ断る理由もない。
「もちろん」と伝えれば裕次郎は嬉しそうに笑って小指を差し出す。
「約束な!」
「ふふ、うん。指切りね」
指切りげんまん、なんて小指を絡めて今度の約束。千葉に来た時はどこに連れて行ってあげようかな。……まあ、あまり遊べるところも思い付かないし……海くらいだろうか。沖縄の人を?海に?うーん、予定が出来るまでしっかり悩んでおこう。
「ここまででいいよ。ごめんね、送ってくれて」
「夜道は危ねぇし、男として当たり前の事をしたまでだろ」
「あはは、頼もしいね。じゃあ……またね」
「おう、やーさい」
そう言って手を挙げた裕次郎に首を傾げれば、裕次郎は私が分かってないのに気付いたのか「またな!」なんて言い直してしまう。
「ふふ、やーさい!……であってる?」
「ふは。女はやーたいやし。言っちみれ」
「そうなんだ!じゃあ、またやーたい!」
そう言ってブンブンと手を振ればそんな姿がおかしいのか裕次郎は笑いながら手を振り返してくれる。
ひとしきり手を振ったあと、ホテルの方に向かって歩き出せば「待っち、都!」なんて声が聞こえてきて。振り返れば裕次郎がこちらに向かって歩いてくる。
「どしたの?」
「あのよ。でーじ、かなさんど。……都のこと」
「……えっと?」
「そんだけ!じゃあ、おやすみ」
「えっ、うん。おやすみ!」
嬉しそうな、なんだか少し悲しいそうな。くしゃりと笑った裕次郎に「でーじ、かなさんどって何?」なんて聞けなくてまた手を振りホテルへと歩き出す。
何度かちらりと後ろを見たけれど、見えなくなるまで裕次郎は手を振っていた。……ような気がする。
────────
ホテルに帰れば当たり前のように根掘り葉掘りで少し疲れた。いっぱい歩いたし、そろそろ寝たいのだけども。
「あ、ねぇ」
「どうしたの?」
「でーじ、かなさんど。ってどういう意味だと思う?」
「…さあ?明日最後だし、ガイドさんに聞いてみたら?」
「それが安牌か。そうしよ。ほら寝るよ〜」
そう言って強制的に電気を消せば「えー!」なんてブーイングが聞こえるけれど、それを無視して目を閉じる。疲れていたのかそのまますぐに寝落ちしまった。
翌日、最後の観光中。ちょうどガイドのお姉さんも暇そうになったし、なんて友人を連れたって話しかける。
「沖縄の方言について聞きたいんですけど、今良いですか?」
「どうしたの?」
「でーじ、かなさんど。ってどういう意味になるんですか?」
「でーじ、かなさんど」その言葉を聞いたお姉さんはあら!なんて顔をして楽しそうに私に向かう。
「誰に言われたの?」
「その、沖縄で仲良くなった子に……」
「ふふ、でーじは「とても」で、かなさんどーはね。うふふ、「好き」とか「愛してる」って意味だよ。告白されたのね〜」
「うぇ、」
昨日のあの時を思い出す。思い切った様子の勇次郎、意味を教えてくれなかったしもしかして。本当に?
なんて考えた瞬間、ぼぼぼと顔が熱くなったような気がして。「嘘!?きゃー!」なんてはしゃぎ回る友人を横目に、嘘でしょ……?なんてパタパタと手で顔を扇ぐのだった。
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