06
セドリックと別れ仕事部屋に向かう途中、教室から声がした。耳をそばだてれば、怯えるような叫び声が聞こえてきてセスは思わずその部屋へ入る。
「…………クィレル先生?どうかなされたのですか顔色が優れませんよ。」
部屋の中心で顔を真っ青にして蹲っていたのは闇対する防衛術の講師であるクィリナス・クィレルだった。
ひどく驚いたクィレルは、いつもの様にどもる事なく返事をする。
「……ノーザンバランド…くん。どうしてここに?」
「外まで声が聞こえましたので何かあったのかと思いまして、お邪魔でしたか?」
「いや………」
返事を濁したクィレルにセスは疑問を覚える。何かのっぴきならない事情があるらしい。
セスはポケットからハンカチを取り出しクィレルに差し出す。クィレルは驚いた様にそれを恐る恐る受け取った。
「ありがとう。す、少し休めば、落ちつきますから。」
取って付けたようにいつものどもり口調に戻ったクィレルは受け取ったハンカチで汗を拭き取った。
「……あ、洗って返しますね。あ、ありがとう、ノーザンバランドくん。」
「お気になさらず、差し上げます。何か飲み物でも取ってきましょうか?」
「い、いえ、大丈夫です。だいぶ楽になりましたから。」
クィレルはセスをまじまじと見て、口を開いた。
「ど、どこから聞いていましたか?」
怯えるようなその言い方はまるで小動物のようで、弱々しい。セスは、なにも。とだけ返した。
「何か悩み事ですか?僕でよろしければ聞きますが……。」
「いえ、大丈夫です……大した事じゃ、ありませんから。」
大分落ち着いた顔色に、これ以上いても彼の邪魔になるだけと感じたセスは深く聞く事なくお大事にとだけいって部屋を出ようとした。
「……君は。」
ささやくほど小さな消え入りそうな声でクィレルは言う。
「罪を犯した事は、ありますか?」
「は?」
唐突な質問に、セスは顔をしかめた。その罪とはどのような定義なのだろう。人を殺めること?だとすれば、魔法界とマグルとの平和の為、家の為、そして自分のためにいくつもの命をセスは天秤にかけ、そして手に掛けている。
それを罪だと定義するなら答えはYESだ。
しかし、セスはそれを罪だと思ってはいけない。しばらくその問いの答えに悩んだ後セスはきっぱりと答えた。
「ありません。」
その答えを聞いたクィレルの目は何かに縋るようにセスを見つめていた。
クィレルの部屋を出てからもセスはクィレルの態度が気にかかっていた。あれは何か隠している者の目だ。
目の前の書類をさばきながらもあの異常な怯え方のクィレルが頭の中をかき乱し集中できない。気がつけばベルナドットへ電話をつないでいた。
「もしもし、旦那?どうかしたんですか?」
「ベルナドット、調査を頼みたい。」
「……と言うわけだ。クィリナス・クィレルの身辺を徹底的に調べてくれ。」
「あいよ、あんたの鼻は効くからな徹底的に調べとくよ。」