ぶちち軍パロみたいなやつ



かちゃり、キーを叩いて確定。
今回も案外呆気なかった……とは言え丸一日陽の光を浴びずにブルーライトばかりを浴びていた。
大きく伸びをすればパキパキと怖いくらい音が鳴る首と肩。
……お腹空いた、今何時だ…?時計を見てみるとちょうどお昼時。

確かあんずちゃんはいつものとこでバイトで、まりちゃんとモカちゃんは潜入とかなんとか言ってた気がする、多分。
それなら外に出てご飯でも食べようかな、ふらりと立ち上がり適当な服に着替えて外に出る。

「あっつ……」

季節はもう夏だ。袖を捲りあげれば普段外に出ないせいで全く焼けていない、病的に白い肌が太陽に反射して少し眩しい。
適当に家を出たのはいいけど、どこでご飯食べようかな。いつものカフェでいいかな、なんてぼんやりと考える。

────

カフェの中は涼しくて気持ちがいい。
額を流れる汗を拭き取りつつ、いつもの…窓際の席に座り早速注文。軽くサンドイッチとオレンジジュースでいいかな。
注文を繰り返したあと厨房に向かっていった店員さんを横目にスマホを開ければ、一日にして溜まった通知。
うひゃ〜、仕事のメール、結構来てるじゃないか……。先に運ばれてきたオレンジジュースを啜りながら片っ端から仕事のメールに目を通していく。
……あんまり大事になるような仕事は受けない、って言ってるのに来てるの、送ってきた奴は何確認していないお馬鹿さんなのだろうか。

「お受けできません、っと……」
「失礼します。サンドイッチです、ご注文の品は以上でよろしかったでしょうか?」
「あっ、はい。ありがとうございます〜」

外行き用の笑顔で店員を見送り小さく溜息をついてメールを閉じる。
ぱくりとサンドイッチにかぶりついて咀嚼。
はあ、食べ終わったら家帰って寝ちゃお…でもお風呂入りたい……そんな葛藤と戦いつつ店を出る。

「ん〜、もう少し元気あったら本屋でも行くんだけどなぁ」

小さく呟きまた溜息。グッと身体を伸ばせばまたバキバキと音が鳴る。
ダメだ、疲れすぎている…。ゲームの徹夜は大丈夫なのに仕事となると途端にしんどくなるなぁ。
これ本屋とか行くより整体とか行く方がいいのかな。

「うわっ、すまん!」
「ひゃっ!こっちこそ、よそ見してました……ごめんなさい…!」

普段なら絶対こんなことないのに、全く気付かなかった。
ぶつかった衝撃に驚きつつもぱっと顔をあげれば真面目そうな大柄な男の人。
ぽぅっと、眺めてしまう。彼にとてもよく似合う眼鏡、優しそうな雰囲気、抱きしめるのに丁度よさそうな身体の大きさ……なんというか、正直どタイプ。

「……?どうかしました?」
「い、いや!なんでもないです…!失礼しました!」

逃げるように去ってしまう、ああ顔が熱い…。
きっと、多分これは夏のせいだろう。パタパタと顔を手で扇ぎながら足早に家に向かった。

────

ぼうっとPCのモニターを眺める。
街中の監視カメラのハッキングなんて簡単なものだ。逆にこんなに簡単でいいのか?この街のセキュリティが心配になる…。
つい数時間前の映像を見ながら小さく溜息、素敵な人を見てしまったものだ。

「あれ?涼香ちゃんもう終わったの?」
「わっ!あ、あんずちゃんか……うん。お昼くらいに終わったよ〜」
「そっかぁ。おつかれさま!今日はハンバーグだからね!」
「やった、あんずちゃんのハンバーグ好き!」

……びっっっくりした…!画面、見られたかと思った…。
まあ見られたとしてといつものかな?くらいで終わるでしょ…多分。しらないけど。
少しずつカメラの映像を進めてあの男性の後を追う。

「う〜ん、我ながらストーカーじみてるなぁ……」
「ただいま〜」

モカちゃんの声がする。モカちゃん、やっと帰ってこれたのか。

「おかえりなさい……ってまりちゃんも?」
「ん、ちょっとそこでモカちゃんに会ったから一緒に帰ってきた」
「そうそう、まりちゃんがナンパから助けてくれて。まあら結局まりちゃんもナンパされたことになるのかな」
「な、ナンパ!?」
「まあ、この話はご飯中にでも」

あんぐりと口を開け立ち尽くす私の横をすっと通り抜けキッチンの方へ向かったモカちゃんと、思い出すだけで寒気がするのか腕のあたりを擦りながらまりちゃんが通り抜ける。
な、なんぱ…?

