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「ーーーもう一度聞くわね?自分より頭がよくて器量がいいって理由だけで自分より小さい子を虐めたご感想は?」
「ヒィィッ!!」
「あ"?悲鳴あげろって言ってねーだろ?質問に答えろやぶちのめすぞ」
唖然とする少年の目の前では、何時も何かしらで己につっかかる嫌みな奴等が軒並み地に伏し、主犯格の悪餓鬼の胸ぐらを片手で掴んだ見目が美しく華奢な少女がこれまた美しい笑みを浮かべて釘バットを握りしめていた。
もう一度いう。
華奢な少女が釘バットを握りしめていた。
「あなた達、この前はうちのかわいいかわいい弟に手を出したと思ったら今度は別の家の子に手を出すとか見境なさすぎるわ。そういう趣味があるならそれ相応の場所でお金を払って楽しんできたらどうです?」
「気持ち悪いこと言うなやァァア!ただ単にこいつが気に食わねーだけだから!!確かにお前んちの弟めっちゃかわいかったk「テメェやっぱりうちの弟そういう目で見てたんじゃねぇかァァァ!!!」へぶらっ!!」
「た、たっちゃぁああん!!?」
少女は持っていた釘バットを振り抜いて胸ぐらを掴んでいた悪餓鬼の横っ腹を殴り飛ばした。
“たっちゃん“と呼ばれた悪餓鬼は数メートル吹っ飛ぶと地に伏した。
「鬼女の桔梗がご乱心だー!!ずらかるぞ!」
「次は俺を踏んでください!」
「やーい、お前の母ちゃんくそ美人〜!!」
「言われなくても母さんは宇宙一の美人で聖母だわ!あと私にSMの嗜好は無いのでおととい来やがれください」
逃げていく悪餓鬼共に●指を立てた少女は、未だに唖然とする少年に向き直り自身の懐にしまっていた手拭いで少年の頬についた泥を拭った。
「大丈夫?怪我はしなかった?ほら、動かないで、泥ついてるわよ?」
「っ、ガキ扱いすんなっ!自分で泥くらい拭える!」
少女の手から手拭いを奪い取った少年は、そっぽを向いて不貞腐れた。
そんな態度の少年にも動じることなく、少女はニコニコと微笑むばかり。
少女に毒気を抜かれた少年は、間に入って助けてくれた少女に向けて小さく「……ありがとよ」と礼を言った。
「ふふっ、ごめんなさいね、小さなお侍さん。貴方ならきっとうまく立ち回れたでしょうけれど、あの悪餓鬼共…前に私のかわいいかわいい天使のような弟を虐めていたから、ついカッとなっちゃって」
困ったように笑った少女は、片手に持っていた釘バットをビュンッ!!とふると照れ臭そうに背中に隠し戻した。
もう一度言う。“背中に隠して戻した。“
「、」
「暫くはおとなしくすると思うけれど、また何かあったら言ってね。私、あの桜の木の坂の上にある家に住んでいるの」
「あ、おい!これ!」
走り出した少女にハッとした少年は、手拭いを返そうと少女の背に向けて声をかける。
振り向いた少女は少年に向けて手を振る。
「今度会ったときにでも返してね。高杉さん家の晋介くん」
ーーー私は、桔梗。桜坂 桔梗って言うの。
そう言って花のような笑顔を浮かべて坂の上に消えていった少女ーーー桔梗から奪い取った手拭いを握りしめた少年は、頬を仄かに赤く染めて暫くはその場から動けなかった。
「桜坂、桔梗ーーー…」
少女の名を口にした少年の名は、高杉 晋介という。
20年ほど後にその名を江戸の町で轟かす攘夷志士となるのだが、そんな彼が齢7歳にして初めての恋に落ちた瞬間であった。
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