「みやこ、あの席空いてるよ」
「ほんとだ!先に席取っておくね」
お昼時、お弁当を忘れた友達について食堂に来てみたのは良いものの、沢山の人で食堂はごった返していた。
普段は教室でお弁当を食べているから呆気に取られていたけれど、ようやく見つけた席に座って友達が来るまでぼんやりと待つ。
5時間目は数学かぁ、復習したっけ?なんて考えていたら不意に頭上から声がする。
「あれ、みやこ」
「ん? あ、お兄ちゃん!」
ふと見上げれば見慣れた顔ともうひとつ。未だに直視できない顔にお兄ちゃんとは全く違う声。
「本当だ。今日は学食?」
「珍しいね」なんて続けてニコニコ笑った不二先輩。突然、憧れの先輩に声を掛けられるなんて思ってもおらず思考が纏まらない。
「あ、えっと」なんて要領の得ないことをごにょごにょと続けて、やっとのことで絞り出した声は震えた小さい声で。
「こ、こんにち…は」
「みやこ、どうした?顔赤いけど……。まさか、熱があるのか!?今日の部活休ん……」
「も、もう!お兄ちゃん!大丈夫だから!」
恥ずかしいやらなんやらで顔が熱くて堪らない。いつの間にか現れた英二くんはニヤニヤと笑っている。
この顔の英二くんは絶対に言わないで欲しいことを言う顔で。
「大石は分かってないにゃ〜」
「えっ、分かってないって……?」
「ちょ、英二くん!?」
英二くんをキッと睨みつけると「ごめんって〜 冗談だよん」なんて軽く謝られる。幸いお兄ちゃんは何も気付いてないみたいだから良かったものの…。
終始ニコニコとしている不二先輩の考えてる事は本当に読めない。
「ふふ、3人とも仲良しだね。ほら、大石、英二。みやちゃんのお友達も来たみたいだし僕達もお昼ご飯食べよう」
はっとして向かいを見れば困ったように笑う友人。
「ごめん!」なんて謝って不二先輩達に振り返る
小さく深呼吸して言葉を続ける。
「あ、の! それじゃあ、また部活で……」
「うん、また後で。午後からも頑張ってね」
ひらりと手を振って3人は席を探すためか歩き出した。最初、少しだけ声が裏返った気がする。
こんな些細なことでも緊張しちゃうなんて、未だにドキドキとしている胸。
「は〜、あの3人ほんとかっこいいね。…あ、もしかしてみやこって不二先輩の事す……」
「ちょ、やめてよ……!」
思わず友達の口を塞げば「んー!」なんて小さく声を上げる。ぱっと手を離すと少しだけ息を吸って吐いて胸をなで下ろしている。
「ごめんごめん、ちょっとからかいたくなったの」
「もう……」
ちらりと不二先輩たちが向かった方向を見る。
何度も、もう2年も名前を呼ばれているはずなのにまだ慣れない。「また後で。頑張って」だって。
さっきの言葉を何度も何度も反芻して意識してもにやけてしまう顔。
これなら午後の授業も頑張れちゃうな、なんて。
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