✤そのいち




きっかけはなんだっただろうか。
薄ぼんやりと覚えているのは、同窓会だなんだと言って四天宝寺のテニス部で飲んだ帰り。昔と変わらずふらりと居なくなる千歳が何故か気になった。ほんとに居なくなって、もう会えなくなってしまいそうな気がしたからかもしれない。
後ろを着いてきた私を見て大層驚いた顔をした千歳は「心配しすぎばい」なんて笑っていた。
その後は何となく、ふたりでバーに入って少しだけ飲んで、その後は……、

────

この連絡が全てを物語っているのかもしれない。

『20時にいつもんとこで待っとる』

『わかった』そんな簡素な一言だけ残して画面を暗くする。
こんな関係いけないなんて分かってはいるけれど、こんな事でしか千歳を繋ぎ止めれない気がしてズルズルと続けてしまっている。
昔からふらりと消えてしまう千歳を探すのは私の役目だった。オサムちゃんに頼まれたこともあり、四天宝寺に入ったばかりの千歳のことを探してばかりいた。

──あの日の夜。酔った男女ふたり、終電を逃した夜中の繁華街をうろつけば行き着く場所なんてひとつしかなかった。
酔った勢い、ご無沙汰だった、そんな雰囲気で、言い訳なんて沢山出てくるけどあの時のことが無くなる訳では無い。

予定の時間より少し前、スマホを鳴らせば珍しくすぐに電話に出た千歳。

『もう着くよ。どの辺?』
「ここばい」
「わっ、びっくりした。急に声かけんといてや」
「ついたまがらせたくなってしもうて」

へらりと笑った千歳に小さく溜息。
くいと手を引かれ目的地まで慣れた道を歩き出す。この二ヶ月くらい、何度も歩いた道だ。
いつものホテル、似たような部屋。鍵を受け取りエレベーターに乗り込めば繋いだ手を指でするりと撫でられる。怪訝な顔で千歳を窺えば楽しそうに笑っている。

「お風呂どぎゃんする?」
「先入ってええ?」
「分かった、ゆたーっとしてよかばい」

お言葉に甘えてゆっくり入りたいところだけど明日も仕事だ。そんなゆっくりしてから事に及び家に帰るなんて面倒でできない。
サッと身体を洗い出ようと立てば開け放たれた扉と入ってきた外気にぶるりと身を震わせる。

「げっ、なんで入ってくんの!」
「一緒に入ったっちゃよかやろ」
「やだよ、私もう出るよ」
「髪洗わんと?」
「だって、どうせさっとヤってまたお風呂入って帰るんだしいいじゃん別に今洗わなくても」
「今日宿泊にしとるしそぎゃんもだえんちゃよかばい」
「……なんて?」

湯船に浸かるつもりなのかお湯を溜め始める千歳。
たまに方言キツくて聞き取れないんだって何回言えば分かってくれるのか。
まあいいや、なんてお風呂から出ようとすれば千歳に腕を引かれ気付けば彼の腕の中だ。
30センチ以上はある身長差のせいですっぽりと包まれて、身動きが取れずにじっとしていれば「行かんで」と囁いた千歳。

「今日、勝手に宿泊にしたん?」
「うん」
「明日仕事なんやけど」
「朝起こしちゃるしよかやろ?」
「千歳が起こせるとは思えんのやけど、それにどっちにしろ一旦帰んなきゃだし」
「じゃあ帰ったっちゃよかけん、まちっとだけおりなっせ」

正直、ドキリとした。
いつもなら適当にヤって解散が当たり前なのに、まさか「もう少しだけ居て」なんて言われるとは思ってもいなかった。

…始まりは身体からだったかもしれないけれど、いつの間にか好きになっていた。
厳密に言えば学生の頃も好きだったのだけど、大人になるにつれソレは学生の頃の思い出の一部でしかなかった。
進路が分かれて会わなくなって、大人になり他に恋人ができたりで忘れていった想いだった。この前の飲み会の日から会って身体を重ねる度に、気が付けば当時の好きという想いがふつふつと湧き上がっていた。

