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それは神の技が現れるための
優しい悲劇の読み聞かせ 03
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カタリ、とドアの方から音がした。誰かがそこにいるらしい。

「こんにちは、あなたも書庫にご用事かしら?」
「いや、えっとあの……」

この声はジョナサンだ。ディオから聞いたジョナサンは書庫に来るような人だったかしらとマリィは首を傾げた。
「……き、君と話しに来たんだ。ぼくは、君に謝りたくて」

君に謝りたくてと、真剣な声でそう告げたジョナサンにマリィはすこし驚いた。






マリィは書庫に1人でいた。何をするでもなく静かにソファに座っている。窓から差し込む日光がプラチナブロンドの髪をキラキラと照らしている。ジョナサンは初め、マリィを見て人形のような子だと思ったが改めてじっくりと見てみると天使のような子だとそう思った。
儚げで、触れれば脆く壊れてしまいそうな女の子。ジョナサンにはやけに辛く当たってくるディオが驚くほど優しい眼差しを向ける相手。

きっと僕が知らない長い時間を2人は共に過ごしているのだろう。引き寄せられるように、半ば無意識に一歩踏み出してしまいカタリと音がなった。

「こんにちは、あなたも書庫にご用事かしら?」

見えていないはずなのにマリィはジョナサンの方に体を向けながら話しかけた。
その動作があまりに自然でジョナサンは口ごもる。

「いや、えっとあの……」

「……き、君と話しに来たんだ。ぼくは、君に謝りたくて」

すこし驚いたような顔で、マリィは静止した。なんのことがよく分からないと言わないでもわかる顔だ。

「えっと、さっき失礼な聴き方をしてしまったから……」

なにを、とはジョナサンは言えなかった。
あぁ、と理解したように頷いたマリィはなんでもないように言葉を返す。

「本当に気にしていないから大丈夫ですよ。よかったらジョナサンもこちらにいらっしゃってくださいな。ディオがお茶を入れてくれているのだけれど1人ではすこし寂しくて」

そう言われて、ジョナサンは断ることも出来ずにマリィの横に腰を下ろした。落ち着かずにそわそわしていると、

「his disciples asked him, “why was this man born blind? Was it because of his own sins or his parents’ sins?”ー先生、どうしてこの人は生まれつき目が見えないのですか? この人自身の罪のためでしょうか、あるいは両親の罪のためでしょうかー」

「え?なんだって?」

「“It was not because of his sins or his parents’ sins,” Jesus answered. “This happened so the power of God could be seen in him.ーそれはこの人の罪のせいでもでも、この人の両親の罪のせいでもありません。このことが起こったのは、神さまの力がこの人の中に見えるようにするためですー」

「マリィ?」
いきなりそう呟くマリィにジョナサンは困惑する。マリィがなにを考えているのか全く想像がつかない。

「ヨハネの福音書第9章の一文よ。この後イエスはこの盲目の人の目を治す奇跡を見せてくれる。私はディオに出会った事で世界がわかったていて、私の盲目はきっとディオと言う神様にに会うためのものだったのだと私は思うの」

「ディオが神さまだって……?友達じゃなく?」

「そう。私に世界を教えてくれて、私に寄り添ってくれて、私に色を与えてくれた。きっとディオは私のことを友だなんて思ってないわ。だから、私にとってのディオも友じゃない。……私には神様以外にぴったりな言葉が思いつかないの」

ジョナサンはマリィの目は見えていないけれど心もきっとディオ以外みえていないんじゃないかと思った。盲信してる。

「君に友達はいないの?」

「きっといないわ。それに今はいらないの。本に囲まれて、物語に囲まれて、そしてディオが言葉を紡いでくれる。私はとっても幸せよ」

ジョナサンは思う。そしてそれが口から滑るようにして溢れた。

「そんなの、あんまりじゃないか」

「物語の世界だけなんて、外にはもっと美しいものも楽しいものもあるのに」

「友達も、なにもいらないなんてあんまりにも寂しいじゃないか」

静かにその言葉を聞いていたマリィがまるで突き放すような軽蔑するような声で呟く。
「貴方はとっても残酷ね」


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