りょーかてゃ


───彼女は、貴族の娘だった。

大きな国から少し外れた長閑な街を纏める貴族。領主と領民の仲も良好であった。

そんな領主の元に十数年前に産まれた末の娘。蝶よ花よ……とまではいかないけれど、家族や使用人にたくさんの愛情を注がれ育ち、皆に愛される可愛らしい娘へと成長した。
名前はりょうか、彼女は少しだけ普通の娘とは違っていた。

花嫁修業、と称して行われる刺繍や社交界でのマナーについて学ぶより、屋敷中の本を読む方が好きだった。
多くの本を読みこの大きな世界を識ることの方が好きだった。
『本の虫』なんて揶揄う人もいたけれど、沢山の知識をつけてゆき……いつしかこの大きな世界を旅してみたい。そんな夢を持ち続けていた。

街に遊びに出掛けたとある日の事だった。
長閑な街に現れたのは己と歳の変わらない、旅をしている女の子だった。
少しだけ、話を聞いてみれば自分が想像しているより遥かに大きくて、素敵な世界中の話。
この辺鄙な田舎を出て外の世界を見てみたい、そう強く願う気持ちはさらに大きくなっていった。

この出会いは、まさに田舎に住む貴族の娘である彼女の運命を大きく変える程の出会いだった。
これは、外の世界に夢見る一人の女の子のお話だ。


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