「……分かった、もうちょっとゆっくりお風呂入るから離して」
「髪も乾かしちゃるばい」
「それじゃあお任せしようかな」

宣言通り髪を洗い湯船に入り疲れを癒す。仕事で疲れていた身体がほぐれるような感じがして気持ちがいい。

「俺もお風呂入ってよか?」
「どうぞ」
「あ〜、きしょくよかね」
「ね、湯船浸かって良かったかも」

流石ホテルのお風呂というか、浴槽が広くてふたり入ってもまだある程度は余裕がある。
そういえば、千歳とお風呂入るの初めてかもな…なんてぼんやりと考える。

「都」
「…ん?」
「ここ来なっせ」
「えぇ…」

ニコニコと自分の膝の間を指さす千歳。
なんか嫌な気がするなぁ、なんて考えながら言われた通りに座って千歳に背中を預ける。
後ろから手を回されぎゅうと抱き締められてまたドキリと心臓が高鳴ってしまい、そんなちょろい自分が恨めしい。
首筋に顔を埋めた千歳の息が擽ったい。

「こそばいんやけど」
「よかやろ、たまには」

大きな手はスルスルと上に持ち上がり大して大きくもない膨らみをやんわりと揉み出す。
主張も控えめな頂を指でカリカリと擦られて思わず吐息が漏れ出てしまう。

「お風呂でとか嫌だよ」
「悪かわけなか」
「んっ、ちょ…と、!」
「お湯ん中なんにここだけヌルヌルしとる」

いつの間にか脚の間に移動していた左手の指は私のナカに侵入するべく入口辺りでやわやわと動く。
少し、こうなることを期待していたからかもしれない。それでも恥ずかしさには勝てず俯き快感に耐えるように口を結ぶ。
ぐりぐりと硬いものが腰に当たるけど、それを指摘する言葉も出ない。

「声ば我慢せんちゃよかたい」
「だ、って…反響してッ……」
「聞かせて欲しかね」
「っ、ちと…せの馬鹿…!ひっ、ん…!」
「…きしょくよかねぇ」

ナカを擦る指は次第に本数を増やし動きを早める。縋り付くものもなく背中を丸めてただただ快感から逃げるだけだ。

「逃げちゃいかんばい、なあ都」
「や、だめ…っ……!あっ、んんっ……!」

ビクビクと身体が震えて気持ちいい感覚が身体中を駆け巡る。そんなふうに果ててしまった私を見て「むぞらしか」なんてにやりと笑う千歳。
力も入らずくったりと千歳に身体を預けてぼうっと揺れる水面を眺める。

「都?」
「ん」
「そろそろ風呂出ろうか」
「……髪、乾かして」
「ん、立ちなっせ」

何とか立ち上がり出る前にシャワーを浴びてバスタオルを手に取る。丁寧にタオルドライをして身体を拭いて…ちらりと千歳を窺う。マイペースに自分の髪の毛を雑に拭いている。
まあ、いいかなんてドライヤーを手に取りスイッチを動かせば大きな音と共に温かい風。
ドライヤーを持つ手に千歳の手が重なる。千歳の方を見ればにこりと笑っている。乾かしてくれる気はほんとにあったらしい。

「髪ん毛きれかね」
「千歳はもじゃもじゃ」
「俺ん髪ん毛もよかやろ」
「ふわふわで最高」
「褒められたら照れるばい」

髪を梳く手が気持ち良い。撫でられてる気分だ。
手が空いたついでにパッとスキンケアだけ終わらせておこう。
それにしても千歳のドライヤー上手いなあ、なんて。

「千歳ドライヤー上手いな」
「まあ、ミユキん髪乾かしとったけんね」
「あー…えっと、妹さんやっけ」
「そうたい、むぞらしか子ばい」

そういえば中学の頃から妹さんの話をよくしていた気がする。
なんだかこんな話をしている時だけ、曖昧な関係なんか忘れて学生時代に戻ったような気持ちになる。

「終わったばい!」
「ありがとうね、お礼に千歳のも乾かしたげる」
「ほんなこつ?助かるばい。髪乾かすんやおいかんばいね」
「もうちょっと分かりやすく言ってくれない?」
「ん〜…、髪乾かすん面倒ばい!」
「なるほどね」

バスローブだけ身につけて千歳からドライヤーを受け取る。
デカすぎるが故に頭なんて届かないから座らせてふわふわの髪の毛に手を通す。鏡越しにニコニコとしている千歳が見えてこちらまでにやけてしまいそうになる。

