最近、試合の度に見かけるあの子は誰なのか。真っ黒な長い髪、基本的には私服で誰かを見ているようだった。
 六角中にあんな子はいなかったはず。ふと隣に立っている佐伯に話し掛ける。

「ねえ、あの子…今スマホいじってる子、あれ誰のファン?」
「あー、俺のだよ」
「あっそ、ふーん」

 なんだ、佐伯のファンか。爆速で興味なくなっちゃったな。
 ちょうど試合の終わったバネさんとダビデがベンチに戻って来る、それと入れ替えでコートに入った佐伯。その子のいる方に向かい手を振っているがファンの子は軽く手を挙げただけだった。あれでほんとにファンなの?佐伯の妄言?

「バネさん、あの子佐伯のファンらしいんだけどほんとにファンだと思う?」
「さあな、でも確かにいつもいるよな」

 二人して首を傾げてみるけど真偽は定かでは無い。まあ、佐伯のことだしどうでもいいか。

────

 完全にやらかした、辺りを見回しても見慣れた赤いジャージ達はどこにもいないし完全に迷子だ。
 六角の試合ってどこだっけ、なんて考えながらフラフラと彷徨い歩いてみるけどここがどこかも分からない。もう諦めて家帰ろうかな。

「…あの、どうしました?」
「えっ、何が…?」
「あっ、えっと、さっきから…その、誰か探してるみたいだったから……?」

 不意に後ろから声をかけられ振り向けば見知らぬ女の子。
 どこかで見た事あるようなないような、失礼かもしれないけどじぃっと顔を見つめてみればピンと来て思わず声を上げる。

「あ〜!あれだ、佐伯のファンの子!」
「…へ?佐伯って…六角の佐伯虎次郎?」
「そう、その佐伯虎次郎」
「違いますよ……?」
「え!?違うの!?」

 お互いポカンとした顔をして会話が噛み合わない。傍から見たら間抜けがすぎる。
 チラリと時計を見ればもうすぐオーダーを出す時間だ、早く行かなければ…いやでも私迷子だったな…。そうだ、この子佐伯のこと知ってるっぽいし場所分かるかな。

「六角中どこで試合か分かる?」
「ちょうど向かおうとしてたから…良かったら一緒に行きます?」
「ほんと?めっちゃ助かる」

 「あっちです」なんて私が進もうとしていた反対方向を指さして歩き出す。
 ……帰ろうかな、やっぱり。

────

 ──彼女は大和田都と名乗り佐伯の幼馴染で、佐伯に毎度の如く誘われて試合を見に来ているらしい。
 なんでも行かないと言えば「どうして?」なんて鬼のように連絡が来るらしく、それが面倒で毎回見に来ている…そうだ。
 やっぱり佐伯のファン発言は妄言だったみたいだ。

「サエがお世話になってます…」
「いや、都ちゃんの方が大変じゃん…苦労してるね…」
「そうだ、まりちゃんって、テニス部のマネしてるの?」
「いんや、帰宅部。オジイ…顧問のヘルパー?」
「なる…ほど…?」

 私もなんでテニス部とつるんでマネージャーみたいなことをしているか分からないからその疑問は真っ当だ。
 そうこう話している間に六角の赤ジャージが見えて来た。

「ごめんね、ありがとう」
「ううん、無事連れてこれて安心した!」
「……あ、そうだ。大会終わったあと、多分バーベキューするんだけど一緒においでよ。って言っても千葉まで戻るんだけど」
「え…いいの?私…完全に部外者だけど…」
「女ひとりで肩身狭いしさ、来てよ」

 恒例のバーベキューに誘ってみれば「じゃあ…」と嬉しそうにはにかんだ都ちゃん。手を振って都ちゃんと別れベンチの方へ歩き出す。
 何気ないところで良い子と知り合ってしまった。それでも恥をかかされたから佐伯は絶対に許さないんだけども。


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