「待って〜!?その話今しよ!?」

2人の後を追い掛けるのだった。

────

「つまり、モカちゃんが男2人にナンパされててまりちゃんが助けたらもう片方にまりちゃんがナンパされたと」
「しかも男装してたのにバレたからね。ね、まりちゃん」
「ゾッとした」

ぱくりと一口大に切り分けたハンバーグを口の中に放り込む。
あっ、美味しい。数日ぶりに4人で囲む食卓はわいわいとしていてやっぱり楽しい。

「ふぅん。ナンパねぇ…?モカちゃんとまりちゃんに……ナンパかぁ…」
「涼香ちゃん?」
「ん〜なんにもないよ?ん、ご馳走様でした!」

料理を全てたいらげてお皿をシンクの中に置く。そのまま自室に向かいパソコンの前にどすり座りこむ。
先程まで触っていた防犯カメラの映像を夕方まで進めて全範囲を見ていく。
多分、あの2人が帰ってくる道ならここかなぁ…、なんて目星をつけながら絞り込んでゆきお城近くの大通り…の小道にはいる所。そんな所で2人を見つける。

「ビンゴ!って事はもう少し遡れば……」

ゆらり、画面の中で小さな荒いピンクが揺れる。モカちゃんだ。
金髪の男がモカちゃんに話しかけたと思えばすぐ側からスーツの男も映り込む。ということはこのスーツが恐らくまりちゃんをナンパした奴だろう。

「涼香ちゃん、やっぱり調べてたんだね」
「ぎゃっ!び、びっくりした……まりちゃん…」
「そうそう。この人たち」

私の部屋にある椅子をもう一つ横へ持ってきてそこへ座り一緒に画面を覗き込むまりちゃん。

「…この人たちがどっち方向に歩いていったとかわかる?」
「向こう…普通の住宅地ではない方向に歩いていってた。身なりもそれなりに良かったし庶民っぽくはなかったね。…そっちの草臥れたスーツの奴はさておき」
「はは。よっぽど嫌だったみたいだね?」

まりちゃんが指で示した方向の防犯カメラを追っていきほんと少し時間を進めれば案の定その道を歩いて行った男二人組。
時間的にほんとについ数十分前だろう。

「これ以上はカメラない?」
「……うん…こっち方面には絶対ないよ……だって、こっちはお城なんだから。すぐ行ったら衛兵いるし」
「…やっぱりなぁ……」

最後のカメラからフェードアウトしていく2人組を見送りパソコンから目を離す。

「国家とかお城の方のカメラとかPCには流石に触りたくないなぁ」
「だよね。強制もおすすめも出来ないね」

逆にハッキングされそうで怖いもん。国家レベルとなるとかけらの痕跡でも追いかけてきそうで……。
つまり、だ。お城に入れるということは少なからずあの人らは国の関係者…身なりからするとお偉いさんだ。
そんな人が一般人をナンパするのもどうかと思うのだけど。

「誰か分からない?」
「ん〜名簿とか見てみようか」

一度監視カメラの画面を消して全体の住民票を探し出す。
これかな?極秘、だって。極秘ならそんなすぐ見つかるようなとこに置いておくな!

「何分かかる?」
「ま〜…五分はあったら確実?機密だからな〜どうだろ。もっとかかるかも」
「さすが有能ハッカー」
「やってる事はクラッカーだけどね」

へらりと笑い座り直す。こういうのは脆弱性をつついた方が早いのだけど、ガチャガチャとキーボードと向かい合う。

「えいえーい、お役所様〜ここあいてますよ〜!」
「ウワ……犯罪者……」
「人のこと言えないよ〜!?」

宣言通りの時間程度で極秘情報が丸裸。
この辺に住んでいる大体の住人の情報は完璧に網羅出来ている状態……なんだけど。

「どこ見てもいないね、あ。私らの住民票だよ」
「あの人らの情報全くないね」
「んね、幹部だったりするのかなぁ?国が守ってそう…」
「そうかもしれないね」

悠長にみている暇はない。いつ見つかるか分からない。そろそろやめておこう、バレないようにしないとね。

「謎が深まるだけだったね」
「ね、……私が今日会った人もあんずちゃんがよく言ってるパーカーフードの人も全員ね、お城の方に向かって歩いていくの、偶然?」
「……さあ、目ぇ付けられてたりして」
「ありそ〜…」

私の場合はまあ偶然ぶつかっただけなんだけど、あんずちゃんの方に関してはもう何度もお店まで来ているらしい。
やだなぁ、なんか悪いことしてるのバレたのかな。

「どうにかした方がいいかなあ」
「まあまだ様子見でいいんじゃない?あんずちゃん以外今日が初めての接触だし。次なんかあったらどうにかしよう」
「どうにかできる相手だといいね」

PCをスリープにして椅子に凭れかかる。
謎が増えただけだった、それでも用心するに越したことはないだろう。
あのどタイプの人、嫌な人じゃないといいなぁ。



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