「たまにはこぎゃんのも良かね」
「ふふ、うん。良かね」
「俺ん真似ばするのむぞらしかねぇ」

濡れてぺったりとしていた千歳の髪は段々と手触りの良いふわふわした髪になって、ずっと触っていたい。

「はい、出来たよ」
「ありがとう」
「ふわふわで気持ちいいね。犬撫でとるみたいやわ」

ドライヤーを元の場所に戻して先にベッドへと向かう。ふかふかのベッドの上に大の字で倒れ込めば思った以上に気持ちよくて眠気に誘われる。
あとからやってきた千歳がベッドに腰をかければ更に布団が沈む。

「眠とうなってきたと?」
「眠たいかも、今日ちょっと忙しくてさ」
「ふぅん」
「千歳、上の服着ないの?」
「すぐ脱ぐとに必要なかやろ」

下着ひとつの千歳は割かし目に毒だから上を着て欲しいところなんだけど。
すぐ脱ぐなんて、まあそれもそうだけどお風呂から出たすぐくらいはゆっくりさせて欲しい。
私の顔を覗き込み少し雄らしい顔した千歳にドキリと心臓は跳ねるけれど、まだ、もう少しだけ心の準備もさせて欲しい。

「もうちょっとゆっくりしようや」
「しょんなかなね」
「千歳のそういうとこ好き」
「都が我儘だけんね」
「そんなことないよ」

タプタプとスマホを弄りアラームだけセットしておく。多分、この時間なら家に帰って用意して会社向かえば何とかなるかな。
横に同じように寝転がりぼんやりとしている千歳に話しかける。話さないと眠たくなりそうだし。

「明日朝早く出ると思うけど大丈夫?」
「俺ん心配はせんでよかばい。明日休みやけんね」
「休みなのええなあ、私も休みたいわ」

そんな他愛もない話を続けていれば、自分でも分かるくらい瞼のくっつく時間が長くなってきたような気がする。
こちらへ向いて少し目を閉伏せて話を続ける千歳の声が心地好い。ここで意識を手放せば一番気持ちよく眠れるかもしれない。
それでも…なんて気持ちは大いにあるけれど明日も仕事だから少しだけ許して欲しい。
「…ごめ、」なんて聞こえるか聞こえないかくらいの声を絞り出せた気がする。そのまま意識を手放して深い闇の中に意識を沈めた。

────

パチリと目が開く。手探りでスマホを探し画面をつければちょうどアラームの鳴る五分前。ほんの少し損をした気分だ。
起き上がりたくて体を起こそうと試みるけど私にしがみつくように寝ている千歳が邪魔で起き上がれない。
……そういえば、中学生の頃もベッドではなく木陰だったけれど……こうやって一緒に寝て授業をサボったような気がする。そんなことを考えている途中、はっと昨晩の寝る前のことを思い出したけど、当初の目的をガン忘れでぐっすり眠ってしまっていた。
そうなるとなんだか起こすのが申し訳なくなってきた。いや、でも起こさないと間に合わない。
そうやってうんうんと悩んでいれば千歳もパチリと目を開けて起きてしまったようだ。

「よう寝た…。都はもう起きっと…?」
「……うん、もう起きなきゃ。ごめんね、約束守れなくて」
「都がよう寝れたならそれでよかばい」

そんなことを言ってふにゃふにゃと笑う千歳に余計申し訳ない気持ちが湧き出てくる。

「埋め合わせ絶対するから、本当にごめん」
「そぎゃん謝らんで良かばい。家帰ってからもう一眠りするけん帰る準備しよか」

のそりと起き上がった千歳に続き洗面所で顔を洗って歯を磨いてから昨日着ていた服に着替えていく。
思ったよりも部屋を出る準備は早く済んでほっも胸を撫で下ろす。

「お金は私が払うよ」
「いいや俺が払うばい」
「ダメ、今日は私が払うから」

そそくさと部屋を出てフロントに向かって陣取る。
支払いが済んだあと、千歳は困ったように「気にせんでよかとに」笑っていた。

「それじゃあ、私急ぐからごめんね。またね」
「おう、気ばつけて帰りなっせ、仕事がまだしなっせ」
「…うん、なんて?」
「仕事ば頑張って言うたったい」
「ふふ……ありがとう、じゃあね」

「じゃあね」の言葉に手を挙げた千歳は私とは反対方向に歩き出す。
そういえば千歳の家ってどこなんだろう、そんな疑問は時計を見たら一瞬で忘れてしまい家に向かって早く足を動かすのだった。



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