とんりょ ヤクザパロ
最期、お父さんが逝く前に手渡された短刀…所謂ドスってやつ。こんなものが私に遺したものの一つだなんて、少し笑えてしまうよ。
ぎゅうと柄を握りしめる、ああ……手が震えている。……トントン、勇気をください。口煩いけど、優しくて私のとっても大事な人。
「お嬢!」
幹部や構成員がぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる。ああ、もううるさいなぁ。分かってるって。
「黙って!」
長くなった自分の髪をまとめて引っ掴んでドスの刃を当てる。
トントン、ごめんね、綺麗に結ってくれてたのに。毎日お手入れしてくれてたのに。
本当に、ごめん。なんて誰にも聞こえないくらいで呟いて、掴んだものを勢いよく切り落とす
畳の上に散らばった自分の髪の毛を眺めながら、下唇をぎゅっと噛み締めて。
「…涼香……!?」
「…トントン」
昔の呼び方になってるよ、トントン。
へらりと笑えば、ざんばらになった私の髪をみたトントンは目を大きく見開き息を止める。
あはは、やっぱり思った通りの反応だ。
「……あのね、お父さん…死んじゃった。だから、私がやらなきゃいけないの。私が、纏めなきゃ」
「っ…!若頭は、」
「跡目はあんなやつよりお嬢が継ぐべきだ!……オレたちだって、」
なんて語をとめた幹部に掴みかかろうとするトントンを制止する。
「やめて、トントン」
「でも…!」
「……ねえ、トントンきて」
呼べばいつも通りに傍に寄って、目の前で跪く。小さく息を吸って笑顔を見せる、私、笑えてるかな。
「私、これから戦わなきゃ。だからね、貴方はね…トントンだけでも、一生私の味方よ。わかった?」
「……はい、組長」
私の手を取り自分の頬にあてるトントン。そう、それでいいり
これからどうしようか、……とりあえず墨でも入れてしまおうか。お父さんと一緒の、とびっきりかっこいいのを。
「は、?親父が…死んだ?」
「さっき例の組に襲撃を受けて───」
耳に言葉は入ってこない
親父が死んだ、悲しい…それよりも先に思い浮かぶのはお嬢
「っ!お嬢は!?」
「うわっ!く、組にまだいるそうだ!お嬢は安全らしいが…ってオイ!どこに行くんだ!」
「お嬢の所しかないやろ!?」
こんなとこおる訳にはいかん。俺は早く、あの小さくて細い肩を震わせているだろう俺の…主人の元へ帰らないかんのや
心臓がいつもより早く、ドクドクと音を立てる
まだワーワーと五月蝿い組の中を掻き分けて奥へと進む
「と、トントンさん!お嬢はこちらに!」
「おう、ありがとう」
ここに、お嬢が…!
「…っ、!涼香様…!」
「…トントン」
つい、昔の呼び方が出てしまうあたり自分は焦っているのか
通された部屋の襖を開けて目を向ければ椅子へと腰掛け、ざんばらになった髪を垂らしながらドスを握るお嬢の姿
ゆらりと顔を上げ俺を見る鋭い目は、まるで…
震えた声でお嬢は続ける
「…あのね、お父さん…死んじゃった。だから、私がやらなきゃいけないの。私が、纏めなきゃ」
「っ…!若頭は、」
「お嬢の方が才能があんだ…!オレたちだって、」
つい、カッとなって幹部に掴みかかってしまう
が…声が詰まって何も言葉が出ない
「やめて、トントン」
「でも…!」
「…ねえ、トントンきて」
幾分か落ち着きを取り戻したのかいつもの俺を呼ぶ声
傍らに、寄り添うように腰を落とす
本人は笑っているのかもしれない。だけど潤んだ瞳で、震えた声で続ける
「私、戦わなきゃ。だからね、貴方は…トントンだけでも一生私の味方よ?わかった?」
「……はい、組長」
覚悟を決めたら最後まで貫き通す人、だ
こう言われてしまえば俺はもうついて行くしかない
お嬢の手を取り自分の頬にあてる
ああ、こんだけ震えとるやないか。二十歳そこそこの女の子にこんなに重いものを背負わせてしまって、ほんまどうすんのや
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