日本上陸






某月某日某空港にて。
輪が飛行機から降りロビーへ向かえば、そこには
叔母である鴻上雪映が大きく手を振って待っていた。
雪映は輪の母親の妹にあたり、今日から輪に衣食住を提供
してくれる頼もしい女性でビルの2階と3階を借りており
3階は居住スペース、2階には探偵兼弁護士事務所を
構えている。二人の所員を抱えて操る美人所長(36)なのだ。

そして輪はというと、その能力を活かして探偵として
働くことを条件にされている。まあ、輪としては天職である。


輪が霊能探偵などという肩書きでアメリカ警察に協力
していたのには訳がある。輪は生まれつき人の心や思考が
読めてしまうという不思議な力を持っていたのだがそれは
母親の目には異端、畏怖の対象として映っていたらしい。
要するに、母親との折り合いが悪かったのだ。それを
知っていた雪映が気に掛けており、輪が高校を卒業して
すぐにツテを頼ってアメリカへと行かせたのだった。

そのツテと言うのが、マシューである。今年28歳になる
彼はアメリカ警察のお偉いさんを父に持つため、彼に
話をつけてもらったのだ。それもあってか、彼は輪の
お目付け役も兼ねていたと言っても過言ではなかった。


彼と現地で知り合った親友ミア・アカネ・ギルバートに
惜しまれながら見送られ、輪は13時間をかけて
ようやく日本へ帰ってきたのだった。


「お帰りなさいカミカゼ! アメリカ生活はどうだっ
痛い痛い痛い!」
「ただいま、雪映さん。私、その呼ばれ方あんまり
好きじゃないんだ」
「いてて……分かったわよ、もう」


輪は、“カミカゼ”と呼びれるのを好かない。
それは『神風』という言葉の持つ力が、あまりにも
大きいせいだった。

たとえ難事件でも輪が関われば高確率で解決する。
その業績に敬意を表してか、いつからか“カミカゼ”と
そう呼ばれるようになっていた。その度に膨らむ期待を
背負うのも、輪には荷が重かったのだ。


せっかく日本に帰ってきたんだから、羽を伸ばさせてよ。


そう伝えれば雪映は手を合わせてごめんと謝ったあと、
杯戸町に構えている事務所へと向かうべく輪の空いて
いる手を引くようにして空港内を駅へと進んだ。






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