懐かしい夢を見て起きた。もう一眠りするには目が覚めてしまっていたので気まぐれにバルコニーに通ずる窓を開けると、雪が一片迷い込んできた。魔法舎は対厄災などの結界を張ってはいるが害を及ぼさない程度の気象を無理に防ぐようなことはしておらず、こうして近い距離で
その花にも似た結晶はオズの高くもない体温に触れるや否や瞬く間に溶け、節くれだった指の間を滑り落ちていった。
呆気なさすら置かれなかった手のひらを握る。雪が溶けたら何になるとかつて賢者に問うたことがあった。賢者は春になると答えた。どうしてそんなことを尋ねたのか、その時の表情と声がどのようなものであったかはまったく思い出せないが。
雪は忌々しい。分け隔てなく寄り添うがごとく降り積もるくせに、澱みのように底に溜まらない。心地よくて、無邪気で。まるで賢者のようだった。賢者に向けた感情も、賢者からもらった言葉もすべて本当のことであるのに彼女の存在はこの世界に欠片も残っていなかった。
瞼を下ろし、ゆっくりと上げる。吸い込んだ息が肺を刺す。暦は冬の終わり間近で、雪との別れはこれになるだろう。城下の人間たちはようやく春が訪れると盛り上がるのかもしれない。
窓から離れ、自室へと踵を返す。決して軽くない足取りは近づくなと急かすように速く進む。
春が来る。
愛した女のいない春が。